俺のシャカパチは天を貫く
俺の名前は山代 智也、22歳。
昨日まで、実家で親のすねをガリガリと齧りながら、箸にも棒にも引っかからない
3流大学を3留しつつ、TCGを嗜む大学生だった。
だったのだが。
気が付けば俺は四畳一間の部屋を宇宙空間に切り出したみたいな、
なんとも言えない変な場所に居た。
「目覚めましたか、トモヤ」
透き通るような声で名前を呼ばれて、思わず起き上がる。
そこに居たのは、サラサラで金色の長髪、
蒼い瞳をした、あからさまに天使っぽい見た目の女の子。
あー、これ知ってる。異世界転生ってやつだ。俺は詳しいんだ。
「申し訳ありません、あなたは本来死ぬべきではない運命だったにも関わらず、
我々のミスによって死んでしまったのです」
すげー聞いたことあるこの文句。
っていうか死んだのか、俺。
確か行きつけのカードショップで遊〇王やってたと思うんだが。
常連の川崎くんとか大丈夫だろうか。
ショップごと地震とかに巻き込まれたりしてないよな?
「俺なんで死んだんですか?」
「それは、その。神々が……その、怒りに任せて」
怒りに任せて?俺をピンポイントにってことか?
それにしても、ずいぶんと歯切れの悪い物言いだ。
あと、身に覚えがない。
別に信仰熱心な方じゃないが、初詣だの千日参りだの、
神様を崇め奉る系の行事は網羅しているはずだし、悪いこともしてないが。
いや、そもそもコイツの言う神々って仏教系なのか怪しいな。
……ちなみに3留してTCGやってるのは悪いことじゃないよな?
「その、なんで神々はお怒りなんです?俺全然身に覚えがないんですけど」
「その…………………」
「…………………」
「…………………」
「カードをシャカパチ擦る音が、うるさいと………」
「……それかぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」
いや、申し訳ない。そればっかりは癖なんだ。
そうか、神々もシャカパチは嫌いか。
世の中には2通りの人間が居る。シャカパチする奴と、しない奴だ。
シャカパチするやつの形見は狭い。
やれカードが痛むだ、やれうるさいだ、周囲の批判がものすごい。
でも一回慣れちゃうと癖になって治んないんだなコレが。
っていうか俺のシャカパチ、神々に届いてんの?すごくね?
「その、本当に申し訳ございません。本当であれば、こんな私情で人の命を弄ぶなど、神々にあってはならないのですが、その……うっかり心臓止めちゃったらしくて……」
現実の俺はどうなってるんだろう。
シャカパチしながら白目を剥いているんだろうか。想像したくない。
「まぁ、いいや。起こったことはしょうがないし、シャカパチしてる俺も悪かった。」
「そうですね、あ、いやその……こほん。つきましては、天界のルールに則ってあなたを異世界に転生させたいのですが……」
今そうですねって言ったなこの天使みたいなヤツ。
「やっぱりなんかチートスキルとか貰えるんです?」
「あ、はい。望みをなんでも1つ叶えることになってます。
こういう生活がしたい、とか、ざっくりした感じになっちゃうんですけど。」
望みか……。
「最強になりたい」って言ったら雑に最強になる感じなのかな。
いや、そんなこと言ったら範〇勇次郎みたいな人生を歩むことになりそうだ。
きっと、雑にお願いしても、良い感じに運命やらで矯正されるんだろう。
だから、こういうのは短いテキストで端的に表されてるのが強い。
そう決まってるんだ。強〇な壺にもそう書いてある。
それなら、俺にはこれしか無い。
「俺は一生自堕落に、TCGで遊んでたい」
「……わかりました、ヤマシロ トモヤ。あなたの願い、しかと聞き届けました」
天使がぶわっと羽を広げる。四畳一間の宇宙が、ぐるぐると回り始める。
どういう原理か知らないが、これが止まるころには異世界に辿り着いてるんだろう。演出的に。
「しかし……死因がTCGなのに、まだTCGをしたいんですね、あなたは」
「だって面白いからさ、TCG。あんたもやりなよ」
「……私もこっそり趣味にしてたんですけどね。今回の一件でしばらく禁止になりましたよ」
天界にもTCGがあるのか。
ちょっとした好奇心を抱いて、この場所に未練を残しつつ、
俺の意識は、四畳一間の宇宙の回転に釣られて遠のいていき、そして……。
初投稿です。
少しづつ書き進めていきます。
目指せ完結。