冬の女王と春風の少女
冬の女王様が塔から出なくなって優に三ヶ月が過ぎていました。暦は三月になり、そろそろ春になる頃になっています。王様が冬の女王様を塔から出させるようにおふれを出してからも三ヶ月が経っていたのでした。
このおふれを聞いて冬の女王様を塔から出られるようにしようと意気込んでいた少女がある村にいました。彼女は名をスーザンと言い、不思議な力を持っています。スーザンは精霊達と仲が良くて声を聞いたり姿も見ることができたのです。
お母さんにスーザンは冬の女王様が何故、塔から出ないのか訳を尋ねてみました。
「ねえ。お母さん。どうして、冬の女王様は塔からお出でにならないの?」
「…スーザン。お母さんにもわからないけど。ただ、聞いた話によると女王様はご病気になられているそうよ。しかも、魔女に呪いをかけられたとか。王様は魔女を探し出して女王様のご病気を治すおつもりらしいわね」
わからないと言いながらもお母さんは村長さんなどから聞いた話を教えてくれました。
「お可哀想な女王様。じゃあ、あたしが精霊にお願いして魔女を探すわ。呪いを解いてもらえるようにお願いする!」
「ええ。スーザン、何を言っているの。魔女を探すだなんて。手がかりもないのにどうやってするつもりなの」
「…とりあえず、王様にお会いして。女王様のお話を詳しく聞いてみるわ。そして、にもつの準備もして。あと、一緒に旅する仲間もさがさないと。やることがいっぱいあるわね」
ぶつぶつといいながらスーザンは自分のへやにお母さんをおいて行ってしまいました。
スーザンは旅に出る準備で大忙しのひびを過ごしました。まずは王様にお会いするのですが。お母さんはおうきゅうに行くためにお友だちでおつとめをしている人にお願いすることにしました。
むすめをおうきゅうにおつとめさせてほしいと言ったのです。お友だちはすぐにお返事をしてはくれませんでした。でも、お母さんがいっしょうけんめいにお願いするとしぶしぶでしたがいいよといってくれました。
これにより、スーザンはおうきゅうにおつとめすることがきまりました。といっても、スーザンはまだ十三才だったのでみならいでしたが。きかんは半月です。
それまでに旅のじゅんびをして仲間を探さないといけません。スーザンはふあんになりながらもおうきゅうにおつとめする日を迎えました。
旅のじゅんびをし始めたときから十日はすぎていました。お友だちにあたる女の人がむかえをよこしてくれます。
むかえにきてくれたのはわかい男のひとと三十をすこしこしたくらいの女の人の二人でした。
「…あなたがスーザンちゃんね?」
女の人がきいてきます。スーザンはくびをかしげながらもうなずきました。
「はい。そうですけど」
「そう。なら、はなしは早いわ。わたしはおしろではたらいていて名前をスサンナというの。あなたのお母さんのお友だち、じじょちょう様の言いつけでむかえにきました。こちらは王様のごえいきしで名前をトマス。スーザンちゃんがおうきゅうに行くまで守ってくれるわ」
スサンナとなのった女の人は手短かにトマスという人をしょうかいするとさあとせかしてきます。
スーザンはトマスにぺこりとおじぎをしました。トマスもかるくれいをして返してくれました。
スサンナにあんないしてもらいながらおうきゅうに三人は向かったのでした。
スーザンはトマスとスサンナに道中で王様が冬の女王様のことをいたく心配していることや春がめぐってこないことで他の国でもえいきょうが出ていることをせつめいしてくれました。
思ったよりもおおごとになっていてスーザンは自分一人だけで魔女を説得できるのかとふあんになります。
スサンナはあしを止めないかわりにスーザンにちかいうちに王様にお会いできるようにトマスにたのんでみるといってくれました。トマスも言葉すくなにうなずいてうけあってくれます。
「…君が魔女にあいたいというんだったら王様にお願いして魔術師長やそのお弟子さん、また騎士や神官どの、聖女様などに同行していただけるようにしてもらおう。後、にもつもいってもらえれば、こちらで用意もする」
