お説教の時間です
「こんなもんでいいだろう。」
そう言いながらあたりを見渡すと周りにはドラゴンの死骸が転がっている。
数匹のブルードラゴンが山から羽ばたいて逃げ出すが、わざわざそれを追撃することはしない。
ドラゴンは基本的に知能が高いので、自分たちが敵わないと感じた相手には二度と歯向かわないという習性がある。
それにわざわざ俺が追撃しなくても二、三匹のブルードラゴンなら冒険者が討伐するだろう。
ブルードラゴンは中級職の冒険者パーティからすると絶好の獲物なのだ。ほかの冒険者の稼ぎをわざわざ減らす必要もないだろう。
「さてと。この死骸はギルドに届け出たらいいか。運ぶのは骨が折れるしな。」
空を見ると日が傾き出しており、ちょうどいい時間だろう。パルカスに心配をかけても悪いしな。
うん?そういえば何か忘れてる気がするが・・・
まぁ忘れてしまったものは仕方ないとりあえず帰るか。
そうして俺は裏山を後にした。
―――――――
「・・・ですよ。まったく。」
「それは困ったものだね。」
パルカスの家に着くと中から会話が聴こえてくる。
パルカスに来訪者とは珍しいこともあったもんだと思いながらドアをノックする。
「話をすれば、というやつだね。コウエン空いてるよ。」
ん?俺の知り合いかだろうか?
パルカスに言われたとおり家に入るとそこにいたのは、シュルカだった。
俺はシュルカに挨拶しようと片手を挙げたところで、シュルカが不気味な笑顔をしていることに気がついた。
そうだ、シュルカしばらくの間は転職の影響があるかもしれないから安静にしていろと言われていた。ましてや、狩りなどもってのほかだと。
パスカルの方に視線をやると、あいつは笑いをかみ殺していた。
「コウエンさん。体の調子は随分といいようですね。」
「お、おう。さすがシュルカだ。心配はしてなかったが、無事転職は成功したみたいだ。」
「それはそれは。なによりですね。」
怖くて目が見れない。ここまでシュルカが怒るのはいつぶりだろうか。こうなるとシュルカの機嫌はなかなか治らない。
とにかく謝ろう。女性にはまず自分から謝ることが大切なのだ。
「シュルカすまない。昨日の君の発言を蔑ろにしたわけじゃないんだ。魔法が楽しくなってしまって。思わず体が動いてしまった。万が一に備えて剣も持っていったから安全マージンは十分に確保していたつもりだ。」
しまった。これでは言い訳がましかったかもしれない。
シュルカの額に青筋が浮かんでいく。
「コウエンさん。いやコウにぃ。剣を持っていったってどうしようもないでしょうが!もう剣士じゃないんだよ?剣を持っていったからって前みたいには動けないの!魔法だって、いくら優秀な職業でも限界があるの!コウにぃいつも言ってるよね?基礎のできてない冒険者が多いって。今の自分がその立場にいるのわかってる?」
そこからはシュルカの気が済むまで俺は小一時間正座のままお説教されてしまったのだった。
―――――――
「シュルカ君気は済んだかい?今回の件は僕にも非があったからね。そのへんにしておいて上げてくれよ。」
パルカスがそう切り出した頃には既に俺のHPは残っていなかった。
「う。パルカスさんがそう言うなら仕方ありませんね。今日はこれぐらいで勘弁してあげましょう。」
「ありがとう。さ、時間も時間だから晩ご飯でも食べようか。僕の家には悪いが二人をもてなせる程食料がないからね。お詫びも兼ねて食事を奢ろうか。銀橋亭には昨日行ったようだから、今日はピザでも食べに行こうか。いいワインを仕入れる店ができたらしいからね。」
助かった。パルカスに助かったとアイコンタクトを送るとウインクで返してきた。
「それって、ギルドの裏道にできたところですか?嬉しい。前から気になってたんですよ!」
シュルカの機嫌は一気に治ったようでホッと胸をなでおろす。シュルカは昔から熱しやすく冷めやすい。
「じゃあ早速行こうか。ほらコウエンもたちなよ。」
これじゃ誰が年長者かわかったもんじゃないな。