それぞれの決意
「え・・・?」
カーマインの言葉に、レーナは目を瞬かせた。
「・・・今まで黙っていたことをお詫びします。以前、貴女に聞かれたこと、あれは事実でございました。私と貴女は、王宮で会ったことがあるのです」
レーナの希望通りに王宮に連れて行ってシリルに会わせるのなら、過去の自分との繋がりもいずれ何処かで知ることになるだろう。
分かっていた。
何も知らずにただ笑っていてほしい、などと思うのは、自分の浅はかなエゴでしかないと。
この方は強い。
儚げなようで、その実しなやかで、どこまでも耐えてしまう。
そんなことは、出会った時から知っていたのに。
「そ、れは・・・」
「詳しい話は、戻ったときにいたします。今はひとつだけ。・・・私は、シリルの脅しに屈する形で王宮に出仕することになりましたが、そのときに身重の貴女にお会いしたのです」
「・・・そ、うなの」
「レナライアさま。貴女が王宮に行きたいとおっしゃるのならばお連れいたします。お望み通りシリルの前に、私がお連れ致しましょう。ですが、御身の安全のためにも、今から私の話す通りにしていただきたいのです」
「・・・わかりました」
「ありがとうございます」
そう言って深々と頭を下げるカーマインを、レーナはどこか呆然としながら見つめていた。
次いでカーマインは、それまで黙って様子を見守っていたアユールたちに顔を向けた。
「皆も、これから私の話すことをよく聞いて貰いたい」
◇◇◇
アユールは、遠見で王宮内をくまなく探っていた。
どこだ。
どこだ、サイラス。
頼む。無事でいてくれ。
地下の牢獄から、王宮の大広間、小広間、執務室・・・と一つ一つ注意しながら見ていくが、今のところサイラスの姿はない。
くそ、月光石を持たせておくべきだった。
そうすれば気配をたどることも、通心も可能だったのに。
焦りばかりが募っていく。
と、その時。
「・・・いた」
玉座の下にある隠し部屋。
その床に横たわるサイラスの姿を見つけた。
捕まえられる時に暴れたのか、多少の擦り傷はあるものの、ひどい怪我は負わされていないようだ。
隠し部屋の上、玉座の間には、すべてを諦め、すべてを捨て去った王、ダーラスがいた。
彼からすべてを奪い取った女、シリルと共に。
シリルの顔は、大切な客が来るのを待ちきれないとばかりに生き生きとしていた。
シリルの傍らにはサルマン、玉座の間の扉前にはシリル付きの侍女が控えている。
ダーラスが今回の件を知っているかどうかは、この際どうでもいい。
どうせ何が起きても、あの王は一切関与しないのだから。
サイラスのいる隠し部屋には、他に誰もいない。
・・・俺たちを呼びつけられたら、それでいいって事か。
こうなった以上、サイラスを取り返してもそのまま黙って帰ることはない。
アユールの性格を読んだ上での事だった。
「・・・よし、行くか」
まずはサイラスの救出。
サイラスが見つかったことを通心で知らせ、すぐに飛ぶ。
薄暗い隠し部屋の中、横たわるサイラスは光と共に現れたアユールの姿に安堵の表情を浮かべた。
「アユールさん・・・」
「悪かったな。俺たちのゴタゴタに巻き込んじまって」
両手足の縛を解きながら小声で謝ると、サイラスは恐怖を押し隠し、にっと笑った。
「最初に巻き込んだのは僕の方なんですよ。あの時、黒の森で行き倒れてた僕をみなさんが助けてくれなかったら、僕はとっくに死んでいました。それに、今の僕はカーマインさまの従者見習いです。これくらいでへこたれてたら、ランドルフさんみたいな立派な従者になれません」
強気な言葉に、思わずアユールにも笑みが漏れる。
「今の言葉、そっくりそのままランドルフに言ってやれ。きっと泣いて喜ぶぞ」
照れ臭そうに笑うサイラスの背に手を添えて立たせ、すぐに飛ぶ。
カーマインたちが待つ、王宮のはるか上空へ。
アユールの飛ぶタイミングに合わせ、カーマインが防御層を解き、中に入りこむ。
「サイラス! 良かった!」
空に浮かぶ、防護層で囲まれた空間。
そこでサイラスを待っていた皆は、彼の無事を口々に喜んだ。
少人数のハンデを最小限に抑えるため、上空に防御層で固めた空間を作り、そこでサイラスたちを守りつつ、王宮でシリルたちと対決する、それがカーマインの指示だった。
「では、クルテル。頼んだぞ」
「お任せください」
防御層に残り、守りを固めるのはクルテル。
アユール、ランドルフ、カーマインがレーナを連れて王宮へと飛ぶことになっている。
「レーナ、覚悟はいいか」
固い表情のレーナに今一度、確認の声をかける。
「レナライアさま、絶対に私たちから離れませぬようお気をつけ下さい」
「・・・ええ」
飛ぶに際して、アユールがレーナの手を取ろうとしたとき、横からカーマインが進み出て、すっとその手をレーナのそれに重ねる。
「では、参りましょう、レナライアさま」
「はい」
「・・・」
おい、こんな時に、初恋拗らせ男モードを発動すんじゃねぇ。
・・・と口に出して言わなかったアユールは偉かった。
「では、参りましょう。アユールさま、レーナさま、そして我が主人」
温かい眼差しでそんな彼らを見ていたランドルフの声が合図となって、四人はシリルたちの待つ王宮の玉座へと飛んだ。




