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トル・ラバートリックの冒険  作者: 長谷川コールスローサラダ
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戦士ウィル・アリスソード

 『伝説の勇者』として旅立ったハルトは、妖精のワトーを連れ野を歩いていた。


「じゃあ、魔王がどこにいるかは誰にも分からないのか」

「左様です。これまで我々は幾度となく魔王めの本陣を突き止めんと捜索を行ったのですが、残念ながら未だ奴の根城は判明していないのが現状なのです」


 ワトーは申し訳なさそうにうなだれる、ハルトは歩きながら空を見上げた。


「そうなると、どこを目指していいのか分からないなぁ」


 魔王討伐の旅に出たものの、肝心の居場所が分からないのではどうしようもない。ハルトがそう考えていたとき、サルのような三匹の化け物が飛び出した。


「おっと」


 ハルトが素早く剣を抜いて身構えた、サルたちは不規則に飛び回りながらこちらを伺っている。

 一匹が地を蹴って飛び掛かって来たのに合わせ、ハルトの持つ聖剣が横一閃に振られて容易く魔物の身体を切り裂いていく、怒った残りの二匹が跳躍するのをかわしながらハルトは舞うように斬撃を繰り出す。たちまち三匹の魔物が倒れ伏した。


「お見事でございます勇者殿」


(勇者殿か……)


 自分は今『伝説の勇者』なのだ。立ち止まってなどいられない、世界の命運が自分にかかっている。ハルトこと勇者トルは剣の血を拭うと魔王討伐に向けてまた歩を進めた。


 やがて日の傾く頃ハルトとワトーは小さな村へと辿り着いた、一面の麦畑を夕日が茜色に染め上げる。麦畑の中ではまだ数人の農夫が畑仕事を続けていたが、村の門をくぐると既に多くの人が一日の仕事を終え、ある者は談笑しながら、ある者は帰路を急ぐようにして石畳の上を行き交っていた。二人は市場で食事を購入すると広場のベンチに腰を下ろす。


「規模の割に人が多いですな」


 ハルトの隣に座ったワトーが呟いた。


「この辺りは集落が少ない。旅人が立ち寄るんだろう」


 大きくて味の薄いパンと干し肉をむさぼりながらハルトは辺りを見渡した。確かに広場を歩く人の中には大きな荷物を背負った者や帯刀した戦士風の者も少なくない。つまりは旅人が多い。


「何か、魔王について情報があればいいんだが」


 そう言ってハルトはパンを頬張った。


「勇者殿。魔王の情報を集めるのも勿論ですが、先に勇者の盾を探すと言うのはいかがでしょうか」

「盾?」

「ええ、勇者殿がお持ちの聖剣と対を成す、勇者の盾です」

「そんなものがあるのか」

「ご存じないのですか?」


 ハルトはしまったと思った。何しろ自分はトルではない、本物なら聞かされているはずの伝説や勇者の武器についてはあまり知らないのだ。

 ワトーは意外そうな表情でハルトの方を見ている。

 ハルトは狼狽を隠しながらあくまで勇者として言葉を紡いだ。


「……どうやら、俺の家系は勇者についてをきちんと伝えてなかったらしい。恥ずかしい話だがその、盾について教えてくれないか」

「分かりました」


 ワトーが訝しそうにも話し始めたところによると、ハルトの持つ聖剣と対を成す『勇者の盾』なるものがここから南に進んだ山の頂にあるらしい。このまま当てのない旅を続けるのであれば先にその山を目指さないかと言うのだ。


