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命の恩人 

「そうよ。私たちはその時に死んでいた筈なの。軽減魔法をかけてくれた誰かがいなければ」

「レナライア・・・」

「軽減・・・魔法・・・。やは、り・・そうだったか・・サリタス・・お前が・・」


相当な痛みの筈だが、サルマンの顔には笑みすら浮かんで。


「完全に、は・・かけ損なった・・とは、いえ・・よく軽減など・・する、気になった、な・・。命を捨て・・る気、で臨ん、だか・・」

「・・・余計なことを言うな、サルマン」

「はっ、・・そう、いえば、いつ、も・・お前は・・何かと・・第二、王妃、を・・気にかけ、て・・いた・・な」

「黙れ」

「・・・お願い。もう隠さないでください、カーマインさん」


サルマンを黙らせようと声を荒げたカーマインをレーナが制止する。

そしてレーナは、カーマインの背中にそっと手を当てた。


「変よね。私はうっすらとしか貴方のことを覚えてないの。私の記憶に・・・何かしたのでしょう? 私を・・・サーヤを助けてくれたのは、本当は貴方なんでしょう?」

「レナライアさま・・・」


即座に否定できないのが答えだった。


レーナは、眉を下げながら微笑んだ。

それはまるで泣き笑いのようで。


「私たちの命の恩人は・・・貴方だったのね」


そして、涙がひとすじ、レーナの頬を伝った。


「理由があって隠したのでしょう? きっと、貴方は今、バレてしまって困っているわね、・・・だけど私は嬉しいの。だって、ずっとお礼が言いたかったんだもの・・・」

「レナ、ライア? 何の話をしている?」


カーマインの背に手を添え、囁くように語りかけるレーナの姿に、焦りを含んだ声が投げかけられる。


「・・・ダーラス。貴方のために生きていた第二王妃は死にました。貴方の求めに応じて王家に嫁したにもかかわらず、貴方から助けの手を差し伸べられなかったレナライア・バンテランはあの夜、お腹の子と共に殺されました。今、ここにいるのは、この人の手でシリルやサルマンや貴方から逃れる事が出来た、只のレーナです」

「な、にを・・・?」


震える声でかけられた問いに、レーナは真っ直ぐに顔を上げて答えた。


「私は、もう一人の私の命まで、貴方に捧げる事はしない」


毅然とした姿だった。

威厳すら漂わせて。


バンテラン王国の民が、こぞって褒め称えた『王国の花』の姿が、そこにあった。


「ダーラス、今度こそ、王としての責を果たしてください。そして、次の王位は貴方の義弟君にでもお譲りください。私の娘には過ぎたものです」

「だが、レナライア・・・」

「王座は要りません。・・・あの子は、そんなものを欲しがってはいませんし、何より・・・次の王になってしまったら、あの子は好きな人と結ばれることも出来なくなるわ」


そう言って、ちらりとアユールに視線を送る。


アユールは照れ臭そうに頭をがしがしと掻いている。

その姿に、珍しいものを見た、とでも言いたげに、シェマンが目を丸くした。


「娘に・・会わせては・・・くれないか?」


項垂れたまま、ぼそりと呟く。


「一度は死にかけた命よ、・・・貴方の無関心さ故に。少なくとも、私は会わせたくない。・・・でも、本人が会いたいって言うのなら、連れて来るわ」

「そ、うか・・・」


王の口から力のない呟きが漏れた。

レーナは、眉を下げ、そんなダーラスの姿を見つめる。


「私、貴方のことが好きだったわ。優しい人だと思っていた。この人なら民を想う立派な王になると思ってた。・・・だから、今度こそ・・・民の事を考えて、この国のために尽くしてくれると嬉しい。そして、どうかこの国を前のように平和な国へと立て直してほしいの」


そう言って、レーナは臣下の礼を取った。

流れるような所作で、美しく、優雅な一礼を。


「どうか、これからの陛下の統治により、この王国に再び平安と安寧がもたらされますように」


そんな姿を、ダーラスは眩しそうに見つめて。


「・・・わかった」


小さな声で、だが確かに王は頷いた。




「・・・じゃあ、用も済んだことだし・・・行くか」

「そうだな」

「きっとクルテルくんたちも心配しています。早く戻って、安心させてあげましょう」

「あっ・・・と、そうだ。おい、シェマン」


それまで、黙って事の次第を眺めていたシェマンの方を振り返ると、その顔に緊張が走るのが見えた。


「なーに構えてんだよ? あのな、そいつの始末、頼んだぞ」

「は?」

「そいつだよ、サルマンだ」

「・・・? え?」

「責任もって、牢屋にでも放り込んどけ。お前、宮廷魔法使いなんだろ? ちゃんと仕事しとけよ? この先、王国の信用は、ダーラス陛下は勿論だが、お前の働きにもかかってんだからな」

「アユール・・・」

「じゃ、頼んだぞ。新・宮廷魔法使い長」


そう言って背を向ける。

シェマンは、涙を堪えようと、ぐっと唇を引き結んだ。


「・・・わかった。任せろ」


その言葉を背に数歩ほど進んだところで、アユールはくるりと振り向いて、意地の悪い笑みを浮かべる。


「・・・ああ、そうだ。言い忘れてた」

「・・・?」

「お前、後で4、5発殴らせろよ? 優しい俺は、それでチャラにしてやるからな」


その時、せっかく今までどうにか堪えていた涙が、シェマンの眼からどっと溢れ出した。


「・・・4、5発どころか、10発でも20発でも・・・殴っていいぞ・・・」


涙ながらに発した答えに、アユールは思わず、といった風に、はは、と笑った。


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