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大丈夫

「お前は誰だと聞いている。さっさと答えろ」


低く唸るような声。


怒ってる。でも、どうして?


その言葉に、その反応に、ただ驚いて、焦ってしまって。

ぽかんと口を開けて、見つめていたら。


「おい、口がきけないのか? 質問に答えろ。お前は誰なんだ?」


意図せず出てきた的を射た言葉に、こくこくと頷いた。


「・・・なんだ? 何が言いたい?」


サーヤは自分の喉のあたりを手で押さえ、口をぱくぱくと開けた。

それからまた、頷いて。


「お前、まさか・・・。本当に口がきけないのか・・・」


もう一度、頷く。


彼は大きく目を見開いて、それから軽く息を吐いた。


「・・・すまない。酷いことを、言った」


サーヤは、今度は首を、ぶんぶんと横に振る。


生まれたときからずっとだもの。

気にしてないよ。大丈夫。


・・・と言いたいけれど。


何も言葉が出てこないから。

その代わりに、思いっきり笑ってみせた。


でもアユールは、その笑顔を見て、さらに気まずそうに目を逸らしてしまう。

そのときに、やっと、サーヤの手にコップがあるのに気づいたようで。


「さっき水をくれたのは、お前だったのか・・・」


先ほどの剣幕が嘘のように、しゅんと困り果てた顔になって。


「その、・・・本当に、すまなかった」


それだけ言うと、それ以上話す言葉も見つからないようで、それきり黙りこんでしまった。


あらら、困らせちゃった。


別に気にしてないのに。

えぇと、どうしよう。どうしたらいいのかな。


・・・あ、そうだ。母さん!


サーヤはコップをサイドテーブルに置くと、両手を前に出して『待ってて』のサインを出した。

彼がサインを理解したのかどうかはわからないが、ぱちぱちと何回か瞬きをした後、とりあえず頷いてくれた。


どうやら彼が自分のサインを理解したらしいことを確認すると、サーヤは立ち上がって、勢いよく母のいる隣の部屋に駆け込んでいく。


「あら、サーヤ。どうしたの?」


縫物に没頭していたレーナが驚いて顔を上げて問うたが、サーヤは、ただ母の腕を取って、ぐいぐいと勢いよく引っ張って行く。


「あら、起きたのね」


サーヤに連れられて部屋に入ったレーナは、目を覚ましたアユールに声をかける。

途端に、アユールの顔に警戒心が浮かぶが、レーナは気にすることもなく、にこやかに挨拶した。


「この子はサーヤ、私の娘です。私はレーナと申します」

「・・・アユールだ」


意識は戻ったものの、起き上がることもできないようで。

アユールは一度起き上がろうとしてほんの少し頭を上げただけで、痛みに顔をしかめた。


「無理して起き上がろうとしないでくださいね。アユールさんは、もう3日も眠ってたんですから。何の病気かわかりませんけど、それだけ具合が悪かったんです。すぐに動くのは難しいと思いますよ」

「3日も、ここに・・・?」


信じられない、という風に目を大きく見開いたが、自分の体が1キュビツも動かせないことに気付いて納得したようだった。


「すまない。迷惑をかけた」


その言葉に、横のサーヤがぶんぶんと首を横に振る。


「気にしないでください。ほら、この子も迷惑じゃないって言ってるでしょ」


レーナが娘の隣でくすくす笑う。


「それに、最初に助けてくれたのはアユールさんの方みたいですし」


その言葉にアユールは当惑する。


「俺が? 助けた? それは一体・・・?」

「この子が教えてくれましたよ。ライガルから守ろうとして庇ってくれたって」

「ライガル? それは・・・あの大きな影のことか? ・・では、あのとき俺が抱きかかえたのは・・・」

「ええ、この子です。あの後、アユールさんはすぐに気を失ってしまったみたいですが」


アユールは、サーヤとレーナを交互に見ながら、思わず呟いた。


「そうか、気を失って・・・。あれから、3日・・・。しかし、どうやって、あのライガルから逃げられたんだ・・・?」


自分の額に手を当て、しばらく考え込んで。

それから、ふとあることに気づく。


「その話はこの子から聞いたのか? 口がきけないのかと・・・」

「この子は話せませんよ。でも身振り手振りで言いたいことはちゃんとわかります。13年も一緒に暮らしてるんですからね。何の問題もありませんよ」

「・・・そうか」


アユールは気まずそうにレーナから目をそらすが、レーナはそれをまったく気にする風もなく。


「え~と、お水は・・・飲んだみたいですね。お腹もすいてるでしょう? なにか消化にいいものを用意しますね。サーヤも手伝ってちょうだい」


それだけ言うと、まだ名残惜しそうなサーヤを引っ張り、台所に向かっていった。

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