「そこまでしていただけるんでしたら、大助かりです。冬の女王様のご病気を絶対になおしてみせます」
「いい心意気だ。わたしも同行しようかな。そうしておいたらきみを助けることができるからな」
トマスはにこりと笑いながらスーザンに言います。それに戸惑いながらもおれいをいったのでした。
おうきゅうにたどりつくとスーザンは大きな門をくぐり、中にはいります。
スサンナはむごんでスーザンとトマスをつれてろうかをあるきつづけました。そうして、しばらくした後でドアが開かれました。
スサンナがトマスに仕事にもどるようにいいます。かれがいなくなるのをみとどけてから、スサンナはスーザンに部屋にはいるようにいい、ドアをしめました。
「スーザンちゃん。今日は説明だけにしておくわ。旅のじゅんびと仲間のしょうかいは明日にするから。そのつもりでいてね」
「わかりました」
「…じゃあ、さっそくだけど。スーザンちゃんにはおうきゅうのおそうじをおねがいするわ。あとはお客さまのつかうお部屋のベットメイキングもしてもらうわね。これは年上の子のミリアといっしょにやってもらおうかしら」
スサンナはそういったあとでおうきゅうの地図とじじょのせいふくをわたしてくれました。おそうじのきほんてきにつかう道具ややり方もおしえてもらい、一日は終わりました。
次の日からスーザンはミリアという年上のじじょといっしょにおうきゅうでのおしごと、そうじをやることになります。スサンナは他のしごとがあるからといってスーザンのそばにはいません。
ミリアはあかるく、めんどうみのいい女の子でした。としはスーザンよりも三つ上で十六才とのことでした。スーザンはあくまで見習いでしたが。ミリアはていねいにそうじのやり方や王様や王妃様たちのことを教えてくれました。
「スーザンちゃん。まどをふく時はまず、水ぶきをしてそれからからぶきをするの。ふいたあとがのこらないように気をつけて」
「…うん。わかりました」
うなずきながら、いっしょうけんめいにまどをふきます。水ぶきをするのですが。まだ、つめたい水と風、くうきのせいで手がかじかんでしまいます。スーザンはだまって水ぶきを終えるとからぶきをしました。
ミリアにつきながら、おうきゅうのまどをいちまいずつふいていきます。はしごをつかいながらなのでたいへんです。
スーザンは夕方になるとへとへとでした。ミリアはお疲れさまといってじじょたちがくらすりょうに案内してくれました。そして、自分とおなじ部屋だといいます。スーザンはミリアとまずは食事をいっしょにとりにいったのでした。
スーザンはミリアと食堂にむかいました。だされたものは黒パンをうすく切ったものをさんまいほどと野菜のスープ、鶏肉とりにくのマスタードやき、デザートまでついていました。けっこうごうかだなと思いながらおぼんをうけとり、机においてすわります。
ミリアも同じようにしてすわり、夕食をたべはじめました。黒パンはかたいですがスープにひたすと味がしみわたりやわらかくもなっておいしいものでした。スープも塩とコショウだけの味つけですがなかにあるウィンナーのだしがでてあっさりとしています。
鶏肉とりにくのマスタードやきもスパイスがきいてなかなかにおいしい一品いっぴんです。スーザンはむちゅうになって食べました。お昼の仕事でおなかはぺこぺこにすいていたのもありました。デザートもたべてしまうとスーザンはミリアをひどくおどろかせました。
「…スーザンちゃん。たべるの早いわね」
「え。そうですか?」
「まあ、いいわ。あたしも早めにたべてしまうからまっててね」
いわれた通りにスーザンはまっていましたが。ミリアがたべおわったのはそれから二十分後のことでした。
部屋にもどり、スーザンはかんたんにゆあみをしてきがえてからベッドにはいりました。ミリアも顔や手にクリームなどをぬりこんでからねむりについたのでした。ふたりとも、ぐっすりとねむりにつきました。