「それは良い。うん、ぜひその山に向かうとしよう」

「……」


 ワトーは不思議そうにしてハルトを眺めている。ハルトは急いで食事を口に放り込むと言葉を繕った。


「じゃあ飯も食ったし、皆が寝ちまう前に聞き込みと行こうか」

「分かりました勇者殿」


 二人がベンチから立ち上がると、近くを歩いていた酔客が声を上げた。


「おいおい。こんなところに妖精がいるじゃないか」

「妖精だって?そりゃ珍しい、酒に漬けて食っちまうか?」


 その声に近くから笑い声が上がる。まだ夕方だと言うのに随分と飲んでいるらしい、男の一人がハルトの肩に手をかけた。酒臭い吐息が鼻にかかる。


「よお兄ちゃん、妖精の連れかい?めずらしいじゃないか一緒に飲もうぜ」


 ハルトとワトーは互いに目を合わすと、男達を無視して歩き出した。後ろから声がかかる。


「何だよつれないじゃないか、ちょっと待てよぉ」


 二人は振替らずに進む。しかし一人が言った次の一言にハルトの足は止まった。


「待て、お前が持つそれは勇者の聖剣じゃないのか?」


 聞き間違いかと思ったが、男はハルトの方へ歩み寄って剣を眺める。その男も酒に酔っているらしく顔を赤らめていたが、まだ酔いが浅いのかふらついた様子はなかった。


「見せてみろ」


 無造作に剣へ手を伸ばす。ハルトが拒むように剣を握りしめても、男は構わずに剣を引き寄せて鞘の先から柄までを眺めた。


「やはりそうだ、これは勇者の聖剣じゃないか。なぜお前がこんな物を持っている」


 ハルトは答えに窮した。そもそもばれるはずがないのだ、近隣の村ならいざ知らずここはもう勇者の村から遠く離れている。誰も聖剣のことなど知らないはずなのに、どうしてこの男はそれを知っているのか。一先ず無視を決め込んで振り払おうとしたが男はハルトの腕を掴んで放さなかった。


「答えてもらおう、それが出来ぬなら貴様を盗人として憲兵に差し出すが、良いか?」


 理由は分からないがこの男は聖剣を知っている、もしかして本物のトルの知り合いなのだろうか、だとしたら言い逃れは難しい。

 心臓が大きく脈打った、ハルトは気持ちを落ち着かせて相手を見据える。


「無礼もいい加減にしろ、知りたいなら教えてやる。俺がこの剣を持ってるのは俺こそが勇者トル・ラバートリックその人だからだ、何の問題がある」


 周囲から「勇者?」「勇者だ」と言う声が聞こえた。


「貴様が勇者だと?笑わせるな、貴様のような小童の勇者などいてたまるものか、どこでそいつを手に入れたのかは知らんが勇者の名をかたるとは不届き者め」

「おのれ痴れ者が、勇者殿への無礼の数々もはや勘弁ならん!」


 ワトーが叫んだのもハルトの耳には届いていなかった。ハルトは背中に汗を感じながら声を上げる。


「言いがかりも甚だしい、誰かこの酔っぱらいを黙らしてくれ!」

 既に周囲には立ち止まった見物客で人だかりができていたが、誰一人としてハルトの味方をする者はいなかった。むしろ酔っぱらい達は口々に「勇者だ」「盗人だと」「喧嘩か?」などと言い合い面白そうに二人のやりとりを眺めている。

 男は腰に手をやると素早く武器を取り出し、真っ直ぐにハルトへ切っ先を向けた。


「我が名はウィル・アリスソード。貴様に決闘を申し込む、見届け人はこの広場の観客だ」


 広場一面に歓声が上がった。


「盗人でないと言うなら証明してみよ、どうだ天下の勇者様よ、勇者ともあろう者がこんな酔っ払い一人に恐れをなすわけもあるまい?」

「……」


 傍らのワトーを見やると、ワトーも口をつぐんで男を見ていた。彼もどうしていいかわからないのだ。


「まさか逃げるのか?勇者が、一介の戦士相手に恐れをなすと言うのか?」


 ハルトは歯を噛み締めると、刀身を鞘から引き抜き、応えるように切っ先を男に向けた。

 広場が溢れんばかりの歓声で沸き返った、途端に人混みが動いてハルトと男を広場の中心に案内する。誰かが指笛を吹いてはやし立てた隣では、職人風の男が「どっちが勝つと思う?銀貨2枚でどうだ。」などと言って賭け事を始める。

 ハルトは観客の中心に立つと、身体をほぐしながら男を見た。


(全く、何でこんなことになるんだ)


 まさか立ち寄った村で突然決闘をすることになるとは思わなかった。しかし、ワトーに疑われるのは仕方ないとしてどうしてあの男まで自分を疑ったのか、口ぶりからすると本物のトルの知り合いと言う様子でもなかったが。見たところ男は気合十分と言う様子で楽しそうに周囲の声援に応えている。


(……ひょっとして、喧嘩好きの酔っぱらいに絡まれただけだったのか?)


