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縁は異なもの

ランドルフは再び荷台に乗り込むと、アユールにこう言った。


「・・・カーマインさまからは、誰にも言うなと固く口止めされておりました。結果的に、こうしてアユールさまにお伝えすることにはなってしまいましたが、我が主人(あるじ)の意を汲み、くれぐれも軽々な行動はお慎みいただきますようお願いいたします」


ランドルフの言葉に、アユールは少々呆れ顔で言葉を返す。


「なんだ、その言い草は。軽々な行動って、お前、俺を何だと思ってんだよ?」

「アユールさまだと思っております。情に厚く、一度こうと決めたら、何があろうと貫こうとされる、信念のお方だと」

「・・・あのなぁ、さっきのお前の話からすると、その人物像は俺じゃなくて叔父貴の方だろうが」

「私の目には、カーマインさまもアユールさまも、同じくそのように映っております」


そう言って、身につけている商人風の衣装を、指で摘み上げ、言葉を続けた。


「まぁ、そのような理由で、こんな格好をして、ここまで参った次第でございます。アユールさまにもご納得いただけましたでしょうか」

「ああ、よくわかった。ご苦労だったな、ランドルフ。・・・これまでも、ずっとこうしてあの母娘の様子を見に来てくれてたんだろう?」

「大したことではございません。これで我が主人(あるじ)のお気持ちが安らかになるのであれば」

「そうか。・・・ああ、そうだ。俺に見つかっちまったってこと、ちゃんと叔父貴に報告するんだぞ」

「・・・かしこまりました。ですが、あのおふたりが、アユールさまとこのように関わりを持つことになろうとは。まとこに縁とは異なものでございますね」

「まったくだ」


出会いの瞬間を思い出し、アユールは、ふっと笑みを漏らす。


「まぁ、当面、あいつらの心配は要らない。俺も全回復までには、まだ時間がかかりそうだから、もう少しあの家で世話になるつもりでいるからな。あの母娘の安全は、俺が保障してやる」


その言葉に、ランドルフは、ふと顔を曇らせ、ため息を吐く。


「な、何だよ?」

「・・・決して、決して、不埒な真似はなさいませんようお願いいたしますよ、アユールさま」


途端、アユールの顔は真っ赤に茹で上がる。


「ふ、不埒な真似って、お、お、お前、俺のこと、何だと思ってんだよ!」

「アユールさまだと思っております。情に厚く、一度こうと決めたら、何があろうと貫こうとされる、信念のお方だと」


真顔でしれっと答えるランドルフに、アユールは頭をがしがし掻きながら、小さな声で、くそ、と呟く。


「・・・もういい。行け」

「かしこまりました。では、これにて失礼いたします」

「叔父貴によろしくな」

「・・・承りました」


ランドルフが、ぴしりとラルバに鞭を当てると、ガタガタと音をたてて、ゆっくりと荷馬車が動き始める。


「ああ、ちょっと待て、ランドルフ。ひとつ言い忘れたことがある」


去って行く後ろ姿に、アユールが声をかけた。

ランドルフが振り返る。


「あの亡失の術のことだけどな。前にレーナに頼まれて、いろいろと術形式を調べたんだ。それで、あの術に軽減魔法をかけた痕跡が残ってたことまでは突き止めたから、あの母娘にはその事は伝えてある。・・・そう、叔父貴に伝えておいてくれ」


一瞬、ランドルフは目を見開いて。

でも、それ以上は、何も言わず。


ただ一言。


「かしこまりました」


そう答え、再び荷馬車を走らせた。

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