三文芝居
「・・・という訳で、よろしく頼むよ」
「ご勘弁くださいませ、アユールさま・・・」
この短時間で、ランドルフは一気に疲れていた。
アユールの無茶苦茶ぶりは慣れていたものの、今回はランドルフにとって無茶振りもいいところだったから。
「どうして私がレナライアさまに懸想した振りなど・・・」
「悪かった。だが、俺じゃ全然揺さぶりにならなかったんだ。あの恋愛こじらせ中年男の背中を押すために、何とか一芝居打ってくれ」
「そ、そんな・・・」
誠実実直なランドルフに、よりによって己が仕える主人の想い人に懸想した振りをしろ、と頼むのは酷なことだと分かっている。
だが、しかし。
「お前がやってくれなきゃ、あの超絶鈍感男は一生自分の気持ちに気づかないぞ」
「それは確かにそうなのですが、しかし・・・」
「頼むっ! お前の演技力にかかってるんだ。叔父貴の幸せも、レーナの心の平安も」
眉尻を下げて、途方に暮れるランドルフを何とかなだめすかして、演技協力の了承を得て。
クルテルにも事情を話して協力を仰いだ。
ふっふっふっ。待ってろよ、叔父貴。
やってやるよ。
こうなったらとことん追い詰めてやるからな。
そう決意したところで。
早速、意外な才能を発揮したのがクルテルだった。
ノリノリでシチュエーションごとに台本まで書き始めて。
リハーサルと称して、ランドルフに演技指導までし始めた。
脇役A として、俺も何かの時には援護することになって。
本番では台本の存在を知らないレーナとサーヤのリアクションによって展開が変わっていく可能性もあるのだが、もし下手を打った場合は、クルテルがどうにかするという事で落ち着いた。
「ドキドキします・・・」
「ランドルフさん、ファイトです」
「本番では、セリフを間違えても本を投げつけたりするなよ、クルテル」
「間違えなければ済む話でしょう。はい、それでは本番いきますよ~」
「よ~し、行くぞ」
食堂に入り、各々の席に着く。
ちらり、とカーマインの表情を観察すると、先刻の『好きな女』発言の余波がまだ残っているのか、妙に落ち着きがない。
よしよし、これなら、ちょっとつつけば簡単に動揺するぞ。
全員が席に着いたところで、ランドルフが給仕を始めた。
一人一人に料理の乗った皿を置いていく。
「わぁ、美味しそうですね。ランドルフさん、これは何という料理ですか?」
台本のセリフは、クルテルから始まった。
「コリョ―トの煮込みにございます」
「まぁ、コリョ―トなんて高価なもの、いただいてしまっていいのかしら」
お、台本通りのリアクション。
クルテルの読みが当たった。
よし、行け。ランドルフ。
「腕によりをかけて作らせていただきました。喜んでいただけたら光栄にございます。レーナさまのようなお美しい方のためとあらば、このランドルフ、どんな労もいといませぬゆえ、何なりと申し付け下さい」
「ふふ、ありがとう」
「おや、本気と取っていただけないのですか? 貴女さまのその春の木漏れ日のような温かい笑顔を見るためならば、私は何だっていたしますのに」
「まぁ、ランドルフさんったら、お上手ね」
おお、さすが元大貴族のご令嬢。
誉め言葉もさらっと華麗にスルー。
まぁ、レーナの反応は正直気にしなくていいんだ。
ターゲットはあっち・・・。
うわ。
なに、その目つき。
見えてないのに、見えてるみたいに、ランドルフのいる方向を正確に睨んでる。
ビビるな、ランドルフ。頑張れ、ランドルフ。
お前の大事なご主人さまのためだ。
「お、お味はいかがですか?」
「とっても美味しいわ。コリョートなんて久しぶり」
「この料理に合うヴィーネがございますが、お試しになるのはいかがでしょうか?」
「嬉しいけど、お世話になっている身でそんな高級な品ばかりいただいてしまったら申し訳ないわ」
「ご遠慮なさらないでくださいませ。そのヴィーネは大変珍しい品で、碧色をしているのですが、レーナさまのその海を映したような美しい瞳を思い出し、つい仕入れてしまったのです。ですから是非、レーナさまにお飲みいただきたく」
「まぁ、そうなの? じゃあ、ありがたく頂こうかしら」
「かしこまりました」
ヴィーネを注いだグラスをテーブルに置き、レーナさまの瞳の美しさには敵いませんが、と付け加える。
ちらり、と叔父貴を確認。
ほっほお。額に青筋が立っているぜ。
やせ我慢も大概にしろよ。
いやいや、ランドルフ。
よく頑張ってくれてるよ。
クルテルの書き出した美辞麗句を、蕩々と並べ立て、着実に叔父貴の恋心をえぐっている。
まだか? 叔父貴。
まだ黙って聞いてる気か?
そう思った時。
ガタン。
「ランドルフ・・・」
「ひっ・・・」
叔父貴がもの凄い形相で立ち上がった。