翌日のあさにスーザンは早くからミリアにおこされます。眠ねむい目をこすりながらスーザンの一日がまたはじまりました。
あれから、時間がたつのは早いものでスーザンがおうきゅうにきてから一週間がすぎていました。おそうじなどにもなれてきてミリアと二人でこなすひびを送っています。そのあいだにスサンナやじじょちょう、トマスたちはスーザンが旅にでる上で必要ひつような仲間を選ぶのにしくはっくしていました。とりあえず、王様におすすめの人を考えていただきます。
スーザンが精霊の声をきいたりすがたを見ることもできることはおうきゅうの人たちはみな、知っていました。この国のめいうんはスーザンや同行する仲間にかかっているといえます。王様はまず、魔術師長まじゅつしちょうの一番でしの若者と自分のごえいの騎士であるトマス、神官の若者、聖女せいじょ、さらに女性の騎士の二人をあげました。
トマスたちはかれらにスーザンと旅にでてくれるようにはたらきかけたのでした。
あれから、さらに五日いつかがたち、スーザンはようやく王様と会うことができました。王様はとなりに美しい王妃様とごうかないすに座って堂々(どうどう)としたいでたちでこちらをみていました。
「そなたがスーザンか。魔女に会い、呪いをとくようにいってきたいとトマスにいったそうだな。ならば、冬の女王にまずは会ってきなさい。魔女の居場所を教えてもらえるはずだ」
王様のことばをきいてスーザンはおどろきのあまり、ぽかんとほうけてしまいました。となりにいるスサンナにあいさつをするように小声でちゅういされます。
「…あ、ごめんなさい。はじめまして。へいか、冬の女王様に会っても良いのですか?」
「ああ、かまわぬ。女王にはわしから説明してある。だから、わしとのえっけんの後で会いにいきなさい。スーザン、そなたに同行する仲間のことだが」
王様はこほんとせきばらいをしてからあらたまった表情でスーザンにいいました。
「まず、魔術師長の一番でしのコーネリアス。それから、わしのごえいをしている騎士のトマスに神官のエリオット。聖女のミリア、女性ではあるが騎士のシェリルにジェシカだ。みな、魔力も武力ぶりょくもこの国のゆびおりに入るものたちばかりだ」
「そうなんですか。わざわざ、ありがとうございます」
スーザンはお礼を言うと王様に深々とおじぎをしたのでした。冬の女王様のいる塔に向かったのです。
スサンナとふたりで冬の女王の塔にたどりつきました。長いかいだんをのぼりながら冬の冷たい空気にからだをふるわせます。スーザンは白いいきをはきながら手をあたためました。スサンナがまたかいだをのぼりはじめます。
そうやってするうちに一つのドアの前にたどりつきました。スサンナは不思議なことばをいうとドアが七色の光をはなちます。それがおさまるとドアはなんなくひらきました。
スサンナは中にスーザンをまねきいれるとおくに案内します。寝室にまでくるとドアをあけました。
てんがいのうすい布をひいてスサンナはスーザンをてまねきします。ベッドには真っ白なプラチナブロンドの髪かみと雪よりも白いはだのとても美しい女性がよこたわっていました。スサンナが声をかけると女性はゆっくりとまぶたをひらきます。すんだアクアマリンの青い瞳でスーザンはみとれてしまいます。
「冬の女王様。あなた様に会いたいというむすめがおりまして。こちらにおつれしました」
スサンナがいうと女王様らしき女性はこちらに顔をむけました。
「…わたくしに会いたいむすめ?」
「あの。はじめまして。冬の女王様、あたし。名前をスーザンといいます」
「あら。元気のよい子だこと。あなたがわたくしに会いたいといっていたむすめさん?」
「そうです。あの、お会いしたばかりですみませんけど。あたし、女王様の呪いをときにいくためにこちらにまいりました。陛下からもおゆるしはいただいています」
それをいうと女王様は目をみはりました。
