一番弟子です。僕以外はいませんが
「でも、本当にどうするつもりですか? そんな事情では、いくら休んでもまともに動けるようには・・・」
「問題ない。もう、直に来る」
「え? 来るって・・・」
レーナが問いを投げかけようとした、その瞬間、ドアをノックする音が聞こえた。
きょとん、とドアの方を振り向くサーヤを、慌てて自分の腕に抱えるレーナの顔に警戒の色が浮かぶ。
「大丈夫だ。怪しい奴ではない。俺の弟子だ」
「弟、子・・?」
「俺が呼んだのだ。通心を使ってな。薬を調合してもらわなくては、このままずっと、ここから動けんからな」
アユールの言葉に、レーナがそろりと振り向いて、ドアの向こうの様子を伺うと、可愛らしい子どもの声がする。
「こんにちは〜。どなたか、いらっしゃいませんか〜? あれ? おかしいなぁ。僕、家を間違えたのかな? でも、この辺には、ほかに家らしいものはないし・・・」
トントンと叩き続けながら、ぶつぶつと喋るあどけない声に、レーナは、あからさまにほっとした表情になり、サーヤを腕から離して玄関に向かった。
「あ、よかった。どなたもいらっしゃらないかと思いました」
年は10かそこらだろうか。
ハシバミ色のくるくるとした巻き毛がなんとも可愛らしい男の子。
師匠がお世話になりまして、とぴょこんと頭を下げる。
「アユール・サリタスの一番弟子、クルテルと申します。師匠に喚ばれて、薬湯の調合に参りました。中に入ってもよろしいですか?」
小さいのに、なんともしっかりした子で。
すたすたと中に入り、ベッドに横たわるアユールの姿を見ると、ふう、と大きなため息をひとつ吐いた。
「・・・なんだ」
「まったく、何やってんですか、師匠。・・・そんなボロボロになっちゃって、よそ様にすっかりご迷惑かけて・・・」
あらら、まるで奥さんみたい。
思わず、サーヤはレーナと顔を見合わせて、くすくす笑う。
「もう、王宮に行ったっきり帰ってこないから、一体何があったのかと心配しちゃいましたよ。途中から通心すら来なくなっちゃうし。やっと連絡が来たと思ったら、黒の森のふもとにある家で寝たきりになって動けないとか言ってるし・・・。まったく、王国一の魔法使いが聞いてあきれますね」
持ってきた荷物の中から、てきぱきと、道具やら薬瓶やら薬草やらを、どんどん取り出していく。
その間、お説教をする口も止まることがない。
「そもそも油断しすぎなんですよ、単身で王宮に乗り込んだくせに。自己過信もほどほどにしてもらわないと、こっちの身が保ちません」
アユールの渋面など、気にする風もなく、クルテルはとうとうと説教を垂れ続けて。
少し高めの可愛らしい声で、背もどちらかというと小さい方なのに、話の内容はまるで大人のようで結構きついことを平気でポンポン言っている。
うわぁ。・・・この子、本当に私より年下?
なんか、すごくしっかりしてるけど。
まじまじとお弟子さんを眺めていたら、彼が荷物を置いた拍子に、ばちっと目が合って。
クルテルが、頭を下げて挨拶をする。
「こんにちは。師匠が大変お世話になりました」
慌てて頭をぴょこんと下げる。
一瞬、ん? という表情になって。
それから、ああ、という表情になって。
「師匠が言ってた、ライガルから守ってくれた可愛い女の子ってあなたですね」
と言った。
その後ろでは、ベッドに横たわったアユールが、クルテルの言葉に思いっきり顔をしかめていた。