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最終話 再会

 



 少年は目を開いた。

 自室の天井が広がっている。


 ――夢か。

『あの日』の夢を見ていた。

 いつまで経っても忘れることはできない。



 またいつも通りの一日が始まる。

 ただ保有者を狩り、少女との遭遇を待つだけの生活だ。


 暗いダイニングで朝食を取る。

 乾パンと庭で取れた野菜。

 簡単で必要最小限。


 それから小銃を持って家を出た。

 アパートの屋上に陣取り、狙撃を始める。


 バスに閉じ込められたままの保有者を見付けた。

 ガラス越しに頭を撃ち抜く。


 次は駅前に佇む男子高校生。

 その次は――。

 そうして撃っていく。

 憎しみを晴らし、少しでも殺しに慣れるための作業だ。


 少女と再会した時、もう躊躇ってはいけない。

 殺すことだけが虚しい死を終わらせるから。



 陽が暮れ、少年は家に帰った。


 夕食を取る気にもなれず、布団に入る。

 もし少女が生きていたならば、夕食という名の宴会に付き合わされていただろう。

 不健康なことだが、今の生活よりはよっぽどまともだろう。


 そんなことを考えながら、少年は眠りに沈んだ。



 ふと微かな声が鼓膜を揺らした。

 反射的に起き上がる。


 保有者特有の呻き声だが、他とは何かが違う。

 眠気はすぐに消えた。

 保有者がいるなら殺さなければならない。


 窓から外を見る。

 時刻は深夜三時。

 闇が辺りを支配していた。


 目を凝らす。

 バリケードの奥、朧げに人影が見える。

 女性、肩ほどのショートヘアー。


 少年はP230を掴み、部屋を飛び出した。


 玄関を出ると、煙たい夜の香りが鼻腔を撫でた。

 胸がざわつき、手が強張る。

 必死に梯子をよじ登り、バリケードを越えた。


 人影はそこにいた。

 ライトを当てると、懐かしい姿が浮かび上がる。

 ――少女だった。


「どうしてここに・・・・・・」

 あの日、少女は正反対の方向へ消えた。

 二度と少年に合わないように。


 少年は、はっと気が付いた。

 僅かに記憶が残る保有者。

 彼女もそうだったのだ。


 発症し、歩く屍となっても少年を忘れることができなかった。

 そして、かつて過ごしたこの家まで彷徨ってきたのだ。


 銃口を上げる。

 躊躇はない。

 懐かしさと悲しみが広がる。

 ――『その時』が来たのだ。


 少女が微笑んだように見えた。

 あの八重歯が覗く笑顔で。


「顔、ごめん」

 引き金を引く。

 弾が眉間を貫いた。




 アパートの屋上。

 今日も少年は狙撃をしていた。


 少女を殺しても世界は変わらない。

 相変わらず保有者が彷徨い、独りきり。

 撃つこと以外にすることはない。


 駅前交番の脇。

 ジャージを着た保有者がいた。

 スコープの十字を頭部に合わせる。

 いつも通り、撃ち抜いた。


 このまま独りきりで生き続けるのだろうか。

 目標を失い、ただ屍を殺すだけの日々を。


 ――それでも構わない。

 保有者の虚しい死を止めるのは自分自身しかいないのだ。

 ならば、続けるしかない。


 新たな標的に照準を合わせた。

 そっと息を吐き、引き金を絞る。

 反動が肩を揺らす。

 吐き出された5.56ミリ弾が脳を掻き回していく。


 ――歩く屍が倒れた。






お読みいただき、ありがとうございました。

本作は、現在絶賛下書き中の長編をベースにしたものです。

また、『死んだ街でふたり言』(https://ncode.syosetu.com/n8740es/)も同様の設定ですので併せてお読みいただければ幸いです。

それでは、またいつか。

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