表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/116

シリルという人 その2

「ど、ど、どういうことですか? 婚約者って。じゃあ、なぜシリルが王妃になってるんですか?」


サーヤもクルテルも驚いて目がまん丸になっている。


「私が19歳なって、もうすぐ結婚っていう時に、陛下が外交でアッサライア国に行かれたことがあったの。そしたらその国の姫に見初められてしまって」

「・・・はあ?」

「帰国してすぐの事だったわ。アッサライア国から、協定と称して、その姫と陛下との縁談が舞い込んできてね」

「・・・なんですか、それ?」

「断ったら侵略するくらいの勢いで、縁談を突きつけられてしまったの。ほら、アッサライアって、軍事大国でしょう? 逆らったら、ひとたまりもないって事で王城内は、もう大騒ぎで」


話の先がうすうす予想できたのか、しかめ面でクルテルが質問してきた。


「あの〜、もしかして、そのアッサライアの姫って・・・」

「そう、それがシリルだったのよ」


クルテルもサーヤも、その言葉に思い切り脱力した。


「うわぁ、軍事大国の姫が、一目惚れした挙句、無理やり縁談持ちかけて結婚迫るとか、怖すぎるでしょう・・・」

「本当よね。一国の存亡がかかってるし、陛下も辛い決断だったと思うわ。婚約者がいるって言って、なんとか断ろうとしたんだけど、全然聞いてもらえなくて、結局、押し切られる形で・・・ね」

「はあああ・・・」


もう、クルテルは返す言葉もないらしい。


「婚約者だった私を第二王妃に据える形で、シリルを第一王妃に迎えることが決まったんだけど、彼女にしてみたら私は嫉妬の対象でしかなくて」

「・・・それで初対面でヴィーネを頭からかけられた、という訳ですか」


レーナは、少し寂しげに笑って、そうなの、と頷いた。


「さっきも言ったけど、陛下は最初、何とか主導権を握ろうと努力されたわ。その頃は、まだサルマンの態度も普通だった。・・・でも、陛下はもともと気の強い方ではなかったし、シリルはとんでもなく我儘で強烈な性格だったし・・・」

「そうだとしても・・・」

「ええ、そうね。それでも陛下には最後まで頑張っていただきたかったわ。・・・でも、私が先に子どもを身篭って、ますますシリルの態度がおかしくなってしまって・・・。最後には、もう手がつけられなくなってしまってね」

「・・・」

「気がついた時には、誰も彼女に逆らえなくなっていったわ。サルマンもシリルの言いなりに動くようになって、陛下も、高官たちも、兵士たちも・・・結局、みんな諦めてしまったの」


淡々と何の感情も込めずに話すレーナが、かえって痛々しくて。

たった一年の王宮での結婚生活が、レーナにとって苦痛でしかなかった事が、その表情から伝わってきて。


「・・・だから、私は王宮で独りきりだった、誰も助けてなんかくれなかった、そう思っていたのよ。・・・今までは」


そう言うと、にっこりと笑って、クルテルの頭に手を置いた。

そして、そのハシバミ色の柔らかい巻き毛を、優しく撫でて。


「あ、あの、レーナさん・・・?」

「・・・だから、ありがとう。あなたたちのおかげよ。あなたとアユールさんがここに来てくれなかったら・・・私は、自分を守ってくれた人がいたことすら知らないままだった。今、ここに、こうしていられるのは、その人のおかげだって気づけもしなかった」


レーナの指先はあかぎれでボロボロで、着ている服もとても質素で。

王宮にいたときのような贅沢も、豪華な住まいも、もう手の届かないもので。


「王宮にいたとき、私は独りじゃなかったって、教えてくれた。今は・・・そのことがなにより嬉しいの」


でも、その笑顔には。

幻の王妃、レナライアとしてかつてあった自尊心が、輝くように表れていた。

読んでくださったみなさま、ありがとうございます。


本日より、更新時間が変わります。

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