 案外そうかもしれない、適当な言葉で因縁を吹っかけて決闘を申し込まれたのだとしたら…。そう考えると無性に腹が立ってきた。勝てば良い。いや、思い切りぶっ潰してやろう。


「準備はいいのかい、兄ちゃん」


 ハルトは気持ちを落ち着かせると、広場の中心で剣を構えた。ウィルと言う男も手斧と盾を持ってこちらを見据えている。先ほどまでの酒の薫りはどこにも見られなかった。


「構わないさ」


 それは決闘が始まる合図だった。周囲を囲む酔客の声さえ静まり返り、広場中の意識が二人の間に向けられる。

 ゆっくりと男がハルトの方へ歩み寄ると、突如弾かれたようにその巨体が跳躍した、真っ直ぐに突進して殴りつけるように斧を振る、ハルトは左右に屈んでそれをかわすと男の脇腹に剣を伸ばした、相手は片手に持った盾を動かし軽い金属音と共に斬撃は弾かれる、二人の視線が再び交錯した。

 男の斧が今度は横殴りにハルトを襲った、二度、三度と振られる手斧を跳ね回るようにしてハルトはかわしていく。ハルトは戦いながら斧を持つ男の腕、それも肩の部分に細心の注意を払った。動きはそう早くないが、一撃でも喰らえば身が持たないだろう。

 男の武器が力強く振られ、ハルトがそれをかわしながら切り込み、今度は男がそれを盾で防ぐ。二人の実力は拮抗していた。

 身をかわしたハルトが再び向き直った時、男は腰を深く落とすと盾を構えてこちらに突進してきた。切りつけようとしているのではない、巨体を活かしてハルトを観客の中に吹き飛ばそうとしているのだ、もし身体が観客の中に吹き飛ばされたらこの勝負はハルトの負けになる。

 飛び退いて避ける時間はなかった、ハルトは後ろに倒れ込みながら体当たりする男の身体をがっしりと掴み、勢いをそのまま巴投げにした。あまりの体重で潰されそうになりながらタイミングよく足を使って蹴り上げるように投げた。騒がしい音を立てて男が石畳の上に倒れる。ハルトが立ち上がるのと男が立ち上がるのはほぼ同時だった。

 再び武器がぶつかり合った。飛び退いては剣を振り、盾で守った。

 誰もが名勝負に心を奪われていた。

 幾度目かの斬り合いの最中、突如男は武器である手斧をその場に落としてがっくりとうなだれた、剣を振りかぶっていたハルトは手首を返して斬撃を反らせる。周囲からも「何だ?」「どうした?」と言う声が上がる。ハルトもまた剣を下ろし男を眺めた、無抵抗の相手に刃を向けては騎士道に反する。

 皆が注目する中、男はついに膝をついて四つん這いのような格好になった。


「……」


 そして石畳の上に嘔吐した。


 一斉に悲鳴が上がる、ハルトも目を背けた。そう言えばこいつは酔っぱらいだった、さっきの巴投げが効いたのか、運動して酒が廻り過ぎたのかもしれない。


「……ふざけるなよ」


 興がそがれたとはこのことだ。ハルトは納刀するとワトーを連れて人ごみの中に入る。


「ま……待ってくれ」


 男が青い顔で何か言っていたが、すぐ口元に手を当てて顔を俯ける。いつの間にか集まった観客も三々五々に散っていった。


「お疲れ様でございました」


 暫くしてワトーが言う。


「時間を無駄にしたよ」


 ハルトも汗を拭って答える、何とも釈然としない気分だった。しかし結局のところどうしてあの男は自分の持つ聖剣に気づいたのだろう、もしかするとああ見えてラバートリックの血筋につながりがある男だったと言うのは考えられないだろうか。聞いた事は無いが、確かに勇者の血筋が他の村にも存在する可能性は十分に考えられる。もっとも本当にあてずっぽうだったのかも知れないが。


