69.森へ。
ジェラルドにリリアの捜索を依頼されたガルロイの元へ、血相を変えたルイが駆け寄って来た。その青ざめた顔には泣きはらした跡なのだろう、目元が赤い。
やはりルイもリリア王女が落下していく姿を目の当たりにしていたようだ。
「ジェラルドって奴と何を話していたの? 団長も奇襲に加われって? それなら俺も」
「ルイ。……私は姫様のところへ行く」
ガルロイはルイの言葉を途中で遮って告げる。ルイが動きを止めた。青い目が大きく見開かれる。
「え? ……で、でも……、姫様は──」
顔を強張らせ、ルイは声を震わせた。
「分かっている。だが、姫様の体を敵の手に渡すわけにはいかぬからな」
「体……」
蒼ざめた顔でルイが息を飲むのが分かった。澄んだ瞳が揺れる。ルイの感情が流れこんで来そうで、思わずガルロイは視線を外した。
「私はジェラルド卿の奇襲部隊に交じって共に砦を出る。だが、その後、姫様を探すために森へ向かう」
感情を読まれないように、ガルロイは意図して淡々と話す。
「……行く。俺も、行くよ」
ガルロイはルイの顔を見た。少し癖のある金髪に晴天を思わせる青い瞳、多くの女達が王子様と称する顔が、思いつめた表情を浮かべてガルロイを見上げていた。いつも太陽のように陽気で明るく、常に笑顔を浮かべているルイは、能天気に振舞っているようでいて実は、人の心の機微に敏感で感じやすいところがあった。
(そんなルイが変わり果てた王女の姿を見て耐えることができるのだろうか?)
打ちひしがれ、悲しみにくれるルイの姿をガルロイは見たくなかった。
「ダメだって言っても、付いて行くからね!」
「……」
心配するガルロイの思惑を払拭させるように、ルイは強い声で言い切る。
「俺は、おやじが心配なんだよ」
「!」
驚くのはガルロイの方だった。
出会った時は頼りなく小さな子供だった。そんなルイはもうどこにもいなかった。いつのまにかガルロイの方が心配さるほどルイは成長していたようだ。
自分の無力さを痛感しながらガルロイはくしゃりと顔を歪ませた。
「……ああ。一緒に来てくれ」
変わり果てた王女の姿に耐えきれないのは、きっとガルロイの方だ。
何度絶望を味わわなくてはならないのか。
何度自分の無力さに打ちのめされなくてはならないのか。
ずっと王女を探し続けてきた。それがガルロイにとって生きている理由だったのだ。奇跡的に再会し王城へお連れしてからは、彼女をお守りできることが生き甲斐であり喜びであった。
(だが、……守ることができなかった)
小さな体一つで目に見えない病に立ち向かい、さらに身を賭して砦を守ろうとした少女を。
なぜ尊い命が失われ、自分のような取るに足りない者がまだ生きているのか……。
(この命と引き換えることができるならば、すぐにでも胸を切り開き心臓を差し出すことも厭わないというのに……)
ガルロイは頭を抱え膝を付きそうになるのを堪え、顔を上げた。嘆いている時間などない。
今度こそ、この命が尽きようとも、何としても姫様を見つけ出し、王都へお連れするのだ。
(今はそれ以外考えるな!)
「ガルロイ殿!」
苛立ちをはらむ強い声に名を呼ばれ、ガルロイは振り返った。赤い髪を揺らしシャイルが駆け寄ってくる。
「リリアが、見つかったのですか?」
「シャイル殿……」
「何が起きているのです? 酷い衝撃の後、私が怪我人を診ている間に何が? 誰に尋ねても皆訳の分からぬことばかり口走るんです!」
ガルロイに詰め寄るシャイルはかなり冷静さを失っていた。もちろん、冷静になれるはずがないことはガルロイが一番分かっている。
「……異形のものが森から現れました。その異形のものの上に、青い衣装を着た金色の髪の娘の姿が見えました」
「異形の上? ……青い衣装に金色の髪。リリアと同じ……」
絶句するシャイルの姿を見つめながら、ガルロイは言葉を続ける。
「もう間もなく、ジェラルド卿が奇襲部隊を連れて襲撃に出られる。その時に、私とルイは姫様を探しに森へ向かうつもりです」
「! ならば! 私も同伴させてもらう!」
否という理由はない。ガルロイは頷くしかなかった。
お久しぶりです。皆さまお元気でしょうか? 待っていてくださった方、いつもありがとうございます! 初めての方もここまで読んで頂けて嬉しいです。ありがとうございます。読んでくださる方がいらっしゃるお陰で、ここまで書き続けることが出来ています。感謝いたします。もうすぐ終わりを迎えますが、それまでもう少しお付き合いくださいね。宜しくお願いいたします。