「まあ。わたくしにかけられた呪いを。そう、陛下もおゆるしになったのね。で、聞きたいことがあるのかしら?」
女王様はほのかに笑いながら冗談っぽくいいました。スーザンは顔をあからめながらもうなずきます。
「はい。あの、女王様に呪いをかけた魔女の居場所を教えていただきたいんです。陛下は女王様だったらごぞんじだとおっしゃっていました」
「…ああ。魔女の居場所ね。それだったら知っていますよ。この国の北にある高い山があるでしょう。ウィランド山さんのふもとに魔女はいるわ」
ウィランドときいてスーザンもスサンナもまゆをひそめました。なぜかというとウィランド山は年中、雪と氷にとざされて吹雪がやまない山として有名でした。ふもとには小さな村がありましたがそこにたどりつくのも魔術師についていってもらわないといけないという不便さです。
女王様はじっとスーザンを見つめます。スーザンはきれいなアクアマリンの瞳としせんを合わせました。
「…わかりました。女王様、ウィランド山にあたしは行きます」
「そう。決意をしてくれたのね。じゃあ、わたくしからもいくつか送りましょう。あなたのことばが魔女に届くことを祈るわ」
女王様はにっこりと笑ったのでした。
それから、スーザンは冬の女王の塔を出てスサンナとおうきゅうに戻りました。旅のじゅんびは終わっており後は旅の仲間とあいさつをするだけでした。
スサンナとりょうにもどり、旅にひつようなものをまとめてから動きやすいふくにきがえます。それから、同じへやのミリアとあらためてあいさつをしました。
「ミリアさん。あなたが聖女だったとは。おどろきました」
「…ああ。いってなかったわね。ごめんなさい」
ミリアはあやまりながらもにもつが入ったふくろをかかげてみせました。
「スーザンちゃん。とりあえず、よろしくね。これからは大変な旅になるとおもうけど」
「こちらこそよろしくおねがいします」
スーザンがいうとミリアはてをさしだします。どうしたのかと思うとミリアはいいました。
「これは仲間になったっていうしるし。あくしゅよ」
スーザンはならといってあくしゅを改めてしました。そうして、二人で部屋を出たのでした。
後で魔術師のコーネリアスや神官のエリオット、女騎士おんなきしのシェリル、ジェシカともあいさつをかわしました。トマスは二、三度会っているためにスーザンはおじぎをするだけにとどめました。
「…君が精霊使いのスーザンか。おれがコーネリアスだ。よろしくたのむ」
「こちらこそはじめまして。コーネリアスさん」
スーザンは軽くおじぎをします。ですが、コーネリアスはかたほうのまゆをひょいとあげてみせました。
「スーザン。おれのことはリアスでいい。そのままだと呼びにくいだろう。君のこともよびすてにさせてもらう」
「わかりました。リアスさん」
スーザンがうなずくと金色の髪と青の瞳のコーネリアスはほほえみました。
「…さんはつけなくていいんだがな。まあ、なれるまではそのままでかまわない」
そういいながらコーネリアスはスーザンのあたまをくしゃりとなでたのでした。
「リアス。もういいだろう。ぼくやシェリルさんたちのしょうかいがおわっていない」
「わかったよ。エリオット」
コーネリアスはうんざりとしながらもスーザンのあま色の髪から手をはなします。エリオットはこほんとせきばらいをしながらにこりとひと好きのする笑顔をみせました。
「はじめまして。ぼくは神官のエリオットです。コーネリアスとはおさななじみでね。だから、きごころがしれているというか。昔からよくいっしょに遊んだなかでもあるんだ」
「そうだったんですね。エリオットさんはおいくつなんですか?」
「…ああ。ぼくは今年で二十四才なんだ。コーネリアスは二十二。トマスさんが一番上で二十五才だよ。まあ、シェリルさんは二十才でジェシカさんが二十一才。みんな、スーザンさんよりだいぶ上だけど。そこは気にしないでもらえると助かるよ」
はあというとエリオットはにがわらいしました。
