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騙し討ち

「・・・師匠、そろそろ教えてくださいよ~。なんで実力で勝る師匠が、まんまと術をサルマンにかけられちゃったんですか?」

「・・・」


もう何回目のやり取りだろうか。


クルテルは、術にかかってしまった理由を知りたがっているのだが、どうやらアユールは、どうしてもそれを言いたくないらしく。


クルテルから、あーだこーだ言われても、だんまりを決め込んでいるのだ。


「今さら見栄を張ったって仕方ないでしょう? 負けは負けなんですから、潔く認めちゃってくださいよ」

「・・・負けじゃない。騙し討ちは負けに入らない」

「なるほど・・・騙し討ちですか」

「・・・っ!」

「どんな風に騙されたんです?」

「・・・」

「・・・師匠は単純ですからね。向こうも騙すのはお手のものだったんじゃないですか?」

「・・・」

「まぁ、魔法の実力が上だとしても、頭の回転の速さで負けてたら、そりゃあ敵いませんよね」

「・・・友人を騙る奴を使って毒を盛るのは、頭の回転とは関係ない」

「・・・友人? サルマンの他に、誰かその場にいたんですか?」

「・・・っ!」


うわぁ、着々と暴かれてる。

さすがクルテルくん、アユールさんの扱いに慣れてるなぁ。


そっか。騙し討ちだったのか。

そうだよね。アユールさんは、王国一強いって、クルテルくんも言ってたもの。

普通に対決してたら負けるはずがないよね。


なにか卑怯な手を使われたんだろうな。


「師匠の友人、となると・・・ユレノスさん、・・・モニークさん・・・」


アユールの表情を横目で観察しながら、クルテルは自分の知るアユールの知人の名を挙げていく。


「マドーラさん、・・・シェマンさん・・・」

「・・・っ!」

「なるほど、シェマンさんですか」

「・・・」

「それで? サルマンがシェマンさんを使って、師匠に毒を盛ったと、そういう訳ですか?」

「・・・」

「師匠、もういいじゃないですか。僕、だいぶわかっちゃいましたよ?」


呆れ顔で、クルテルが呟く。

アユールは、渋面でしばしの間、うむむと唸った後、諦めたように口を開いた。


「・・・王宮に、あいつも招ばれてたんだ」

「サルマンが、シェマンさんをあらかじめ招んでおいたんですね?」


アユールは静かに頷いた。


「俺たち二人に、宮廷魔法使いとして仕えろと言ってきて・・・俺もあいつも断って・・」

「なるほど」

「だが、帰ろうとしたとき、手足に痺れを感じ始めて・・・」

「そこで出されたお茶か何かに、毒が仕込まれたってことですか」


アユールは首を横に振った。


「・・・王城で出された茶も菓子も、俺は口にしていない」

「え?」

「王城内で飲み食いしたら、何が起こるかわからない。それくらい馬鹿でもわかる」

「・・・それじゃあ、どうして・・・」

「王城の入口でシェマンに会った。・・・その時あいつは、サワの実をかじってて・・俺にもいくつかわけてくれたんだ」

「・・・じゃあ、その実に・・・?」


アユールは、再び頷く。


「油断してうっかり食っちまった俺も大馬鹿だが・・・」


アユールは、思い切り拳を握りしめた。

血管が青く浮き出た拳が、アユールの気持ちを代弁しているようで。

サーヤは少し悲しくなった。


クルテルは小さくため息を吐くと、コップに薬湯を注いだ。

そしてそのコップをアユールに手渡して。


「・・・サルマンも師匠の性格をよく把握してますね」

「まぁ、長いことやり合ってるからな」


ふっと自嘲めいた笑みを漏らす。


「もう相当、目の敵にされてますよね。・・・で、手足の動きが鈍くなったところをサルマンに攻撃された、と。そういうわけですね?」

「ああ。・・・背後からも攻撃されたから、挟み撃ちってやつだな。さすがに全部はかわしきれなくて、いくつか喰らっちまった」

「背後・・・」


クルテルは、その言葉の意味するところに気づいたのだろう。

そして、だからこそ、ここまで頑なに友人の裏切りについて話したくなかったのだ、とも。


「・・・よく、ここまで逃げて来ることが出来ましたね。さすがは僕の自慢の師匠です」


いつもの生意気な口ぶりは鳴りを潜め、心からの労わりと尊敬の響きが込められて。

そんな気遣いの言葉に、アユールは口の端を少しだけ上げて、こう答えた。


「・・・当たり前だ。オレは王国一の魔法使いだぞ」

読んでくださって、ありがとうございます。

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