寸説《オトコノミコ》
寸説十作品目!
むかーし、昔の日本のある國のある村にとても長い艶のある黒髪の美しい歩き巫女が訪れた。
「一晩で良いので泊めていただけませんか?」
歩き巫女の頼みに村人たちは大歓迎。すぐに空き家を掃除して招き入れた。
優しい村人に歩き巫女は心を許して村の繁栄を神に祈りました。
ですがーー
「すまねえ巫女様」
歩き巫女が眠りに落ちた晩に村人たちは歩き巫女の家を襲って捕らえました。
「どうしてこんなことを?」
悲しげに目を伏せる歩き巫女に村人たちは土下座で頭を地面に擦り付ける。
「すみません巫女様。あなた様を生け贄にさせてください」
村長の苦しげな声に歩き巫女は柔らかく微笑む。
「理由をお話願えませんか? この命を捧げる意味を知りたいのです」
歩き巫女の笑顔に村人たちは涙を流す。
「実はーー」
ここ数ヵ月、村では災いが起こるようになったらしい。
近くの川では大雨でもないのに川が氾濫し、何故かこの村だけ毎日のように地震が起こるという。
村人たちが困っていると村に一人の若い男がやってきて彼らに言った。
『お前たちは神の怒りに触れたのだ! 赦してほしければ三日に一度、若い娘を山へと捧げろ!』
そう言うと若い男は龍の姿になって山へと飛んでいったという。
「我々は初めは訝しがりましたが田んぼまで荒らされ、やむを得なく村の若い娘たちを山へ送りました。すると三日間だけ災いが起きなかったのです。それからは約束通り三日に一度送っていました。ですが村には若い娘はもう居ないのです」
それでですか、と歩き巫女は納得して黙考する。
「それは地主神様ですね」
「地主神とは?」
「土地神様のことです。この村をお守りになっている土地神様の悲しみの涙が川を増水させて怒りの雄叫びが大地を震わせているのです」
歩き巫女の説明に村人たちは互いの顔を見合わせる。
「ですが我々は土地神様のお怒りに触れることは何も」
村人たちはホトホトに困ってしまいました。
「では私が訊いて参りましょう。神様が理由もなく私たちに災いをもたらすはずがありませんので」
任せてください、と無い胸を張って答える歩き巫女に村人たちは感激して夜が明けるまで祝いました。
その晩のこと歩き巫女は樹が林立し、草花の生い茂る小高い山を登り、山頂に辿り着いていた。
「ここですか」
歩き巫女の前に現れたのは見上げるほどの大岩だった。
「お前が今日の生け贄か?」
「!?」
大岩から抜け出てきたのはほっそりとした若い男だった。
「む? その格好は歩き巫女のものか。最上の神からの使いか?」
苛立ちを露にする若い男。彼の言う最上の神は天照大御神のことである。
「俺はいかなる罰を受けようとも今の業を止めんぞ。去るが良い」
若い男は歩き巫女に背を向けて大岩に去ろうとする。
「いえいえ。使いなどの役目ではありません。私が今日の生け贄です」
歩き巫女は膝を地につけて三つ指で頭を下げる。
「お前が今日の生け贄だと! それは本当か?」
歩き巫女は顔を上げずに肯定する。
「そうか。ならば俺の恐ろしさをとくと見せてやろう!」
若い男は嗤うと黒い煙に包まれる。目の前の光景に混乱する歩き巫女の前で黒煙からぬーっと鱗に包まれた大きな龍の頭が出てきた。
「どうだ! これが俺の本当の姿だ。畏れ敬う気持ちになったか?」
大きな口に並ぶ鋭い牙を見せつける龍。だがーー
「大きな口ですね。やはり人間を食べるからですか?」
歩き巫女は場違いなことを言って龍の前歯を撫でた。
「人間は骨ばかりで好きじゃない。ではなくてだな!? 俺が恐ろしいだろう?」
歩き巫女の前で咆哮してみせる龍。だがーー
「もう! 大きな声を出してはダメですよ。この時間は皆さん寝ているんですから」
「む? そうか。それはすまない」
大きな頭を下げて謝る龍。
「……お前、俺が怖くないのか?」
歩き巫女の反応に困惑した龍は訊ねた。
「怖くはないですね……怖がった方が良かったですか?」
苦笑する歩き巫女に龍は呆けてしまった。
「俺が怖くないだと!? 他の娘は泣いて平伏したぞ!?」
「私が怖いのは意思の疎通がとれない方たちです」
「む?」
龍は歩き巫女が怖がらないと分かり若い男の姿に戻ったが歩き巫女が怖いものがあると言ったので首を傾げる。
「俺を怖がらないお前が怖いとは。どんな奴らなんだ?」
歩き巫女は本当に恐ろしいかった思い出を語るように自分の肩を抱いた。
「人間です」
