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悩む先に見えたもの

「あら、お帰りなさい。どこに行ってたの?」


ランドルフと別れた後、レーナたちの家に戻ると、ふたりから明るく迎えられた。


今のアユールとクルテルにとっては、少々、眩しすぎる笑顔で。

母娘を眺めるふたりの目は、どこか、遠くなってしまう。


「あー、いや・・・。ちょっと荷物を取りに、トールギランまで・・・」

「あら、そう。で、荷物は?」

「あっ。に、に、荷物を取りに行ったんじゃなく、置きに行ったんだ」

「? そうなの。今日はね、ランドルさんに、いろいろ交換してもらったから・・・」

「ラ、ランドルフ?」

「ちょ、師匠!」

「? ランドルフじゃなくて、ランドルさんよ。今日来てたでしょ? あの人なのよ。森の中で迷ったところを助けたのがきっかけで、よく顔を出してくれるようになった旅の行商人さんって」

「あー、そうか。うん、うん、なるほどな」

「だから、今日のご飯は、ちょっと豪華よ。あ、クルテルくん、そこのお皿、取ってもらえるかしら?」

「は、は、は、はい」

「それでね、ランドルさんからラミのお肉を分けてもらったから、この間クルテルくんが話してた、ラミとチュコラの炒めものっていうのを作ってみたの。美味しく出来てたらいいんだけど」

「それはもう、もちろんその通りです、はい」

「? そうね。じゃあ、いただきましょうか」


気だての良すぎるこの母娘は、挙動不審も甚だしいこの師弟に対しても、まったく不審がることはなく。

今日も今日とて、眩しすぎるほどの笑顔でご飯をよそってくれるのだ。


「くそ、どうも納得がいかん」


夕食後、自分たち用にあてがわれた部屋に戻ってベッドに寝転がるなり、アユールはそう呟いた。


「あ、なんか分かります。僕も、もやもやしてます。どうにもスッキリしないというか」

「だよな」

「・・・どうしたらいいんでしょうね、僕たち・・・」


大抵の事には動じないクルテルも、今回ばかりは衝撃を受けたようだ。


「なんだろうな。・・・俺は、何が引っかかってんだろうな」


外出用のケープを壁に掛け、その皺を伸ばしながら、クルテルはしょんぼりと俯いた。


「・・・僕、レーナさんにお礼を言われたんですよね・・・」

「礼を?」

「師匠が軽減魔法の痕跡があるって話をした時です。あの後、師匠は体力の限界を超えてしまって眠っていたから知らないでしょうけど・・・」

「・・・ふーん」

「僕たちがいなかったら、自分を守ってくれた人のことすら知らないままだったって。ここにいるのが、その人のおかげだって気づけないままだったって」

「・・・」

「王宮で独りきりじゃなかったって分かったことが、なにより嬉しいんだって・・・」


クルテルは唇をかみしめる。


「すごく、嬉しそうに、誇らしそうに、笑ってたんです・・・」


アユールは天井を見つめながら、何か考え込んでいるようで。


「それまでサルマンたちに怯えていたのが嘘みたいに、堂々とした感じで・・・」


そのまま、じーっと一点を見つめて微動だにしない。

ただ黙って、クルテルの言葉に耳を傾けている。


「味方になってくれた人に、いつかお礼を言いたいって、そう・・・言ってたんですよ」


それから。

パッと目を見開いて。


「・・・そうか」


一言、そう呟いた。


「師匠?」


クルテルが怪訝な表情で師匠の顔を覗き込む。


「うん、そうだよな。・・・やっぱりおかしいよな」

「えーと、・・・師匠?」


アユールは、ばっと起き上がると、急いでベッドから降りてケープを羽織る。


「行くぞ、クルテル」

「はい? 行くってどこへ?」


アユールはにやりと笑った。


「マハナイムだ」

「マハナイム?」

「ああ。・・・今、そこに住んでるんだよ。あの偏屈なお節介野郎がな」

「・・・っ!」


クルテルは自分の師匠を見つめた。


師匠のこの顔。


この顔を、クルテルはよく知っている。


師匠のこの笑みは。

師匠が、この不敵な笑みを浮かべたときは。


誰が何と言おうと、思ったことをやり遂げる。

自分が思い定めたことを、ひとたび固めた決意を、どうあっても必ず貫くつもりでいるのだと。

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