夢で逢えたら
アユールさんの夢を見た。
私は、広々とした平原に立っていた。
見たことのない景色。
でもどこか懐かしい。
小さな小川には透き通った水が流れていて。
そのほとりには、大きなガゼブの樹が植わっていた。
アユールさんは、その樹の下に座っていて。
私を見ると、ちょっと驚いた顔をした。
「サーヤ?」
名前を呼ばれて、嬉しくなって、そばに駆け寄った。
へへ。嬉しい。
自然と頬が緩んでしまう。
だって、夢でも逢えるなんて、最高のおまけだと思うもの。
「なにニヤニヤしてるんだ?」
アユールさんが、私の顔を覗き込む。
夢の中でも、やっぱりアユールさんは格好よくて。
夢だって分かってるのに、間近で顔を覗き込まれると、やっぱりドキドキしてしまう。
黒の長い睫毛に縁取られた太陽みたいに綺麗な黄金色の眼が、こちらをじっと見て。
・・・私は固まってしまった。
アユールさんは、ふっと笑って。
「なぁ、これ、夢だよな?」
って言うから、私は頷いた。
「・・・ずっと・・・考えてたんだ」
そう言って、私の頬に触れた。・・・と思う。
何の感覚もないから、わからないけど。
「夢でなら、お前の声が聞けるかも、と」
そう言って、俯いて。
「夢でもいいから、聞けたら、と」
それから、いつもみたいに、前髪をがしがしと掻き上げた。
夢・・・なら?
そんなの、考えたこともなかった。
話せないのが、当たり前で。
話そうとしたこともなくて。
それが現実だったから。
たとえ夢でも。試してみようなんて思わなかった。
でも。
もしかして。
・・・夢の中なら。きっと。
ゆっくりと口を開く。
「・・・ア・・・」
弾かれたように、アユールさんがこちらを見る。
目を見張る。
「アユール・・・さん」
一瞬、呆けて。
それから、アユールさんの顔が、綻んで。
「・・・もう一回」
「・・・アユールさん」
「すまん、もう一回」
「アユール、さん」
「・・・うわ・・・」
アユールさんが膝に顔を埋めた。
「夢のようだな。・・・いや、これは夢か。だが、それでもいい。うん、想像以上だ」
膝に顔を埋めたまま、ひとしきりブツブツ言ってたけど。
そのあと、隣に座る私の方に顔だけ向けて。
「想像以上に、可愛い声だな」
「かっ・・・」
顔がぶわっと熱くなる。
そんな私の反応を見て、アユールさんは楽しそうに笑っている。
夢とはいえ、可愛い、なんて言われてしまうと、なんだか凄く嬉しくて。
・・・現実のアユールさんも、こんなこと言ってくれたらなあ。
なんて、欲が出てしまう。
夢だから、私の願望が形になってるだけなのに。
「・・・これが、現実だったらな」
・・・え?
「アユールさん?」
「サルマンにかけられた魔法が解けて、現実でもお前の声が聞けたらいいのにな」
「アユール、さん・・・」
「きっと、現実の声も・・・」
そのとき、急に景色がぼやけて。
周りが暗くなっていく。
ああ、夢が終わるんだ。
夢から覚めちゃうんだ。
辺り一面、真っ暗になって。
そして、次に目を開けた時、私はベッドの上にいた。
あーあ、夢、終わっちゃった。
首から下げた、アユールさんからもらった石の入った袋を、思わずぎゅっと握りしめる。
・・・でも、夢だとしてもアユールさんに逢えたし、いいか。
それに、アユールさんの名前、呼んじゃったし。
生まれて初めて、自分の声を聞いちゃったし。
・・・可愛い声って言ってもらえたし。
夢だけど。
・・・全部、夢だけど。
それでも、いい。
それでも、嬉しい。
話せた。
声を出せた。
もう感情が抑えられなくなって。
嬉しすぎて。
ベッドの上を右に左に、ごろごろと転がり回る。
あー、ダメだ。
嬉しすぎる。
もう今夜は眠れないかも。
あれ?
なんだろ。
ごろごろ転がらないで下さいよって、クルテルくんが怒ってる声が聞こえる。
大丈夫かな。
アユールさんも、なかなか寝付けないのかな。
・・・そんなことばかり考えてて、結局あまり眠れなくて。
そうして、ちょっと寝不足気味で始まった次の日の朝のこと。
別に誰が知ってるわけでもないのに。
ただの夢の中の出来事なのに。
私は、なんだか恥ずかしくて、アユールさんの顔をまともに見ることが出来なかった。
ときどき目の端でチラッと確認するのが精一杯で。。
だから。
だから、全然気づかなかった。
アユールさんも何故か少しソワソワしていたなんて。
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