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その視線の向かう先

玉座の間に光と共に現れた四人を見て、シリルはいとも嬉しそうに目を細めた。


「おやおや、今回は予想以上の獲物が釣れたようだねぇ。お前の顔が再び見れるとは」


シリルがひた、と見つめるのは、アユールでもカーマインでもない。三人に、守られるかのように立っているレナライアその人だった。


「しばらく見ない間に、随分と貧乏くさくなったものだ。昔はあれだけ美しかったというのに」


真っ赤な唇が美しく弧を描く。

その眼には嘲りと侮蔑が滲んでいる。


「ああ、可哀想に。美しいお前にそれほどの苦労をさせた愚か者は誰なんだい? その甲斐性なしの名を教えておくれな」


そう話しながら、隣に座るダーラスに視線を送る。


「王も知りたかろう?」


問われた王は、瞳に驚愕の色を宿らせてぱちぱちと瞬いた。


「・・・レナライア?」


信じられない、といった表情で、王の口から小さな呟きが漏れる。


「生きていたのか・・・」


レナライアは、かつての夫の問いかけに答えようとはしない。

ただ、きゅっと口を引き結び、シリルたちを見据えるだけだった。


「・・・気に入らぬなぁ。なんだ、その眼は。市井に落ちた者が偉そうに王家の人間を睨みよって。王宮にいたときに、あれほど身の程をわきまえさせただろうに、愚かなお前はそれも忘れたか?」

「・・・もちろん覚えているわ」


少し青ざめながら、でも背筋をまっすぐに伸ばし、レナライアは口を開いた。


「全て覚えている。貴女がこの王国から奪い取ったものを。この国に足を踏み入れた瞬間から、貴女は奪い続けた。どれだけの人が苦しもうと、泣こうと、命を失おうと、貴女は奪うことをやめなかった」


シリルの目が険しさを増す。

その口から笑みが消え、表情は醜く歪んだ。


「数人の魔法使いに守られたくらいで、自分まで強くなったつもりかい? 浅いねぇ。この王宮にどれだけの数の兵士と魔法使いがいると思ってるのだ?」

「何人いようが、この人たちには敵わない」

「ほう・・・」


顔を引きつらせるシリルの横で、サルマンがすっと前に進み出る。

その動きに合わせて、アユールとカーマインがレナライアの両側に、背後にはランドルフが立った。


「もう良い。皆、出よ! この無礼者たちを殺してしまえ!」


シリルが金切り声を上げると同時に、玉座の間を囲む六つの扉が一斉に開き、兵士たちや魔法使いがなだれ込んできた。


ランドルフが、すかさず自分とレナライアの周りに防御層を張る。


剣を振りかざし、一斉に斬りかかる兵たちに、アユールは野性的な笑みを浮かべる。


「邪魔だよ、雑魚はおとなしく寝てろ」


そう言うと、アユールは広間全体に何本か雷光を落とす。


「あんまり俺を怒らせるなよ? うっかり国一つ潰しちまうかもしれないぜ?」


雷光で撃たれて倒れた者たちの体を踏みつけ、アユールは前に進む。


来させまいとして、宮廷魔法使いたちが四方から火球を飛ばす、が。


「弱い」


軽く片手を振って起こした風で、すべてが薙ぎ払われる。


「今日は薬を盛られてないからな。もう少し頑張ってもらわないと、すぐに終わっちまうぞ」


カーマインは氷結ですべての扉を塞ぎ、兵たちの侵入を止めた。

そして今度は、室内に残された兵や魔法使いの頭上に、氷柱を落としていく。


アユールやカーマインが何かを仕掛けるたび、それを相殺しようとサルマンが対抗魔法をぶつけはするが、現実、二人の実力に拮抗する能力者はサルマン一人。


ほかの宮廷魔法使いたちは所詮、烏合の衆であり、束になろうとアユールたちには敵わない。


結果、人数的には圧倒的に不利な筈の四人が、玉座の間に雪崩れ込んだ百を超える大勢の兵たち、魔法使いたちを圧倒していった。


その間ずっと、ダーラスは隣のシリルを止めるでもなく、ただぼんやりと眼前で繰り広げられる闘いを眺めているだけだった。


焦点の定まらないその視線が向かった先は、彼のかつての愛しい婚約者レナライア。

自らこの王宮に引き摺り込んでおきながら、守ることもできずに見捨ててしまった美しい第二王妃。


死んだと思っていた。

お腹の中の子と共に。


シリルの手で。サルマンの手で。

何も出来なかった自分の手で。


幼い時から自分の傍にいてくれた、特別な女性(ひと)だったのに。


・・・こちらを見ようともしない。


当たり前か、とダーラスは思った。


だが、それでも構わない。


生きていてくれた。

生き延びてくれた。


怒号が飛び交う中、凛と立つレナライアを、遠くから見つめながら。

玉座へと向かって来る二人の魔法使いに向かって、そっと願いを呟いた。


「守って、くれ」


醜悪なこいつらから。

意気地の無い私から。


どうか・・・どうか最後まで。


聞こえる筈のない、微かな呟き。

自分の耳にさえ、届かないような。


なのに、目の前にいる怒りに燃えた魔法使いは、きっとダーラスを睨み据え、大声を上げたのだ。


「いつまで傍観者を気取ってるつもりだ! 守りたけりゃ自分で守れ! お前は王だろう!」


その射抜くような眼に。

怒りを纏った声に。


ダーラスの胸は、どくん、と大きく鼓動を打った。

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