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意外と周りの方がよく見えていたりして

「クルテル。お前も随分とお節介な性格なのだな」


就寝の挨拶をして食堂から出て行くクルテルに対し、大きく溜息を吐きながらカーマインはそう揶揄した。


それに答えて、まだ10歳のこの弟子は胸を張ってこう告げる。


「それは仕方ありませんよ。僕の師匠がああいう人ですからね」


扉の閉まる音と共に、食堂は急に静寂に襲われる。


ただ一人その場に残ったカーマインは、先ほどまでのやり取りを静かに思い返しながら考えていた。


・・・間違っていたというのか。


あの方を助けたことが原因で視力を失ったこと、それだけは隠しておかねばならないと思っていた。

これ以上、あの方を苦しめる事はあってはならない、と。


だから、何も知らせぬまま、陰から支え続けるのが最善だろうと、そう思っていた。


王宮で数週間会っただけの男のことなど、もうとっくに忘れているだろうと。

サリタスの名など、もう記憶の底に沈んでいるだろうと。


いや、沈ませたと。


高を括っていた。


だから。

名乗り出ないことが、その決断が、今もあの方を苦しめていることになるとは。


予想もしてなくて。


額に手をあて、大きく息を吐いた。


・・・結局、アユールやランドルフの言った通りだったのなら。


「・・・つまらない意地・・・。まったくその通りだったという訳か」



◇◇◇



「・・・え? 俺が出て行った後に、みんなでそんな話をしてたのか?」


ここは夢の中で。

サーヤはアユールの顔を見るなり、その後にあった食堂でのやり取りについて説明したのである。


「うーん、そうか。・・・どうしたもんだろうな」


サーヤがアユールの顔を覗き込む。


「あー、その顔。また何か隠してるでしょ?」

「え? は? い、いや、なにも?」

「うそつき」


サーヤはガゼブの下で膝を抱えて座っていたが、そのひざの上にこてんと頭をのせながら、隣のアユールをじろりと睨む。


「私、本当の世界では何も話せないでしょ? だから、いつも会話を聞きながら、みんなのことじっと見てるしかないの。そしてね、そんな風によく見てると・・・わかっちゃうことが結構あるんだよ」

「・・・例えば?」

「アユールさんは、私にかけられた魔法のことでまだ何か隠してることがあるんじゃないか、とか。カーマインさんは母さんのこと、実はよく知ってるんじゃないか、とか。カーマインさんは視力が弱いって言って眼鏡かけてるけど、そもそも見えてないんじゃないか、とか」

「・・・凄いな。本当によく見てるんだ」

「当たり?」

「俺が、全部当たりって言う訳にはいかないかな。こういうのは、本人から聞いた方がいいだろうし」

「そっか・・・」


足元の小川の流れをぼんやりと眺めながら呟く。

少し拗ねているのか、口の先を尖らせて。


「でも、どうして話したくないのかな、カーマインさんは」

「まぁ、ちょっとそこは微妙なんだよな。俺は、話しちゃってもいいんじゃないかって思ってるんだけど。・・・でも、叔父貴には叔父貴なりの理由があるからさ」

「そうなんだろうけど、ね」

「・・・そろそろ夢の時間も終わる頃かな。まあ、明日起きたら、俺もクルテルに話を聞いてみるよ。教えてくれて助かった。ありがとな、サーヤ」

「ううん。・・・あ、そうだ」


立ち上がる俺の背に向けてサーヤが言葉をかけてきた。


「アユールさん。私、もういっこ凄いこと気づいちゃったんだ」

「え? なに?」


聞き返しながら振り向くと、サーヤが悪戯っぽく笑っている。


周囲の景色がぼやけていく。

だんだんと暗くなっていく。


「おい、サーヤ・・・」


姿が霞み始めて。


「・・・だよ」

「え?」

「・・・って、・・・かな・・」


全てが真っ暗になって。


目が覚める。


「本当かよ、それ・・・」


夢から覚める直前に、サーヤが俺に告げた言葉を、頭の中で反芻する。


いや、俺、そういうことに疎いけど。

はっきり言って鈍いけれども。


もしかして、みんな知ってて、気づいていないの俺だけかもしれないけどさ。


でも。


ーカーマインさんって、母さんのこと好きなんじゃないかなー


それが本当だったら。

もう、これは。


腹くくった方がいいんじゃないの? 叔父貴。


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