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その人の名は

「アユールさまは、我が主人(あるじ)が、ほんの一時、王城に、召し出されていた時期があったことをご存知でしょうか」


なかなか口を割ろうとしないランドルフに対し、アユールは脅しつけ、宥めすかし、渋々ながらもなんとか口を開かせることに成功した。


「ああ。けっこう前の話だよな。しかも速攻で辞職を願い出たとかなんとかって、聞いたけど」

「左様でございます」


ランドルフは、少し、遠くを見つめるような、ぼんやりとした眼差しになって話を続ける。


「実際に王城に勤めていた期間は、わずか数週間でございました」

「す、数週間? いくらなんでも短すぎだろ!」

「もともと、王命により無理やり城に召し出されただけの事でしたので。なにせ、ご出仕をお決めになられたのも、城勤めをしなければ一族を皆殺しにすると脅されてのことで」

「・・・またシリルかよ」


ランドルフは重々しく頷く。


「ご存知のように、当時の我が主人(あるじ)の実力は、今のアユールさまとも全く遜色ないほどのものでございましたからね。どうしても自分たちの側につけたかったのでしょう。恐らくは、今回、アユールさまが狙われたのと全く同じ理由で、言うことを聞かねば殺す、という勢いで迫られまして」

「・・・そうかよ」


大きなため息を吐きながら、アユールは苦々し気に頷いた。

つい数週間前に、実際に殺されかけたアユールにとってみれば、他人事ではない。


というより、もしその時に叔父が頑なに拒んでいたら、自分も他の家族も皆、すでにシリルの手によって殺されていたかもしれないのだ。


「叔父貴も、俺と同じく、面倒なやつに目をつけられてたって訳か・・・」


ランドルフが再び首肯する。


「そして、その短期間の王城務めの際に、我が主人(あるじ)は第二王妃さまをお見かけする機会がございまして・・・」

「へぇ、レーナが王妃の地位に就いていたのは一年程度だっていうのに、叔父貴が出仕した時と同じ時期だったのか」

「左様でございます」


何かうまい言葉を探しているのだろうか、少しの間、言葉が途切れる。


「ランドルフ?」

「・・・いえ、その・・・レナライアさまが・・・非常にお辛い境遇にあるのを、我があるじは大変気の毒に思われたようなのです。まだ嫁がれて一年も経っていないというのに、その頃はすでに、国王陛下のみならず、サルマンや大臣たち、役人たちもみな、シリルさまの目を恐れて、レナライアさまをお助けしようとする人は一人もおられなかったようで・・・」

「・・・ああ、レーナから聞いたよ。随分と大変だったらしいな」


ランドルフの話をそこまで聞いて、ふと、アユールがあることに気づく。


「・・・ん? 待てよ。ってことは、まさか、サルマンの攻撃からレーナを守ったってのは・・・」


アユールの言葉に、ランドルフが頷く。


「さすがアユールさまですね。あの時、レナライアさまを陰で助けた人物がいたことに、既にお気づきでしたか」


ランドルフの顔に、笑みが浮かぶ。


「ええ。確かにあの時、レナライアさまをサルマンの追撃から匿い、ライガルに催眠魔法をかけて黒の森まで運ばせた人物がおりましたね。そして、ケガや病気に備えるため、森で採れる薬草の知識をレナライアさまに教えようと、迷った振りをした商人をあの家に送り込んだ人物が。・・・そしてその人物は、余分に採れた薬草を必要物資と物々交換出来るようにと、その後も商人を、たびたびあの家に遣わし続けたわけです」


ランドルフは誇らしげにこう告げた。


「アユールさまのご推察の通りです。カーマインさまでございますよ。第二王妃、レナライアさまを、窮地からお助けしたのは」

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