「勇者様、今日の所は一先ず宿を探すと致しませんか?」

「……そうだな」


 ワトーの提案に彼も同意する。既に日も沈み、今日は十分な聞き込みが出来そうになかった。



 翌日ハルトとワトーは村を出発し、西の方角にある荒野へと向かった。結局昨晩は殆ど情報が得られなかったが、翌早朝からの聞き込みで西に向かった地に最近狂暴な魔物が出没していると話を耳にしたのだ。


「まったく、昨日は散々だったな」


 そう言いながらトルは生あくびを噛み殺す。


「ええ、ひどい災難でございました。気を取り直して西の荒野に向かうとしましょう」


 ワトーも目をこする、朝早くから聞き込みを重ねて二人とも寝不足だった。


「しかしどう思う?西の荒野にいる魔物ってのは魔王の部下だろうか」

「魔王が部下を配置し地上を支配をせんとしているのは事実です。その内の一体と言う可能性はあるでしょう」


 高く上った太陽の下で、二人は西を目指し街道を進んだ。

 やがて二人は目的の荒野へと辿り着いた。


「荒野と言うか、更地だな」


 見渡す限りむき出しの乾いた地面、所々に大岩が転がっている以外には樹木も雑草もない。分厚い雲が空を覆っているせいで昼間なのにどこか薄暗かった。


「特に魔物の気配はありませんな」


 風が吹いて砂埃が舞う、木も草も生えてないが立ち並ぶ大岩のせいで見通しが悪い。


「おい、あれ」


 ハルトはちらりと見えた影を指さす。


「あれは……」


 ワトーが砂煙に目を反らしながら呟いた。昨日ハルトと決闘を行った酔っぱらいの戦士がそこにいた。


「おお、お前は昨日の」


 男はそう言いながらハルトに歩み寄る。


「昨日はすまん、決闘を汚すような真似をして本当に悪かったよ」

「別に俺は決闘なんてどうでも良い。あんたここで何してるんだ?」

「なに、昨日酒場でこの辺りに魔物が出没していると聞いたものでな、一つ討伐してやろうと思ったのよ」


 男は得意そうにそう話す。確かに見てみれば彼は武器を身にまとい、頭には兜も装着している。


「へえ、あんたも魔物退治か」

「とすると、お前も魔物の討伐に来たのか?」

「ああ。しかしまるで姿が見えない、ガセネタだったのか?」


 ハルトは再び辺りを見渡す。やはり目に入るのはひたすらに続く曇り空と地面、それに大岩だけだった。


「ほほう、魔物を討伐しようとは。自称でもやはり勇者と言うだけあるな」


 男がそう言って笑う、ワトーが前に出て叫んだ。


「貴様、これ以上の無礼を重ねるか!」

「正直に申したまでよ。だが、こうして魔物を退治しに来ておるのだから、それだけでもお前は他の戦士連中よりもよっぽど勇敢だろうな」

「……」


 二人は狐につままれれたような気分だった。男がその様子を見てまた笑う。


「少し話がある」

「話?」


 男が口を開こうとした時、周囲から唸り声が聞こえた。


「何だ?」


 低く響く唸り声だった、三人が互いに背中を合わせる。ハルトと男が武器を抜いて構えた。唸り声は次第に数を増やし、辺りの岩と言う岩から聞こえてくる。


「……岩が鳴いている?」


 ワトーが呟いた。


「違う、あれを見ろ」


 ハルトが見る先、真っ黒な身体をしたオオカミが岩陰から身を乗り出していた。


「あれが魔物と言う訳か」


 黒オオカミは次から次へと現れる。ハルト達が話している間にかなりの数がすぐ近くへ近寄り息をひそめていたらしい。


「あんた名前は何だったか、俺はトル・ラバートリックだ」

「ウィル・アリスソードだ。トルよ、一応言っておくが自分の身は自分で守れよ」

「ワトー、肩に乗れ」