「人間だと!? 嘘を吐くな! 人間など俺が息吹をかけただけで死ぬような者たちだぞ!?」
自分のような神や妖怪、悪霊の方が恐ろしい、と龍が怒鳴ったが歩き巫女は首を振る。
「あなた方は悪さをしても深く悲しい理由がある。語りかければ答えてくれる。だけど人間は自分の欲でしか動けない。語りかけても、こちらを利用することしか考えていない。私の話を聞いてくれません」
「それが意志疎通が出来ない者か?」
歩き巫女は頷く。
「つまり俺は深く悲しい理由があるから若い娘を拐うと?」
「私はそう信じています」
「その理由を知ってお前はどうする?」
「お力になります。それが私の役目ですから」
歩き巫女は再び頭を下げた。
「ならば俺の名を答えてみろ。当たれば理由を教えてやる」
「私はハルと申します」
「俺の話を聞いているか?」
「あなたに名前はない。違いますか?」
ハルの答えに龍は瞠目した。
「どうしてそれを!?」
ハルは優しく微笑む。
「それがあなたの苦しみですね?」
ハルは立ち上がり龍の頬を手で触れる。龍は歩き巫女の瞳に心を奪われていた。
「そうだ。俺は自分の名が分からない。だが神として生きるならば名を得て人間に信仰されなければならない! さもなくば俺は消えてしまう。それが怖いのだ! だから俺は人間を不幸にして恐れられる荒神としてでも良い。俺の存在に気づいてほしかったのだ!」
涙を流す龍の頭をハルは胸に抱いた。
「よく話してくださいました。では私が名を与えましょう」
ハルは龍と顔を合わせる。
「明龍命。天上の神に従い、人々に幸せな明日を届ける。それがあなたの名です」
気に入って頂けましたか? と問いかけるハル。明龍命は自分の名を独白する。
「そうか。今から俺は明龍命。俺は名のある神だ!」
大いに喜んだ明龍命はハルの手を引いて大岩へと駆け込んだ。
「何て素晴らしいんでしょう!」
大岩の中には豪族も驚愕するような絢爛豪華な屋敷が建てられていたのだ。
「ハル! 祝言を挙げよう。俺と夫婦になってくれないか?」
「えええええぇぇぇええ!?」
唐突な告白にハルは大いに驚く。それもそうだろう。会って間もない神様に結婚しようと言われているのだから。
「俺はハルと一緒に神の務めを果たしたい。俺が神として人々を守り、君が神の教えを土地に広めてくれないか?」
明龍命の懇願のような誘いにハルは悩んだが決めた。
「それなら三つほど、私のお願いを果たしてくだされば、婚儀をありがたくお受けいたします」
何でも申せと詰め寄る明龍命。ハルは一度彼を落ち着かせる。
「まずひとつ目は拐った娘たちを村に返してください。屋敷に居ますと、あなたが浮気するかもしれませんので」
君と暮らせるなら他の娘など要らない、と明龍命は屋敷に閉じ込めていた若い娘たちを村へと追い出した。
「二つ目は立派な神になった、あなたと私のために質素で良いので社を建ててください」
俺らの愛の巣だな、と明龍命は龍の姿になって山を下りて村人に説明して社を作ってもらった。
「どうだ! 一週間で建てさせたぞ!」
自慢げに胸を叩く明龍命。木組みに屋根がついただけの簡素だが木材の優しさが伝わる社に触れるとハルは嬉しそうに微笑む。
「最後の願いもすぐに叶えてやる」
早く申せ、と手を握ってくる明龍命にハルは笑う。だがその笑みは悲痛に満ちていた。
「男の身体である私を愛し続けてくださいますか?」
「そしてここがアクルタツノミコトとハレノウズメの夫婦が祀られている神社です」
ガイドが爽やかな営業スマイルで都会から来た高校生の一団に解説していく。
「この二人はとても仲が良い夫婦だったらしく恋愛成就や良縁の神様と言われています。ですが不思議なことに二人には実の子供には恵まれなかったそうです。しかし子供を深く愛し、そのことから安産の神様とも出世の神様とも言われています」
「うう。私たちすごい神様に成っちゃってますよ!?」
「まあ、良いじゃないか。仲良し夫婦の神として伝えられて俺は嬉しいぞ!」
「もう、アキラさんったら」
ハルは幸せそうに明龍命に抱きつく。
「大好きだぞ、ハル!」
「私もアキラさんが大好きです!」
仲の良い夫婦神はこれからも人々を幸せにしたのでした。
今回は初の男の娘(要素少なめ)ですが、書きました!
いや~男の娘良いと思います! 何であんなに彼らは可愛いのでしょうか!?
今回は時間がないので
sおれでは、kょうはここまで。skでした。バーイ!!