俺は悪くない
アユールの命を受け、さっとマントを羽織ってクルテルは森の中へと消えていった。
そして、何をどうやったのか、その後すぐに道具を山のように抱えて戻ってきたのだ。
驚く二人をよそに、アユールは当然のことのようにクルテルから荷を受け取ると、調査の準備に入った。
それからというもの、アユールは、道具をあれこれと引っ張り出しては、取っ替え引っ替え試しつつ、なんとか術の特定と、それを解く手掛かりを見つけようと懸命に奮闘している。
計器を片手に、サーヤの瞳の中を覗きこんだり。
瓶に入った何かの液体を、サーヤの人差し指に垂らしたり。
両手をサーヤの前にかざして、何やらぶつぶつ唱えたり。
記録を取って、調べて、本を開いて、考え込んで、道具を取り出して・・・。
さっきから、しかめっ面で、ああでもない、こうでもないとブツブツブツブツ言っている。
その光景をずっと目の前で見ているサーヤは、自分にかけられた術よりもアユールの体調の方が気になって、さっきから、はらはらドキドキしっぱなしなのである。
・・・大丈夫かな。
まだ、体力もたいして戻ってないのに。
クルテルくんの調合した解毒剤(?)のおかげで、やっとベッドから体を起こせるようになったけど。
それでも、まだやっと上半身を起こせるだけ。
もっと休んでなくちゃいけないのに。
ああ、ほら。
少し怠くなってきたでしょう?
額に冷や汗が滲んできてる。
でも、アユールさんは、そんな私の心配など、もちろん気づく筈もなくて。
「ううむ、ずいぶんと、古めかしい術のようだな・・・」
「この計器にも引っかかりませんか?」
「ああ、さっぱりだ」
「では、こちらはどうでしょう」
クルテルが、持ってきた袋の中から、また別の道具を取り出す。
受け取ろうとしたアユールの上半身が、少し、ふらついて。
あ・・・!
私は慌てて両腕を延ばして、彼の体をがしっと支えた。
「師匠?」
「・・・大丈夫だ。少し、くらっとしただけ・・・って、あ、あー。・・・サーヤ」
ん?
顔を上げると、アユールさんの顔が、赤い。
大変。熱まで出てきた?
片手を、そっとアユールさんの額に当てて。
「サ、サーヤ? な、な、なにを・・・」
・・・うん、熱は大丈夫かな?
ほっとして、アユールさんの額に当てた手を離すと、なぜだろう、アユールさんは、口をぱくぱくさせている。
え? どうしたの? 今度は息が苦しいの?
慌てて呼吸を確かめようと、アユールさんの口元に触れようとしたら・・・。
「はいはい、サーヤさん。ストップ、ストップ。そこまででいいですよ〜」
なぜか、にやにやしているクルテルくんに止められてしまった。
「心配なのは分かりますけど、それ以上触ると、師匠が死んじゃいますからね」
「・・・すまん、クルテル。助かった・・・」
!? 死んじゃう?
慌てて顔を見ると、アユールさんは、さっきよりもさらに顔が赤くなっている。
頭でも痛いのだろうか、手で両目を覆って天井の方を見上げていて。
ええええ? 大丈夫? 大丈夫なの?
「・・・師匠。サーヤさんが、心配して半泣きになってます。その紛らわしい態度をなんとかしてください」
「ええ? 悪いのって俺か? 俺じゃないよな?」
「顔に似合わず純情な師匠が悪いです。・・・大丈夫ですよ、サーヤさん。師匠はちょっと薬の効果が切れてきたようですから、もう一杯飲んでもらいますからね。師匠の命に別状はありませんので安心してください。まぁ、とにかく、一旦ここで休憩を入れましょう」
顔に似合わず、のところは、よく意味が分からなかったが、命に別状はないという言葉にほっとして、ようやくアユールの体を支えていた手を離すと、アユールはそのまま脱力して、ぼふん、とベッドに倒れこんでしまった。
俺は悪くない、俺は悪くない、とブツブツ言いながら。