 ワトーがハルトの身体をよじ登り肩に乗った。見渡した限り十匹ほどの黒オオカミが三人を取り囲みよだれを垂らしている、どのオオカミも目が赤い。

 一匹のオオカミが吠えながらハルトに向かって突撃した。両手で剣を振って一匹目を両断する、あまりに剣が鋭いのでほとんど切っ先に重みを感じない。

 一頭目の突撃を合図に乱戦が始まった。ハルトとウィルは黒オオカミを斬り捨て、殴り捨てながら包囲網を抜ける、時折ハルトの肩に乗ったワトーが光線の様な呪文を唱えその度魔物が白い炎に包まれた。複数の魔物を相手にするのはかなり神経を使ったが、ウィルと背中を預け合えば出来なくもない。

 やがて残りの魔物の数が三匹になった時点で黒オオカミ達は踵を返し、荒野の中を逃げ帰って行った。


「ウィル…無事か?」


 硬い土の上に黒オオカミの死骸が並ぶ。ハルトとウィル、そしてワトーの三人だけがそこに立っていた。


「そう言うお前こそどうだ……なかなかの、戦いっぷりだったではないか」


 ウィルが息を整えて言った。


「勇者殿、残念ながらこのオオカミは野生の魔物のようです。ここから魔王の情報は得られないでしょう」

「ああ、そう言えばそれが目的だったな。まあ、気を取り直して次の手がかりを探すとしようか……いや、その前に『勇者の盾』がある山か」


 ハルトは男に向き直った。


「ウィルよ、こんな形だが共に戦ってくれて感謝する。あの数を一人では危なかったかもしれない」

「それは俺も同じよ、結果的に救われた事、礼を言う」


 二人が手を結び、そして離れた。


「また会う事もあるだろう、もう決闘は御免だがな」


 ハルトはそう言ってウィルに背中を向ける。


「待ってくれ」

「何だ?」


 振り返ったハルトにウィルが膝をついた。


「お前を勇者だと認める!疑って申し訳なかった。昨日のあの身のこなし、そしてその勇敢さを見て確信した。お前は間違いなく伝説の勇者だ、どうかその旅路に俺も協力させて欲しい」


 ハルトは目を丸くしてひざまずくウィルを見る。思い出したように砂風がパラパラと吹いた。


「……随分と突然だな」


 そう言って首元をポリポリと掻く、首筋に砂がついて気持ち悪かった。


「今世界は闇に牛耳られようとしている、どうにかしてこの状況を打破せねばならんが、俺の頭ではその方法が分からなかった。だから俺は今日までお前を、世界を救う伝説の勇者を探して旅をしてきたのだ。迷惑でなければ是非とも勇者の旅の一助とさせてくれ」


 ハルトは心の中で膝を打った。この男は世界を救うためにずっと『トル・ラバートリック』を探していたのだ。昨日少し見ただけでどうしてこの剣が勇者の聖剣と気付いたのか不思議だったが、どうやらそう言う事情があったらしい。


「なるほどな。しかし昨日はその勇者に対して随分と無礼を働いたじゃないか」

「……ああ、すまない。言い訳をさせてもらえるなら話に聞いていた勇者とはその、少し容姿にずれがあったもので……」


 本物のトルは自分と身長も髪型も違うが、まさかこんな離れた地に本物について知っている人間がいたとは。ハルトはそう思って自嘲気味に笑った。


「どう思う、ワトー?」

「彼の実力は本物です。反省しているのであれば仲間にしても損はしないかと思いますが……」

「ふむ。良いだろう、俺も一人であまりに多数の魔物を相手にするのは難しい。ぜひとも手を貸してもらおうじゃないか」

「ありがたい!さすがは勇者だ」


 ウィルは立ち上がって、勇者ともう一度硬い握手を交わした。『勇者』の旅に新たな仲間を加えて一向は荒野を進んで行く。

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