表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/116

気づけよ

「叔父貴・・・、ちょっといいか」


書斎の扉をノックすると、ランドルフが開けて中へ通してくれた。


「・・・なんだ」


貴重な魔法書が大量に保管されている書棚を通り抜け、奥の机に座るカーマインの前までやって来た甥に向かって、ぶっきらぼうに問いかけた。


「クルテルとサーヤから聞いたんだが。・・・昨夜、前に会ったことはないかってレーナに聞かれたんだってな」

「ああ。曖昧に記憶を残しておいたことが、却って仇になったようだな」

「やっぱりな。・・・軽減をかける時に、記憶操作もしたんだな?」

「・・・」


はあ、と大きな溜め息を吐きながら、机の上にどかっと腰を下ろす。


「いい加減にしろよ、叔父貴。・・・いくらなんでも格好悪すぎだ」

「そうだな。自分でもそう思う」


思わず、といった感で苦笑を漏らした。


「あの時はそれが最善だと思ったのだがな。私に関する記憶など、書き換えた方があの方は幸せになれると」

「・・・それで? どうする気だよ」

「どうする気、か。・・・どうするのがいいんだろうな」


アユールは眉間にしわを寄せ、頭をがしがし掻きながらカーマインを睨みつける。


「悩むことないだろう。いつまで好きな女にあんな顔させとくつもりだ? 『王宮で貴女を守ったのはこの私です』ってさっさと言って来いよ」

「・・・」

「おい、なに黙ってんだ。早くさっさと・・・」


そこまで言いかけて、アユールは口をつぐんだ。


正面をまっすぐに見据えたまま、瞬きもせず、ぽかんと口を開けて、カーマインが固まってしまったから。


「・・・叔父貴?」

「・・・」

「おーい、どうした。生きてるか?」

「・・・き・・」

「え?」

「す、き・・な、おん・・・な・・?」


・・・はい?


「私が・・・レナライアさまを・・・す、す・・き・・・だと・・?」


いやいやいや、ちょっと待てよ。


「わ、私は、決してそんな、ふ、ふしだらな気持ちでレナライアさまに近づいたのではないぞ」


ふしだらって、おい。

今、頭の中でどんなこと想像したんだよ、コラ。


「じゃあ、聞くけど。なんで自分の身を危険に晒してまで、レーナを助けたんだよ」

「・・・それは、あの方が王宮で辛い目に遭われていたからだ」

「黒の森で暮らすようになってからも、ランドルフに様子を見に行かせていた理由は?」

「無事に暮らせているかを確認するためだ」

「保護魔法かけたんだろ。普通だったら怪我も病気もしないだろうが」

「病気や怪我だけを心配すればいい訳ではない。あの方が、毎日、笑って過ごせなければ駄目なんだ」


まったく、微妙に論点がずれてる。

そんな風に思う理由を、胸に手を当ててよく考えてみろっつってんのに。


「どうして」

「当たり前だろう。あの方には幸せになってもらいたいんだ」

「だからどうして」

「は・・・?」


自分でも気づいてないって。

子どもか。


「だーかーらー、どうしてレーナに幸せになってほしいと思ってるんだよ?」

「・・・何故、そんな当たり前のことを聞く? あんな素晴らしいお方が不幸だなんて、あってはならないことだろうが」


いや、当たり前? 当たり前じゃないだろ。

こいつ、べた惚れだって白状してんの、なんで気づかないんだ?


俺も結構、鈍いって言われるけど。

これ、絶滅危惧種的に初心(うぶ)じゃねぇ?


「いいか、アユール。私は、あの方に対して、断じてそのようなやましい気持ちなど持ってはおらん。ただあの方は私の大切な人なのだ。いつも笑っていて欲しいのだ。何があっても守らなければならないのだ」


・・・これを愛の告白と言わないんなら、何だっつーの。

中年の初恋、面倒くせ。


「あー、そうかよ。じゃあ、叔父貴はレーナに恋愛感情はないって言うんだな?」

「その通りだ」

「じゃあ、ちょうどいいや。俺がもらう」

「は?」

「俺よりずっと年上だけど、綺麗だし、明るくていい性格してるし、最近料理の腕も上がったし、いい女だよな」

「アユール?」

「いいだろ? 絶対幸せにするし」

「・・・お前は、レナライアさまの娘に惚れてるんじゃなかったのか」

「最近、ケンカばっかりでね。大人の女の方が俺に向いてるのかもって思ってたんだよ」

「論外だな。お前みたいな若造が、あの方を幸せにできる筈がない」

「ふーん、じゃあいいよ。俺が駄目だって言うんなら、ランドルフに譲るから」

「「は?」」


驚いたカーマインとランドルフの声が重なって響いた。


壁際に立ったまま、黙って話の成り行きを見守っていたランドルフが、急に名前を呼ばれてアユールの顔を見る。


「何故、ここでランドルフの名が出るのだ?」

「ア、アユールさま・・・」

「だって、レーナみたいに健気で可憐な人を全力で守りたいって、この間、言ってたし。なぁ、ランドルフ」


いきなり巻き込まれたランドルフには気の毒だが、この頑固な初恋こじらせ男のために、一肌脱いでもらうことにして。


両手を合わせてお願いポーズを取った。


「・・・ランドルフ?」

「あ、あ、あの、はい、そうです。私でよろしければ、ぜ、全力でレナライアさまのお幸せのために頑張らせていただきます・・・」

「・・・」


呆然とするカーマインに、アユールがしたり顔で畳みかける。


「ランドルフなら、何の問題もないよな? 穏やかだし、仕事は出来るし、頭もいいし、包容力もあるし、むしろ駄目だっていう理由がないよな」

「くっ・・・」


くってなんだよ。

そんなに悔しいんだったら、さっさと認めて自分の手で幸せにしてやれよ。


冷めた目で叔父を見つめるアユールに対し、ランドルフはもう冷や汗たらたらで顔色も真っ青で、見ていて実に可哀そうではあるが。


あるが。


叔父貴を追い込むために、もうちょっと付き合ってもらうぜ、ランドルフ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