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ただいま

母さん!


クルテルやサイラスと共に上空に避難していたサーヤは、無事に戻ってきたレーナの胸に勢いよく飛び込んだ。


「ただいま、サーヤ」


レーナは、腕の中の娘をぎゅっと抱きしめて囁いた。


「お帰りなさい、皆さま。ご無事で何よりでした」


クルテルが安堵の表情を浮かべて出迎える。

その後ろにはサイラスの顔も見えた。


「クルテル、ご苦労」


カーマインがクルテルに声をかける。

そしてすれ違い様に、一言、小声で囁いた。


「眼の代わりを引き受けてくれて助かった」


その感謝の言葉に、クルテルは笑顔と会釈で返した。

アユールもクルテルの頭をぽんぽんと撫でる。


「よくやった」


クルテルは照れくさそうに笑う。


「お安い御用です。防御層を張るだけではつまらないですからね」

「そう謙遜するな。それだけだって結構な量の魔力を消費するんだぞ。なのにお前ときたら・・・」


カーマインの眼の話はレーナたちにまだ伏せていたため、アユールもそれ以上の言及を避け、言葉を濁した。


今回、クルテルは上空で防御層を張ってサーヤたちを守りながら、遠見(とおみ)通心(つうしん)を使って視覚映像をカーマインに送っていたのだ。


「さすがは俺の弟子、大したもんだ」

「・・・恐縮です」


まんざらでもなさそうな顔で誉め言葉を甘受するクルテルは、なんだかいつもと違って年相応に見えた。


「・・・皆さんこそ、大変でしたね。・・・その、精神的に」


遠見で覗いていたからこその労いの言葉が、クルテルの口から洩れた。


「レーナさん、大丈夫ですか?


心配そうな顔でレーナに声をかける。


「ありがとう。私は大丈夫よ。・・・ちょっと疲れたけど」


そう言うと、腕の中の娘の顔を覗き込む。

その顔にいつもとは違った憂いの色が滲んでいる事に気付いたサーヤは、こてんと首を傾げた。


「ふふ、サーヤにはすぐにバレちゃうわね」


少し困ったように笑って。


「・・・ね、サーヤ。王さまが貴女に会いたがっていたの。もし貴女も会いたいのなら、今のうちにアユールさんに頼んで連れて行ってもらうといいわ」


サーヤはじっと母の顔を見つめる。


「・・・貴女が決めていいのよ」


その視線に気づいて、優しく微笑んだ。

だが、サーヤは、むうっと口を尖らせると、ぶんぶんと首を横に振った。


「サーヤ?」


レーナが問いかけると、さらに首の振りが激しくなる。


「おいおい、そんなに激しく振ってると、首がもげちまうぞ」


アユールは呆れ顔で注意すると、後ろからサーヤのほっぺたをむぎゅ、と両側から押さえつけた。


「?!」

「分かってるよ、お前の大事な母さんを守らなかったダメ親父になんか会いたくねぇよな? 今さら父親面するなって感じだよな?」


両頬をアユールに抑えこまれて赤面しつつも、ぐぎぎ、とゆっくり首を縦に動かした。


「・・・だってさ、レーナ」


ほっぺたから手を外して、アユールが笑う。


「もう、サーヤったら・・・」


もう一度、サーヤをぎゅっと抱きしめると「ありがとう」と小さく呟いた。



そして、もう追われる心配もないということで、再びマハナイムの屋敷に戻り、ひと段落がついた時、レーナがすっと立ち上がった。


「・・・カーマインさん。先ほど、城で聞いたお話のことですが・・・。お話ししてはもらえないでしょうか?」


緊張した面持ちで、カーマインを真っ直ぐに見つめながらそう言った。


「・・・」

「・・・?」


王城でのやりとりを知っている者たちと、知らない者たちとがそれぞれ無言で反応する。


「なにか理由があって隠しておられるのだと思います。私の記憶を操作したのも・・・恐らくは私のことを慮っての事なのでしょう。・・・それでも、私は本当の事が知りたいのです」


カーマインは、口を開いては、また何かを思うように閉じて。

話そうか話すまいかを迷っているのか、それとも、どこから話そうと考えているのか、とにかく、口を開きはするのだが、声にはならないまま、時間だけが過ぎてゆく。


「お願い・・・。たとえ私のためだとしても、貴方まで、私をいない者のように扱わないでください・・・!」


その懇願に、カーマインの眉がぴくりと動く。


「・・・申し訳ありません、レナライアさま。私の浅慮により、いらぬ心痛を与えてしまったようですね」


はあ、と大きく息を一つ吐き出すと、顔を上げ、背筋を伸ばした。


「実のところ、ランドルフたちからも苦言を呈されてはいたのです。それを私が意地を張ったために・・・」


眉根を寄せ、首を軽く振る。


「ですが、ようやく決心がつきました。すべてお話し致しましょう。王城での出会いも、あの夜、貴女に降りかかった災難も・・・そしてその時、私が行ったことも、全て」

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