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覚悟

ドガッ‼︎


眩い光と共に、大きな稲妻が城の一画に突き刺さった。

一瞬で城壁の一部が崩れ落ち、城の内部が露わになる。


「何だ? 今のは何の音だ?」

「稲妻ですっ! 西の城壁に稲妻が直撃しましたっ!」

「城壁の一部が、かなり大きく崩落しておりますっ! 騎士たち数名が、瓦礫の下敷きになった模様・・・!」


再び、耳をつんざくような大音量の衝撃音がしたかと思うと、今度は東側の城壁に稲妻が直撃し、壁が大きく崩れ始めた。


「うわぁっっ!」

「今度は東だっ! 城壁の東側が崩れたぁっっ!」


慌てふためく騎士たちの声が、右から左から交差して、城内では情報も上手く伝わらないまま混乱だけが広がっていく。


その光景を一人、西の塔の頂から静かに眺める男がいた。

黒髪を風にたなびかせ、黄金色の瞳に怒りを宿すその男は、アユール・サリタス。


「みっともなく騒ぎまわって。あれで訓練を受けた騎士かよ」


眼下に見えるのは、指揮系統も何も全く機能していない、騎士服を着てはいるが只の有象無象で。


「到着の挨拶に一、二発落としただけなのに、騒ぎすぎだろ。こんなもんじゃ俺の怒りはまだまだ収まらないぜ」


ーー『まだか、アユール』ーー


不機嫌そうに呟いていたアユールの頭の中に、カーマインのぶっきらぼうな声が響く。


「ああ、悪い。今、探すから」


そう返すと、遠見(とおみ)を使ってサイラスの居場所を探す。


無事でいてくれ、そう願いながら。



◇◇◇



マハナイムの屋敷を取り囲んだ者たちを尋問して、予想通り、シリルの指示で動いていると知った。

そして、あちらがどこまで調べをつけたかも。


兵士たちは、黒の森にあった家を念入りに捜索し、手がかりとして王宮にいくつか持ち帰った。

そのうちの一つが、髪の毛だった。


それは美しい黄金色で。


艶もなく傷んではいたけれど、執念深いシリルにレナライアの存在を疑わせるには十分だった。

それと同時に提出された栗色の髪の毛が、シリルに何を想像させたかも。


子どもを産むことのなかったシリルにとって、その栗色の髪の主が嫉妬と殺意の新たな対象となったのは至極当然のことだった。


黒の森の家の所有者の名前は、二重三重に偽装されていてなかなか調べがつかず。

居住者は行方をくらまし、その顔を知る者もいない。


何もかもが不明とされていた。


ただ一人、その家の住人から薬草を分けてもらったという少年以外は。


聞けば、その少年は、当時仕えていた主人の手により一度は屋敷内に閉じ込められたものの、家の者たちが薬草を奪いに黒の森へ向かっているときに何者かの襲撃を受け、屋敷は半壊し、その少年もいなくなったという。


ただその場に残っていた数名の者たちの証言により、屋敷が半壊する前に黒髪の若い男が突然現れたこと、屋敷の上に大岩が降ってきたこと、そしてその後、男と少年が光と共に消えたことがわかった。


『黒髪の若い男』

『突然現れ、突然消えた』

『大岩が降ってきた』


アユールを知る者であれば、容易に彼の介入を推測できた。


黒の森の家に住むレナライアらしき女、栗色の髪の子ども、薬草を分けてもらった少年、彼を助けに来たアユールらしき魔法使い。


そこまで調べがついた結果、当然のこととして捜索の対象はサイラスに向けられた。




◇◇◇




「そう・・・。私たちが生きているとシリルが気づいて、それでサイラスまで狙われてしまったのね」


縛り上げた兵士たちから聞き出した情報を皆に伝えた時、それを耳にしたレーナの顔色は沈んでいた。


「・・・それで、あんたの気持ちは変わらないか?」


だいたいの事情が掴めた今、もう一度、アユールはレーナの考えを問うた。


それは数刻前、サイラスが攫われ、いずれ追手が来ることを予想したアユールが、レーナたちに他の場所に隠れるよう指示した時、レーナが口にしたことに対する確認だった。


「・・・お願いがあります」


レーナはそう切り出してから、こんなことを言ったのだ。


「アユールさんは、ここで追手が来るのを待つ、と言いました。もし・・・もし、その追手を差し向けたのがシリルだと分かったら・・・」

「レーナ?」

「そして、もし、私が生きていることに気付かれているようだったら、・・・私も王宮に連れてってはもらえないでしょうか」

「レナ、・・・レーナ、さん?」


ぎこちなく名を読んだカーマインの方に、レーナはそっと振り向いた。


「お願いします。・・・もう逃げてるだけじゃどうにもならない。私、あの人たちにどうしても会わなきゃいけない気がするの。どうしても言いたいことがあるのよ」


肩が小刻みに震えている。

顔色も真っ青で、今にも倒れそうだ。


なのに、真っ直ぐにカーマインたちの方を見て、目を逸らそうとも俯こうともしない。


「足手まといでしかないのは分かってる。我儘を言ってるってことも。・・・でも、お願い。私をシリルに合わせて」


アユールは、ちらりと叔父の顔を見る。

カーマインは渋面だ。


レナライアが望んでいることを、危険だからと退けるのは簡単で。

だけど、何かの理由があってそう言っているのも明白で。


レナライア自身が、ただ守られ、隠れていることを望まないのなら。

守りに配慮しつつ、願いをかなえる方法を考えるしかない。


カーマインは、ぐっと拳を握りしめた。


「・・・わかりました」

「叔父貴・・・」

「ありがとうございます」

「ですが、今から私が話す方法に従うとお約束ください。私は、今度こそ貴女を守らねばならないのです。・・・レナライアさま」

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