「ごめんね。リアスもトマスさんもいい人ではあるから。安心してくれたらいいよ」
「…エリオット。わたしたちのしょうかいは?」
高くよくとおる声がしたとおもうとエリオットのうしろにうすい水色の髪の女性と赤い髪の女性がいました。二人とも、背たけは同じくらいで女性ながらに引きしまったからだをしています。
「あ、すいません。シェリルさんとジェシカさんがまだでしたね」
エリオットはやっと気づいたといわんばかりにあたまをかきました。シェリルとジェシカとよばれた女性たちはふきげんそうにこちらを見ています。
「…はじめまして。わたしがシェリルよ。女ではあるけれど。騎士をしているの、あなたのいいごえいになれると思うわ」
「は、はじめまして。シェリルさん」
「ふふ。そんなにきんちょうしなくてもいいわよ。どうせ、長くなりそうな旅でいっしょに行動するのだもの。もっと、気楽にしてくれていいわ」
「わかりました。ありがとうございます」
水色の髪を風になびかせながらシェリルはにこりとほほえんだのでした。
「最後はあたしだね。スーザンさん、ジェシカだ。シェリルと同じく騎士をしている。よろしくたのむ」
「はい。こちらこそよろしくおねがいします」
赤い髪の女性はこはくともみまごう瞳を細めてスーザンに笑いかけました。それにどきりとしながらもあくしゅをしたのでした。
そうして、旅ははじまりました。うまにまたがり、ウェイント山をめざします。こんかいは魔術師のコーネリアスがどうこうしています。
村にあるけっかいをとくことができるからこそ魔術師のどうこうがひつようだったのです。おうきゅうからウェイント山まではおうふくで十日はかかるといわれています。
スーザンはしっかりとローブをきこみ、かわせいのブーツもはいてじゅんびばんたんです。
「…スーザン。とりあえずはジェシカの後ろに乗っていたらいい。いざというときになったら彼女だったらたよりになる」
そうすすめてくれたのはコーネリアスでした。スーザンはジェシカにおねがいして後ろにのせてもらいました。
ジェシカは王国でも少ない魔術もできる聖騎士せいきしだったのです。これにはスーザンはおどろきました。
シェリルも聖剣のもちぬしでたのもしい仲間といえました。ゆっくりと一行はウェイント山をめざして進みはじめたのでした。
あれから、五日がたち、とうとうスーザンたちはウェイント山にたどりつきました。村まではもうすぐです。コーネリアスにたのんで村のけっかいをといてもらいます。
「…かのものにわれはめいずる。われらをはばみしものをとりはらいたまえ」
短くねんじると村をかくしていたかべがすうとなくなりました。白い雪と氷のかべがきえてなくなるとそこにはみどりの野原ときれいな花々がひろがっています。てんてんと家があり田畑がある中でスーザンたちは村の中に入ります。
少しずつすすむと、村人らしきひとかげがみえました。スーザンはうまからおりてひとかげに声をかけました。
「あの。すみません。こちらはウェイント山のふもとの村ですよね。あたしたち、冬の女王様に呪いをかけた魔女をさがしているんです。なにかごぞんじなことはありませんか?」
「…冬の女王様だって。あんた、ここの魔女のことを知っているのかい?」
「いえ。魔女がこちらに住んでいることと女王様に呪いをかけたことくらいしか知りませんけど」
スーザンがこたえると村人はいやそうな顔をしました。
「わるいことはいわないよ。あの魔女にはさからわないことだ。冬の女王様に呪いをかけたのだって自分よりも美しいとひょうばんだからだよ。だから、じゃまなものにはようしゃがないんだ」
スーザンはそのはなしをきいてふるえあがりました。まさか、そんなにこわい魔女だったなんて。
それでも、あとには引けません。スーザンは村人に無理をいって魔女のすむ村のはずれの家の場所を教えてもらったのでした。
スーザンは魔女の住む家にたどりつきました。仲間たちもいっしょです。赤いレンガでできたやねとオレンジ色のかべが目をひくこじんまりとした家でした。
