初仕事を依頼されました
よろしくお願いいたします。
魔法の練習が終わり今はパルクスの家で午後のティータイムを楽しんでいる。
普段はお茶に興味などないが、パルクスの所へ来た時にもらうお茶は素人でもわかるほどに美味しい。
さらにそこに長年研究者として世界を回るパルクスが見つけて来たお茶菓子も絶妙にマッチしている。
「コウエン。ティータイム中で悪いが、相談があるんだよ。」
俺がお茶菓子を頬張っているとパルクスは話しかけて来た。
「君からの頼みなら喜んで受けよう。ただし俺ができる範囲ならだがな。」
「大丈夫さ。君にできないことは基本的に他の誰に頼んでも無理なのさ。」
そんな事ないだろうがと思うが、褒められて悪い気はしないので訂正はあえてしない。わざわざ訂正しなくてもパルクスは俺がそう言うとわかっているのだ。
「で、頼み事とはなんだ?また、金龍の逆鱗か?それか、女神の涙か?今は魔導王になりたてで、そこまでのものは無理かもしれないぞ。」
俺は今まで行った中でも特別骨が折れた依頼を嫌味も込めて列挙して行く。
「それらは私が悪かったとはいえ、もうそろそろ許していただきたいね。今回はもっと簡単さ。ただちょっと数がいるので君に頼みたいのさ。」
「冗談だ。もう気にしてない。だから依頼を教えてくれ。」
「ああ。今回頼みたいのは家の裏の山に住み着いたブルードラゴンの群れを追い払うか殲滅かして欲しいのだよ。」
「なんだ、そんなことか。それぐらいならばすぐにでも取り掛かろう。」
ブルードラゴン狩りは久しぶりだ。奴らはブレスぐらいしか大した攻撃がない上に、耐久力だけは他のドラゴンを大きく上回っているから魔法の練習にはうってつけだろう。
「早く行ってくれるのはありがたいのだが、君はもう剣術は使えないだろう?そんなに軽装備で大丈夫なのかい?」
剣術が使えない?朝の稽古の時点では使えない感覚はなかったはずなので不思議な顔をしてしまう。
それを察したのか、パルクスが口を開いた。
「まさか、まだ剣術が使えるのかい?」
そんな当然のことを聞かれても困るのだが、とりあえず頷いておく。
するとパルクスはまたしても深いため息をつき、呆れ果てたとばかりに手で顔を覆った。
「あのね、コウエン。君はほんと常識知らずだよ。いや、常識外れが正しいか。転職すると基本的には以前の職業の技は使えなくなるんだよ。同系統の職業の場合や同列スキルが習得可能な場合を除いてはね。だから、魔法剣士以外で剣を使う魔導師はいないだろ?」
たしかに、そう言われて見れば今までギルドで見た魔導師はまるで英雄譚に出てくるような典型的な魔法使いばかりだった。それも、英雄譚に憧れてのことだとばかり思っていたが、そんな理由があったとは。
「あくまで推測だけれど、考えられる理由は二つ。一つは僕の無詠唱魔法のようにスキル補助なしに剣術を練習していたから。もう一つは初級マスタリーの特典かもね。」
その後もパルクスは独り言を言いながら、ブツブツと考え込んでいた。
研究の虫である彼からすれば新しい発見ほど面白いものは無いのだろう。
「とりあえず、俺は剣術も使える。だからいざとなったらブルードラゴン程度問題じゃないさ。だから行ってくるよ。数にもよるが夜までには終わらせて、一度報告に来るからな。」
聞いてるのか聞いていないのか微妙だがパルクスは手をヒラヒラさせ了承のサインを送って来た。
このまま研究と称して色々調べられても面倒なのでそそくさとパルクス家の裏山に向かった。
道中でも魔法の練習は欠かさない。一人で向かううちにどんどんと魔法ののインスピレーションが湧いてきて、早く試したくてウズウズしてしまう。こんな気持ちになるのはいつ以来だろうか。
家を飛び出す前は剣術の授業のたびにこんな気持ちになったもんだ。
そういえば、師匠は元気だろうか。
俺には教えることがないとすぐに弟や妹にばかり稽古をつけて師匠と呼んでいいかもわからない関係だが、結果的には、俺に手をかけず弟と妹に手をかけることで剣聖と剣姫を育て上げた功労者として認められたことだろう。
フェルナンドとユーベルは元気だろうか。
最後は結局何も言わず出てきてしまった事は今でも後悔している。
二人は最後まで俺を差別しなかった。
それどころか、いつまでも尊敬する兄だと言ってくれた。
今にして思えばそれもプレッシャーになっていたのかもしれない。良き兄、規範となれる兄であろうとすればするほど自らの才能の無さを感じ苦しくなってしまった。
最後の一年なんかは、会話もめっきり減って俺から避けてしまっていた。
もし、また会うことが出来たら少し吹っ切れた俺を見せようと思う。
そんなことを考えながら気付くと裏山の麓についていた。
気配を探るとたしかにブルードラゴンの巣があるようだ。
さて、剣聖と剣姫の兄としてはいささか物足りないだろうが、魔導王として顔を見せられるぐらいの力は手に入れておくことにしよう。
「俺の練習に付き合ってくれよ。さぁ、トカゲ狩りの時間だ。」
まずは、そうだな。思いついた魔法を片っ端からぶっ放してやろう。なに、時間も実験体も山ほどある。ゆっくり楽しむことにしよう。