レーナの涙
クルテルは、とりあえず、アユールに飲ませる最初の一杯分だけをさっさと作って飲ませると、作り置きをすると言って、大きな鍋に、手際よく薬の材料を入れていった。
結果、床の上には、瓶やら袋やらがずらりと並べられ、携帯用コンロの上でぐつぐつと何やら怪しげな色をした液体が煮込まれている。
通心とやらで、大まかな事情をアユールから聞いていたらしいクルテルは、作業をする傍ら、こまごまと事の詳細を尋ねてきた。
「・・・へぇ、最初は師匠が、サーヤさんをライガルから庇おうとしたんですか。・・・まったく、そんな体で見栄を張ったりして」
「でもね、それはもう、素敵だったんですって。サーヤが、感動しちゃってね」
母の言葉に、サーヤが頭をぶんぶんと縦に振る。
それを、まんざらでもなさそうな顔で聞いているアユールを横目に、クルテルがぼそりと呟いた。
「・・・すぐに気を失ったのに?」
「・・・うるさいぞ、クルテル」
「え~、だって、そうなんでしょう? 結局は、サーヤさんのおかげで助かったんですよね?」
「・・・まぁ、そういうことになるかもしれんが」
このふたり、本当に仲がいいんだなぁ。
サーヤは呑気に感心していたけれど、ふと、アユールの視線が何度かレーナに向けられていることに気づいて。
そして、どうやらクルテルも、そしてレーナ自身も、その視線に気が付いているようだ。
・・・どうしたの?
不思議そうな顔をするサーヤに、レーナは、大丈夫よ、と微笑みかける。
しばらくサーヤの顔をじっと眺めた後、レーナはアユールに向かって口を開いた。
「アユールさん、私がなぜサルマンを知っているかをお話しする前に、ひとつ聞きたいことがあるのだけれど」
アユールが、静かに頷く。
「・・・クルテルくんは、アユールさんが王国一の魔法使いだ、と言っていたけど、それは本当なのかしら?」
「・・・俺は強いぞ」
「今のこの姿じゃあ、想像つかないかもしれませんが、師匠の実力は王国一ですよ」
「あの宮廷魔法使い長、サルマンより?」
「・・・正直言って、今回どうして師匠が術にかかってしまったのか理解できないんですけどね」
そう言ってクルテルは、アユールに視線を送る。
それにアユールは、ぷいっと目を逸らして。
何故だかアユールは、そこだけは頑なに話そうとしないのだ。
「まぁ、とにかく、師匠の普段の実力は、サルマン以上、それだけは確実です」
「・・・そう、ですか」
サーヤの頭を撫でながら、レーナは静かにそう呟いた。
・・・母さん?
アユールもクルテルも、黙ってレーナの言葉の続きを待っている。
部屋の中は静まり返り、聞こえるのは、クルテルの手元にある鍋が、ぐつぐつと薬を煮出す音だけ。
少しの間の後。
レーナが、ぽつりと言った。
「じゃあ、あなたなら・・・」
はらり。
涙が、レーナの目からこぼれ落ちた。
サーヤが、アユールが、そしてクルテルが、驚いて、はっと息を呑む。
「サルマンを凌ぐ実力のある、あなたなら・・・この子の・・・奪われた声を取り戻せるかもしれないのね」
え・・・?
アユーラとクルテルが、揃ってサーヤに視線を移す。
私の・・・声?
・・・奪われ、た?
でも、サーヤも母の言葉の意味が分からず、ただ目を大きく見開くばかりで。
「・・・どういうことだ?」
アユーラは、怪訝な表情でレーナに問いかけた。




