表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/116

優しさの証

「ええ、頑張ろうとされたわ。でも・・・」


レーナは、どこか遠くを見るような眼差しで言葉を継いだ。

その声は、ひどく掠れていて。


「・・・でも、陛下は諦めてしまわれたから」


サーヤを抱く腕に力が籠る。

そんな母を、サーヤも、ぎゅっと抱きしめ返す。


「だから、その軽減という魔法で私を助けてくれた人が王宮にいたとしても・・・それは陛下ではないでしょう」


部屋の中が、シーンと静まり返った。


レーナはそのまま黙り込んでしまったし、サーヤはもともと話せないし、アユールとクルテルはもう汗ダラダラで、目を泳がせているし。


サーヤは、母の腕の中で、母が呟いた言葉を思い返す。


そうか。


王さまは、母さんを守ることを諦めてしまったんだ。

母さんは、王さまに守ってもらえなかったんだ。


・・・王さまに、守ってもらいたかったのに。


黒の森で、ライガルから私をかばおうとしてくれた、アユールさんみたいに。

体がもう全然動かないのに、それでも気を失う瞬間まで、私を抱きかかえて守ろうとしてくれた、アユールさんみたいに。


守りたいっていう気持ちを、王さまから貰いたかったんだ。


それが、出来ても出来なくても。

そう思ってくれたら、それだけで良かったんだ。


・・・それだけで良かったのに、ね。


・・・王さまは、どうして、諦めちゃったのかな。


王さまは、母さんと結婚した人なのに。

王さまは、・・・私の、父さんなのに。


母さん。

・・・がっかりしたよね。

信じて、結婚したのに。


「サ、サーヤ?」


あれ? どうしたの。


「おい、どうした?」

「サーヤさん? 大丈夫ですか?」


みんな、なん、で、そんな・・・慌ててるの?


アユールさんが慌ててる。

クルテルくんの目が、丸く大きくなって。


母さんは、私を強く抱きしめて。

私の顔を、それはそれは優しく撫でてくれた。

さっきまでの、哀しそうな表情は消えている。


ああ、母さんが、私を見て笑ってる。

笑ってる。


私の大好きな、満開のリリアのような、母さんの笑顔。


・・・良かった。


「私なら大丈夫だから。・・・だから、泣かないで・・サーヤ」


え?


私、泣い、て・・・?


手を自分の頬に当てると、そこは、びっしょりと濡れていて。


自分でも気づかなかった。けど。

母さんの胸の中で、私は、ぼろぼろぽろぽろ、涙を溢していた。


慌てて、母さんの顔を見る。


違うの、母さん。

怖くて泣いてるんじゃないの。


母さんが、悲しかったんじゃないかって、そう思っただけなの。


でも、母さんは。

なぜかいつも、私の気持ちなんてお見通しで。


「大丈夫よ、サーヤ。私にはあなたがいるもの。・・・あなたがいたから、私は頑張れたんだもの」


そう言って、母さんはわたしをきゅっと抱きしめて。


・・・うん、知ってる。

知ってるよ、母さん。


王さまが、母さんを助けてくれなくても。

怖そうな王妃さまが、意地悪してきても。

サルマンとかいう魔法使いが、攻撃を仕掛けても。

王宮から追い出されても。


母さんは、私を育ててくれた。

ここで、私を守ることを選んでくれた。


母さん。大好き。


私が今、ここで生きていることが、母さんの優しさの証なの。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