表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/116

手に入れたもの、失ったもの

「もう出て来ていいぞ、クルテル」


その声に、森の奥から彼の一番弟子が現れる。

隠れていた時どこかに座りこんでらしく、ズボンのお尻の辺りをぱんぱんと叩きながら。


「あの商人さんとお知り合いだったんですね、師匠」

「・・・お前、ずっとそこで話聞いてたんだろ? 今更しらじらしいことを言わなくていい」


アユールに嫌味を言われても、この弟子はまったく堪えることはなく。


「では、言い方を変えます。あの商人さんは、師匠の叔父上さまに仕える従者の方だったんですね」


クルテルの面の皮の厚さに、アユールが渋面になる。


「・・・ああ、聞き覚えのある声だったから、もしやと思って待ち伏せたんだが、まさか本当にランドルフだったとはな」

「・・・先ほど従者の方からお聞きした話、レーナさんたちにも話すんですか?」


前髪を掻き上げながら、アユールはうーんと考え込む。


「教えてやりたいとこだがなぁ・・・」

「そうですか。命の恩人が誰か分かったら嬉しいと思うんですが。・・・やっぱり、当人の承諾無しに勝手に伝えちゃうのは良くないですよねぇ・・・」


一緒になって考え込むクルテルだったが、ふと、ある事に気づいて。


「でも、これって、普通に喜ばれ、感謝される話ですよね。なんで叔父上さまは口止めなんかされたんでしょう?」

「・・・だよなぁ。別に、ここまでして隠し通そうとする必要はないと思うんだが・・・」


クルテルの問いにまったくの同意見だったアユールは、頭を掻きながら、ぼそりと呟いた。


「その叔父上さまって、どんな方なんですか? 実はものすごく恥ずかしがり屋さん、とか?」

「いや、そんな性格じゃないな。叔父貴の恥ずかしがる姿なんて、もしあれば拝ませてもらいたいくらいだ。そんなにしょっちゅう会ってたわけでもないが、もの静かで冷静で、かなり頭が切れる人だったな。禁呪に軽減魔法を施せるくらいだから、魔法使いとしての実力だって、かなりの・・・」


そこで、ぷつりと言葉が途切れる。

今にもこぼれ落ちそうなくらいに、目を大きく見開いて。


「・・・師匠?」

「いや、まさか・・・あれは・・・」


何かに気づいたのだろうか。

髪を掻き上げていた手がぴたりと止まり、呆然とした顔をして。


怪訝そうな目を向けるクルテルに、アユールは独り言のように呟いた。


「クルテル。叔父貴は・・・カーマインは、目が見えない」

「・・・はい?」


クルテルが、意味がわからないと目を丸くする。


「叔父上さまは目がご不自由、と。はい、わかりました。ですが、それが何か?」

「そうじゃない。もともと目が悪かったわけじゃないんだ。前は普通に見えてたんだ」

「・・・はぁ」

「俺もまだ小さかったし、理由も聞かされてなかったから、てっきり事故とか病気とかで、後天的に視力を失ったのかと思い込んでたんだが」


何か匂わすような話し方に、クルテルが首を傾げて続きを促す。


「・・・そうじゃなかったってことですか?」

「ランドルフから話を聞いた今となると、いろいろと符合するんだよ。例えば、伯父貴の目が見えなくなった時期、とか」

「それは、いつだったんですか?」

「確か、13か14年前くらいだ。・・・わかるだろ?」

「・・・レーナさんが王城からいなくなったあたりですね? じゃあ、叔父上さまが王城に仕えていた頃、もしくはその前後に、視力を失ったってことですか?」


アユールが重々しく頷く。


「ああ、多分、あの頃だ。確かめたこともないし、あの頃の俺はまだ6つか7つくらいのガキだったし、叔父貴はレナライア王妃の事件について話すことはなかったし・・・」

「でも、それが、助けたことを口止めするのと何の関係が・・・」

「大ありだ」


アユールが、クルテルの言葉を遮る。


「もし、サルマンのかけた『亡失』の術を軽減させる代償として、叔父貴が視力を失ったとしたら?」

「え・・・」


その言葉の意味を悟り、クルテルが言葉を失くす。


「ま、さか・・・」

「禁術に抵抗して軽減魔法をかけたんだ。亡失の呪いの一部を受けてしまったとしてもおかしい話じゃない」

「・・・」

「叔父貴は無駄なことをするような人じゃない。あれだけ固く口止めをするからには、それだけの理由があるはずだ。そして、その理由が・・・」

「・・・レーナさんたちを助ける代わりに、視力を失ったことを知られないようにする・・・ため・・・」


アユールは、重々しく頷いた。


「・・・くそ」


そして、苦々しげな表情で前髪を掻き上げる。


「そ、んな・・・」

「そりゃあ、隠したくもなるよな。・・・もし、自分たちを助けたせいで、呪いの一部を被って視力を失ったと知ったら・・・あの優しすぎる母娘は、苦しむに決まってるからな」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