職業の補正をヒシヒシと感じます
「ふふふ。では、まず基礎からだ。魔法とは一体何で構成されていると思う?」
「魔力じゃないのか?」
反射的に答えるがパルクスはやれやれと行った表情だ。
こうして人を小馬鹿にした態度をとるから友達が出来ないんだと思ったが、それは心にしまっておくことにした。
「魔法式と魔力と魔素だ。魔素を知ってるか?」
「ああ、これでも貴族の出でな。空気中に漂う魔力ではなかったか?」
「概ねその解釈で合っている。さて、この構成している三つだがこの順番にもきちんと意味がある。まず魔法式を構築しどんな魔法にするかを決める、その後魔力を流し込み魔法の核を作る。そしてそこに魔素を集め完成させる。」
そう言いながらパルクスは小さな火球をゆっくりと構築していき部分部分で止めながら説明してくれた。
実にわかりやすい。
しかしここで一つ疑問が浮かんだ。
「ここまでは分かるのだが、今きみは無詠唱でこれを作っていたが、詠唱は要らないのか?」
そう。俺が一番悩んでいたのが詠唱なのである。
長ったらしい言葉をつらつらと唄い時間がかかるのが魔法で有名だったはずだ。
「詠唱は、非効率であり、発動が遅く良いところなどないから要らないのだ。」
パルクスの語調がやや強くなる。
これは地雷を踏んだかもしれない。
「分かった分かった。すまんことを聞いたな。続けてくれ。」
「わかればよろしい。では、早速鍛錬を始めようではないか。」
パルクスの機嫌が戻ったようで良かった。愚痴が始まると長いのは昔からの悪い癖だ。
文字通り一晩中聞かされたこともあるほどだ。
「最初はどんなことから始めたらいい?」
「そうだな。順番通り行くとするか。まずは魔法式の構築から始めようではないか。」
パルクスはそう言うとおもむろに紙を取り出し何やら複雑な式を書き込んで行く。
「よし、これが魔法式の根幹たる魔力で核を作ると言う部分だ。ここから変化を加えて行くことによって様々な魔法を発動させることができる。」
そう言いながら手元に魔法の核だけを作り出して説明してくれた。
「今のきみならこの魔法式を理解することができるだろう。なんせ、君の職業は魔導王なのだから。」
そう言われて俺は魔法式に目をやるとすぐさまそれを理解できた。
「そうか。これが上位職の恩恵なのか。」
俺は今まで下級職のなかでも一番下の初級職にしかついていなかったので職業の恩恵を感じる機会が少なかった。
「そうだ。君は知らないだろうが他の職業も同じように様々な補正がかかるのだよ。まぁ、魔導王の補正の凄さはこんなものではないだろうがね。」
俺はその魔法式を展開してみた。するとすんなりと魔法式が展開し、そこに魔力が吸われる感覚を感じた。
そして目の前に魔法の核が現れた。
先程パルクスの作ったものと見た目は変わらないがパルクスの作ったものよりも数段魔力を感じる。
「早速魔力の扱いを学んだようだね。今君は魔力が吸われる感覚を味わっていると思う。そこに魔力を吸わせないように独立させることが出来たら核の完成だ。」
言われた通りに魔力を遮断するイメージをする。
すると核は独立し、それ以上魔力を吸われなくなった。
「普通、これが出来るようになるまで何年もかかるのだが、君の才能には恐れ入ったよ。」
パルクスはニッコリと微笑みそういった。
「そうだな。この次の手順は家の中で失敗すると大惨事だから外に行こうか。」
俺は一つ頷き立ち上がる。
そこで自分の作った魔法の核ををどうしようかと思いさっきとは逆にこちらから吸い込むイメージをした。
すると予想通り俺の体内に吸収され先程消費した分を取り戻した。
ふとパルクスを見るとパルクスはあんぐりと口を開けこちらをみていた。
「どうかしたか?」
パルクスは何か言おうとしてやめ、深く大きなため息をついた。
「あのね。魔法ってのは基本的に一方通行なんだよ。放出して、吸収出来るなんて初めてみたよ。けど、君には、これがどんなにすごいことか伝わらないだろうなぁ。」
パルクスは、もう一度大きなため息を吐き外に向かって歩き出した。
どうやらかなり凄いことらしいがパルクスの言う通り何が凄いのか全くわからない。
考えても仕方ないので外に出る事にした。
「じゃあ始めようか。まずはさっきの核を作り出してくれ。」
先ほどと同じ要領で核を作り出す。
うむ。二、三回しか試していないがもう失敗する事はなさそうだ。
「よし、じゃあそこに魔素で肉づけを行う。これは、核が作れたら簡単だ。イメージを膨らませるだけさ。例えば炎。」
そういうと、パルクスは核を手早く作り魔素を集めていく。さっきまでは見えなかった魔素の動きを捉えることが出来たのは、魔力を知覚したからだろうか。
「核は自分から魔力を与えなければ魔素を吸収してくれるんだよ。そして、その魔素で形作るだけ。どんな魔法にしたいかイメージするだけさ。」
いかにも簡単そうに説明するパルクスを見て、弟子たちが誰も無詠唱を覚えられなかった訳がわかった気がしてしまった。
ともかく、俺も試して見る事にしよう。
そうだな。最初は良く魔導師が使っている火球をイメージしてみようか。
すると、簡単に火球が出来てしまった。
サイズは普通の火球と同じサイズ。今までの魔導王のスペックからするとやや期待外れ感が否めない。
「上手くできたじゃないか。やっぱり最後は簡単だろう?じゃあその火球をそこの的に向かって放って見てくれ。」
パルクスは庭にある人型の的を指差した。
俺は火球を持った右手を的に向けて、放った。
火球は勢いよく飛んでいき、見事的に命中した。
「やるじゃないか威力はそれなりだが、命中精度は大したもんだよ。」
やはり威力はそれなりなのか。魔導王だからと何から何までできるわけじゃないんだな。
それでも、ここまで来るのに普通の魔導師はかなり時間がかかるのだろうか。
パルクスに聞くか。
「普通の魔導師がここまで…」
そこまで言ったところでパルクスの言葉に遮られた。
「いや、まだだ。魔素の動きが止まっていない。僕に近寄ってくれ。魔導障壁。」
パルクスはそういうと、俺と自分の周りに魔導障壁を貼り、防御の構えをとった。
その瞬間先ほどの的を中心とした炎のドームが出来上がった。中の温度はどれほどだったのだろうか、想像もつかない。的は跡形もなく塵になってしまったようだ。
「一体君はどんな想像で火球を放ったんだい?」
「普通の魔導師の火球だが。」
パルクスは呆れ果てたのかもう何も言わなかった。