トリプルスリー!?
こんにちは♪結月千冴と申します。
短編、始めました。
宜しくお願いします。
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急な雨に降られた夏休みの午後――
学校帰りに、ずっとシャッターが閉まっている一軒の店の前で、しばらく、雨宿りしていた。
さっきまで、太陽の日射しが照りつけていたのに…
変な気候だな。
少し濡れた髪と腕をタオルで拭きながら、止むまで待っていた。
パシャパシャ!
雨の中、誰かが、お店の軒下に入ってきた。
「…あーあ!制服、びしょ濡れじゃん!」
髪といい、制服といい、かなりすぶ濡れの人だった。
よく見ると、同じクラスの男子だったけど…
名前、誰だっけ?
正直、人の名前と顔を覚えるのは苦手なんだよね。チラリと視線を送ると…
「…あ!片桐!お前も雨に濡れたのか?」
「あ、うん。」
彼は、私の名前を知っているようだった。
まぁ、当然よね。
「あはは!そうか。急に降ってくるとか、困るよな!さっきまで、いい天気で、暑かったのにさ。」
彼は、そう言って、顔についている雫を腕で拭った。
「…タオル、貸してあげようか?少し使ったけど。」
私は、
タオルを彼に渡した。
「いいのか?片桐が使ってたんじゃなかったのか?」
「…そうだけど、私は、あまり濡れなかったし。そんなに濡れていたら、風邪ひくよ。」
「…うーん。確かに。じゃあ、遠慮なく借りるわ!」
濡れた顔と髪を、勢いよく拭いていた。
なんか変なの。
クラスメイトとこんな所で会うなんて、珍しいな。
顔は、覚えてるけど…
名前が…
夏休みになったと言うのにまだ、クラスの男子の名前も知らない人いるんだよね。恥ずかしいけど。
でも…
確か、この人あだ名が、あったんだよね。
とり?
さん?
うーん。
「……あ!わかった!」
私は、思わず声を上げた。
「え?…何が?」
彼は、キョトンとした顔でこっちを向いていた。
「…トリプルスリー!」
彼に向かって、言うと、
「こらこら!面と向かってあだ名言うなよ!」
「…ご、ごめん。」
思わずシュンと、した。
だって、名前覚えてないと言えないし。
「いいか!俺は、3年3組3番、内田翔平だ!トリプルスリーてのは、3年になってからのあだ名だ!」
彼は、勢いのある滑舌で、答えてくれた。
内田翔平君というのか。
「ごめんね。私、人の名前と顔を覚えるの苦手でさ。だから、あだ名を先に思い出したんだよね。」
「…あはは!まぁ、俺も名前知らん女子まだいるし。イチイチ名簿なんて見ねぇもんな!」
内田君は、鼻を掻いて笑っていた。
「はは!そうだね。」
「…お!雨止んだな。陽が射してきた。」
空を見上げると、暗い雨雲が遠く離れて太陽が射してきていた。
「おっと、これ、サンキューな!」
内田君は、貸したタオルを返してくれた。
「もう大丈夫なの?」
「おう!さすがに夏だな。制服も乾いてきたぜ。」
シャツの袖口をヒラヒラさせながら、答える。
雨宿りして、内田君と話していたら時間が経つの早く感じたなぁ。
「…んじゃ、帰るか。」
「うん!」
私は、内田君と他愛ない話しをしながら、あることを質問した。
「…ねぇ、トリプルスリーって、誰が付けたの?」
「え?ああ、ヨネだよ。」
「…ヨネ?」
首を傾げる私を見て、内田君は、吹き出した。
「ぷくく!ヨネは、片桐の隣の席だろ!」
「…え?どっちの隣?席替えしてわかんないよ!」
「右隣だ!」
「…ああ!クールで、イケメンな米沢くん!」
「いや、あいつは、ただのムッツリだから。」
「あはは!そんなこと言って大丈夫なの?」
「平気平気!あいつとは、小学校からのダチだからな大丈夫だ!」
「そっか。仲いいんだ。」
「大体な!トリプルスリーって、プロ野球選手の名誉ある記録の名前だぜ。ヨネも、大概、失礼なヤツだよな。」
「あはは!」
中学3年の夏休み。
受験勉強の合間の一時、おもいもよらないクラスメイトとの遭遇に、気分的に楽になった気がした。
卒業するまで、仲良くなれたらいいのにな。
「じゃあ!また、2学期にな!」
内田君は、手を降って曲がり角を走って行った。
そして、またひとつ、夏の思い出が増えたのだった。
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今回は、夏休みになってもクラスメイトの名前と顔が覚えられない女子を主人公にしました。
あなたにも、見に覚えあるんでは?