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始めの一歩

今夜は、トールギランの方に行っちゃったから、夢でアユールさんに逢うのは無理だろうな。


そう思ってた。


でも夢って距離は関係ないのね。

当たり前なんだろうけど、そんなこと思ってもいなかった。


だからびっくりした。

夢の中で、アユールさんに逢えたときには。


「うわ、離れてても逢えるんだな」


アユールさんも、想定してなかったみたい。

すごく吃驚してる。


「本当ですね。起きてるときに会えないのに、夢の中では逢えるなんて、なんだか不思議ですね」


そう言いながら、嬉しくて思わずアユールさんに駆け寄った。


なんだか今夜のアユールさんは、いつもよりも上機嫌で。

トールギランで、何かいいことでもあったのかなって不思議になるくらい。


あ、そういえば。


「いつ、戻ってこれますか?」

「ん?」

「トールギランから、いつ戻ってくるんですか?」

「トール・・・。ああ、そうそう。トールギランね。うーん、多分、明日か明後日かな?」


なんか、眼がきょろきょろしてる。・・・怪しい。


「アユールさん、なにか隠してるでしょう?」

「え? か、隠してないぞ? なんにも隠してない。うん、なんにも」


うわぁ、凄く怪しい。


「アユールさん、トールギランに行ってるんですよね?」

「あー、うん。まぁ」


あ、これ絶対、行ってない。


じとーっと睨んでいると、、頭をぽりぽり掻きながら、ぼそっと、叔父貴のとこに行ってる、と言った。


「叔父・・さん?」

「ああ、前に世話になったから、ちょっとそっちにも寄ってみたんだ。なかなか偏屈な人なんだけどな」


そう笑いながら言ってるから、きっとすごくいい人なんだろう。


「あ、そうだ。今の話で思い出した」

「え?」

「試してみたいことがあったんだ。ちょっといいか?」


そう言って、私に手を差し出した。


「?」


訳もわからず、手を差し出すけど。

そうだった。夢の中では、触れられなかったっけ。


手と手が、すり抜けてしまう。


「あー、そうだった。じゃあ、これで」


そう言うと、アユールさんは、両手を私の前に翳した。

そして目を瞑って、なにかを念じて。


少しの間、そのまま。


そしたら、突然。

体の内側から、光が溢れてきて。

体全体が光り始めた。


「え? なにこれ?」


私の声に、アユールさんが眼を開く。


「おお、やっぱり。随分と相性が良いんだな。俺の魔力と叔父・・・」

「おじ・・・?」

「いやいやいや、なんでもない。あ、ちょっとこの効果がどれくらい続くか見ててもいいか?」

「・・・? うん」


なんか、誤魔化されたような・・・。


「あ、そうだ。今度そっちに戻ったら、起きてるときにも、これ試させてくれ」

「うん・・・?」


なんだろ。

なにか意味があるのかな。


体がぴかぴかして、力が漲る感じ。

これがアユールさんの魔力だとしたらすごいと思う。


ゆっくり、ゆっくり、光は薄らいでいくけど。

気分は高揚していて、気持ちが良かった。


そして、不思議なことに。

その夜は、いつもよりも長く、夢の中でアユールさんとお話が出来たのだった。



◇◇◇




「叔父貴の言った通りだったよ」


翌朝、アユールは食堂に入って来るなり、前置きもなくカーマインにそう切り出した。


「やはり延びたか」


それを全く気にする風もなく、カーマインは答える。


「ああ。驚いたよ。いつもだったら数十分程度で現実に戻るのに、一時間近く夢の中にいられた。あんたの読みが大当たりだ」

「・・・やはり、お前の魔力が私の軽減魔法を強化している、という仮説が正しいようだな」

「じゃあ、師匠の魔力を思いっきり注ぎ込めば、サーヤさんにかけられた亡失魔法を完全に解除出来るってことですか?」

「そう簡単に話が済めばいいのだがな」

「ダメなんですか?」

「聞けば、徐々に効果が薄まっていくようだ。今のままの状態では、どれだけ大量に魔力を注ぎ込もうと、いずれ底をつくだろう。そして、ただただ注ぎ込み続ければ、いずれアユール自身が力尽きる。死んでも後悔しないとは言っていたが、別にわざわざ死ぬこともなかろう」

「そうか・・・そうですよね・・・」


クルテルの声のトーンが下がったことに気づいたのか、カーマインは言葉を継いだ。


「気に病むな。そこが突破口となることは間違いない」

「は、はい」

「・・・私たちは、亡失魔法の完全解除という誰も成功したことのない術に挑戦しようとしているのだ。道は困難で当たり前と思いなさい」


クルテルは、その言葉にはっとして顔を上げると、大きく頷いた。


「叔父貴。今日帰ったら、あの月光石に魔力を注いでみるよ。効果とか持続時間とか、起きてる時との差を比べて、また報告する」

「ああ、頼む。それと、直接、その娘の体内に残る私の魔力に働きかけることが可能かどうかも試してくれ」

「ああ、わかった」


静かに茶を飲む叔父の姿を眺めながら、アユールは昨日からずっと心に燻っていた話題を切り出してみた。


「・・・なぁ。叔父貴は本当に、レーナたちに会うつもりはないのか? あいつらはきっと・・・」

「これ以上、あの方に心痛を与えたくはない」


アユールの言葉を遮るように、カーマインは言い切った。


「それでいいのか? ・・・本当に」

「いいに決まっている。今の私は、あの方の憂いの元にしかなりえないのだから」


頑なに拒む叔父の姿に、アユールは、さて、この頑固野郎をどうしたものか、と大きなため息を吐くのだった。

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