ドアをならすと中から出てきたのはまだ若い黒髪の女性でした。女性はスーザンや仲間たちを見ると少しおどろいた表情をしました。
「…おや。だれかと思いきや。あんたたち、冬の女王様のおさめる国の人たちだね。なにをしにきたんだい?」
「あの。冬の女王様にかけられた呪いをといてもらうためにきました」
スーザンが勇気を出していうと女性は目を大きく見開いてからからと笑いだしました。
「なにをいいだすかと思えば。冬の女王の呪いをとけだって。そんなの、ただですると思ったのかい?」
「…おねがいします。あたしたちの国では冬の女王様が病気でねこんでおられて冬がずっと続いたじょうたいなんです。春を巡らせるためには魔女さんに呪いをといてもらうしかないんです」
スーザンがあたまを下げてたのみこむと魔女はおもしろそうににんまりと笑いました。
「なるほどね。冬の女王の呪いをといてやってもいいけど。でも、それはわたしに勝ってからにしてもらおうか。さあ、いくよ!」
魔女は笑いながら手からほのおをくりだしました。それがはなたれるとじゅうと地面をこがします。
あわてて、コーネリアスがとうめいなかべをまわりにはりめぐらせてほのおをさえぎりました。
「へえ。けっこうやるじゃないか。けど、これくらいでこんどはすまさないよ」
魔女はじゅもんをとなえると大きなほのおが空中にうずまきます。そして、それはきょだいなほのおのうずとなってスーザンたちをおそいました。
とっさにシェリルが水のまほうのじょうきゅうのじゅもんをとなえてほのおのうずをふせぎます。ばんと水のうずとほのおのうずがぶつかりしゅうしゅうとゆげを出しながらきえました。
そうやって、たがいの魔力と武力がぶつかりあったのでした。スーザンも精霊に祈り、魔女のこうげきにそなえたのでした。
そうして、あれからどれくらいの時がたったのでしょうか。シェリルとジェシカの二人がうでのけがをおさえながらもなんとか立っています。コーネリアスとエリオット、トマスはきぜつしてその場にたおれていました。無事だったのはミリアとスーザンの二人だけでした。
魔女もすさまじいたたかいで魔力もつきたのかたおれて動きません。スーザンはミリアとともにたおれているコーネリアスたちに近づきました。
まだ、彼らはいきがあります。スーザンはミリアと精霊に祈り、回復魔法をかけました。すると、コーネリアスの体が金と白のひかりに包まれます。
それがきえるとコーネリアスはゆっくりと目をひらきました。
「…ん。あれ、俺は?」
「よかった。目がさめたんですね。これでもう魔女はたおせました。冬の女王様の呪いもとけました」
スーザンがいうとコーネリアスはきょとんとした顔をしました。ミリアはエリオットやトマスにも回復魔法をかけていきます。二人とも目をさまし、コーネリアスとおなじような顔をしていました。
残ったシェリルとジェシカの傷もなおすとみんなでその場をあとにしたのでした。
そうして、冬の女王様は呪いがとけたおかげで病気がなおり、春の女王様と交代がやっとできました。王様もひと安心でした。スーザンは王様や冬の女王様からお礼の言葉をもらい、国にふたたびの春をもたらした少女として「春風の少女」という称号をもらいました。
冬の女王様はスーザンに呪いをといてくれたお礼として不思議なネックレスをくださいました。氷と雪の結晶がはいったアクアマリンのネックレスでした。あぶないことがあったときにはつかうようにと言われましたが。
まあ、それを使うときはないだろうとスーザンは思いました。彼女はのちにコーネリアスやミリアに師事しじして聖魔術師になりました。国を救った春風の少女は大人となったあとも国を守りつづけたのでした。
王様や冬の女王様によくつかえて、コーネリアスやミリアたちとも仲よくしていたと後世には伝えられています。スーザンのお母さんも長生きして元気にくらしたとも言います。
おわり