馬鹿
「これ、作ったの!食べて食べて」
そう言って置かれたのはブロッコリーが入ったシチュー。
馬鹿。
俺はブロッコリーなんて嫌いだよ。
でもそんなこと知らないだろうから黙って食べた。
「この漫画ちょー面白い!明人も読もうよー」
そう言って渡されたのは超有名な嫌いな人なんていないんじゃないかと思われる漫画。
馬鹿。
俺はこれ嫌いなんだよ。
何回読んでもストーリーがつまらない。
でもこの漫画を嫌いなのは多分俺だけだろうからありがとうと言って借りた。
「最近さ、元気ないね」
馬鹿。
気のせいだよ。
全然元気だよ。
何も心配しなくていい。
俺はずっとお前と一緒にいるから。
馬鹿。
なんで黙ってたの?
本当は知ってた。
ブロッコリー嫌いだってこと。
嫌な顔しないで黙って食べてくれたよね。
漫画も、私と好み合わなかったのにいつも面白かったよって言ってくれた。
なのに、病気だってことは知らなかったよ。
死ぬときになって知るなんて私も馬鹿だなあ。
なんでこんなことになったんだろう。
病院で彼が言った最後の言葉。
『ごめんな、ずっと一緒にいられなくて』
ごめんって言いたいのはこっちだよ。
ごめんね、気づいてあげられなくて。
ごめんね、なにもできなくて。
今更遅いよね。
この言葉はもう、あなたには届かない。