吹っ切れてますから
「ここにいるのが僕たち二人だけって事は、今の話、サーヤさんの事ですよね」
クルテルが静かに答えた。
隣に座っていたサイラスが、え? と驚いたように顔を上げ、クルテルとアユールの顔を交互に見る。
「・・・いつ、気づいたんですか? 師匠」
驚きを隠さずにいるサイラスに対し、クルテルは至極冷静なままだ。
「あいつのために何かしたいって、魔力を全部くれるって言ってくれた時・・・かな」
「そう・・ですか」
「・・・」
「まぁ、サイラスの方は、もうちょっと前から気づいてたけど」
「ええ? そんなバレバレでしたか、僕?」
「まぁ、ものすごく分かりやすいですからね、サイラスさんは」
恥ずかしそうな様子のサイラスに、クルテルが容赦なく突っ込みを入れる。
「いや、でも、クルテルくんもだったなんて、僕は全然気づきませんでしたよ」
「当然でしょう。最後まで気づかせないつもりでいましたし。・・・まぁ、結局バレちゃいましたけど」
もう夕日はすっかり地に落ちて、辺りは暗くなってきていた。
互いの顔は、表情は何とか確認できるけれど、それも薄闇の中であって、細かな変化は読み取ることが出来ない。
「師匠は馬鹿かと思うくらい真っ直ぐな人ですし、サイラスさんはそもそも嘘が吐けない性格ですしね。お二人と比べれば、僕は感情を隠すのが相当上手いんじゃないでしょうか?」
しらっと言ってのけたので、二人がジト目で睨んでくる。
「この三人の中で、一番年下なのに何故・・・」
「実年齢と精神年齢は連動しませんよ」
「可愛くねぇ・・・」
ぶすくれる二人を前に、クルテルが得意げな笑みを浮かべる。
「まあ、師匠が鈍感なのは今さらです。それに、僕がサーヤさんに会った時は、もう師匠に恋をしていましたからね。残念ながら、僕のつけ入る隙なんて最初からありませんでした」
「・・・僕なんか、もっと後ですもんね」
懐かしそうに話す二人は、表情も穏やかで。
困ったように眉根を寄せているアユールに、というよりは、自分に言い聞かせるように話している。
「だから師匠が気にする事じゃないんです。というより僕、師匠の事が大好きなサーヤさんが好きなんですよね」
「あ、なんかそれ、分かる。アユールさんといる時のサーヤさんって、すごく可愛いですよね」
「・・・」
「・・・なんですか、師匠、その顔は。僕たち、別にマゾでもなんでもありませんからね?」
二人の会話を呆気に取られながら聞いていると、クルテルからじろりと睨まれる。
慌てて「わかった、わかった」と両手を上げて頷いた。
少しばかり緊張していたのだろうか。
アユールは、ふ、と息を吐いて。
「・・・でも、正直に答えてくれてありがとうな。お前たち」
前髪をくしゃりとかき上げながら、照れくさそうに呟いた。
「お前らが本気だって分かっても、俺はあいつだけは譲れないんだ。不甲斐なくて、後先考えなくて、いつもお前らに心配かけてばっかりの俺が、こんなこと言うのもアレなんだが・・・」
「・・・分かってますよ。・・・ねぇ、サイラスさん?」
「う、うん」
二人は互いに顔を見合わせて頷き合って。
それからアユールに向かって、ぴょこんと頭を下げた。
「師匠になら任せられる、そう思ってますから」
「そ、そうです。アユールさんなら信じられます」
「おいおい、止せよ。頭を上げろ」
慌てるアユールの顔を見上げるように、ちら、と視線だけ上にすると、ぱちっと互いに目が合って、思わずぶはっと吹き出した。
何で笑っているのかも分からない。
理由なんてどこにもないし。
なのに三人共、嬉しそうに、楽しそうに、腹を抱えて大笑いしている。
一番先に呼吸が整ってきたアユールが、最初に口を開いた。
「ありがとな。お前たちの期待に応えられるよう、頑張るから」
「・・・幸せにしてあげてくださいね」
「もう勝手に、一人で突っ走ったら駄目ですよ? 何かあったら、サーヤさんが悲しむんですからね?」
「・・・わかってるよ」
10歳と11歳に諭されて、少々居心地悪く感じながらも、アユールを含め、三人共、表情はとてもすっきりとしていて。
「ああ、そうだ」
クルテルが思い出したように声を上げた。
「どうした、クルテル」
「これまで通りの態度でお願いしますね。これで今更、変な遠慮なんかされたら、却って僕たちは吹っ切れなくなっちゃいますから」
「え?」
「ああ、それは確かに・・・」
成程、といった風にクルテルの言葉に同意するサイラスを見て、アユールは怪訝な表情を浮かべた。
「本当ですよ。僕だって次の恋に進みたいんです。だから今まで通り、公衆の面前でいちゃいちゃして、これみよがしに見せつけて、これはダメだと僕たちにすっばりきっぱり前を向かせてくださいね」
「お前、その言い方・・・」
へなへなと脱力するアユールを見て、クルテルとサイラスは、あはは、と声を上げて笑った。




