現の約束
本日は2回更新予定です。
こちらは1回目になります。
アユールさんは、ラギの樹の下にいる私を見て、驚いて。
それから、私の手の中のラギの葉を見て、微笑んだ。
「・・・ラギの葉、取りに来たのか」
こくりと頷く。
「俺もだ。・・・今のうちに取っておこうと思って」
そう言って、側まで来て。
私の持っていた葉に、手を伸ばして。
少し厚ぼったいラギの葉の葉脈を、指でそっと撫でながら、アユールさんは呟いた。
「やっぱり、同じ夢を見てたんだな」
私はまた、こくりと頷いた。
「そうか・・・。どうしてこんな事が起きたのか、理屈はさっぱり分からないが・・・つまり俺は、夢の中でお前に逢えて、話が出来てたっていうことなんだよな」
私は、また頷いた。
・・・なんだろう、変なの。
さっきまで自由に言葉を交わせていたのが、嘘みたいだ。
夢の中と違って、今の私は、ただ頷くことしか出来なくて。
それが、ずっと当たり前のことだったのに。
・・・なんで、悲しいって思っちゃうのかな。
今までずっと、ずっと、そんなこと、気にしないでいられたのに。
それでも、笑っていられたのに。
「じゃあ、夢の中で俺が聞いたあの声は・・・サルマンに奪われた・・・お前の本物の声だったんだな」
そう。あれは。
私の、本物の声。
奪われた、私の声。
あ・・・駄目だ。
泣いちゃいそう。
出来ないと分かっていても。
私の声を返してって、叫びたくなる。
だって、私が、母さんが、何をしたって言うの?
どうして、その人たちは、こんなことをするの?
悔しくて、悲しくて、堪らない。
でも、どうしようもなくて。
こんな時だって、この口は何も音を出せないから。
だから。
ただ唇を、きつく噛んだ。
アユールさんは、そんな私の様子をじっと見ていて。
手を伸ばして、噛みしめた私の唇にそっと触れた。
それから、あの時みたいに。
ライガルの前で私を助けようと抱き抱えた時みたいに。
優しく、私に笑いかけた。
「いつか、この世界でも聞かせてくれよな。・・・あの、お前の・・・声」
え?
アユールさんは、優しい声音で言葉を続ける。
「だって、本当に可愛かったんだぞ。ずっと聞いてたいなって、夢の中で思ってたくらいだ」
私が目を丸くしたのを見て、アユールさんは、くくっと喉を鳴らす。
「・・・嘘じゃないぞ」
そう言って、アユールさんは、私を抱きしめた。
頭が、真っ白になる。
「・・・なぁ、サーヤ。通常の魔法と違って、禁術は謎だらけだ。わからないことも多い。調べるのに時間がかかるかもしれない。軽減魔法をかけてくれた奴は味方してくれるかもしれんが、そいつが誰だかも、まだわかっちゃいない」
アユールさん。
「問題は山積みだ。分からないことだらけだ。・・・だが、必ず・・・必ず解除する方法を見つけてやる」
アユールさん。
「だからさ、・・・その時は、お前の大好きな母親に、あの可愛い声を聞かせてやろうな」
うん。
・・・うん。
「お前の母親は、涙もろいからな。聞いたら間違いなく大泣きするぞ」
うん、そうだね。
アユールさん、・・・ありがとう。
「この俺が、約束してやるんだ。必ず叶えてやる。絶対だ」
ありがとう。大好き。
「・・・だから、泣くな」
ありがとう。
明日から、ちゃんと笑うから。
だから。
だから、今だけ。
王国一の魔法使いが、私に優しい現の約束をくれた夜。
私は、しばらく泣き止むことが出来なくて、彼の胸元を涙でびしょ濡れにしてしまった。
2回目の更新は16:00に予定しております。
よろしくお願いします。




