68.相打ち。
ますます追い詰められていく東の砦。
砦内が総攻撃に向け慌ただしくなる中、さらなる凶報がもたらされた。
「ボルドビア軍が橋を渡っています!」
「何だと!」
ガルロイは急いで見張り台へ駆け上がった。
ボルドビア軍はまだ隊列が整っていない状態で兵達に橋を渡らせていた。兵達が太い丸太を運ぶ様子も見える。砦の扉を打ち破るつもりだ。
「どうしても、この砦を落としたいようだな」
奥歯がギリッと鳴る。
(まだ整っていない隊列など、今すぐ襲撃すれば撃破できる)
だが、まだこちらの準備が整っていない。おそらく、それを見越して先に兵達に橋を渡らせてから、隊列を整えるつもりなのだ。
ガルロイは急いでジェラルドの元へと向かった。ジェラルドはすでに甲冑を身に着け、隊長達を集めて指示を出していた。
「ジェラルド卿!」
ガルロイに気付いたジェラルドが自ら近づいて来る。
「敵兵はすでに橋を渡り始めています!」
「そのようだな」
「こちらが出る頃には敵に包囲される可能性が高くなっているかと!」
ガルロイの言葉にジェラルドは頷く。
「だろうな」
「では! 砦に籠り王都からの援軍を待った方が良いのでは?」
「……間に合わぬ。今、国王軍を動かせる者がいるのかも怪しいが、たとえ陛下がご健在であったとしても、援軍が到着するまでに門を打ち破られているだろう」
「!」
「私は少数の兵を連れ、今から奇襲をかけるつもりだ。どこまで敵兵を減らせるか分からぬが、今この時に少しでも敵の力を削ぐ必要がある」
「少数で……」
「そうだ。残りの兵達には門を破って突入して来るボルドビア兵を迎え撃つ準備をさせている。ボルドビア軍と相打ちになっても構わぬ、と思っている。ボルドビアの兵を一人として、王都へは行かせぬ。我らの命をお救いくださった王女殿下の恩に報いるためにも、我が領土でボルドビアの侵攻を食い止めたい」
「では! どうか私も奇襲の数にお入れください!」
拳を握りしめ、ガルロイはジェラルドに願い出た。ジェラルドはガルロイに視線をひたっと据える。
「……おまえには別にやってもらいたい事がある。私達と共に門を出た後、おまえは隊列を離れ王女殿下の元へ。そして、必ず王都へお連れしろ」
ガルロイは目を大きく見開く。
「……ですが、あの高さから──」
それ以上言葉にすることが出来なかった。冷たい激流へ落とされた姫様が、なぜあのような異形のものの上に居られたのかは分からない。燃える森の中を逃げ惑ううちに異形の上に身を乗せてしまったのかもしれない。
しかし、森の木々より遥かに高いところから落ちて、無事でいられるとは到底考えられなかった。青いドレスの裾をはためかせながら落下していく姿が今も鮮明に目に焼き付いている。いっそうのこと、あれは別人なのだと信じたかった。
だが、王女殿下の無事を心の底から願っているというのに、頭の一部が冷静に否定してくる。
「……どんなお姿であってもだ。陛下の元へ」
「!」
感情を押し殺したジェラルド声に、彼もまた同じ答えに辿り着いているのだと気付く。そのうえでの命令。
「必ずや、シュティル陛下の元へ」
ガルロイは声を振り絞るように宣言した。ジェラルドは頷くとガルロイに背を向け歩き出した。
そして、奇襲のために集められた兵達の前に立つ。兵達の視線を一身に受け、ジェラルドは高らかに声を上げた。
「我が気鋭の戦士達よ。ボルドビアの不届き者達には、この砦を狙った事を心底後悔させてやらねばならぬ。我らの強さを見せつけてやる時がきた。聖なる森に火を放った罪は奴らの血で償わせる!」
オオーッ
鬨の声が砦内に大きく響いた。東の空が白み始めている。新たな一日がはじまろうとしていた。
こんにちは。
ずっと待ってくださっていたみなさん、大変お待たせいたしました! 待ってくださりありがとうございます!
そして、はじめての方も、いかがだったでしょうか?
終わりが見えているのに、まるで険しい山を登っているようになかなか山頂へたどりつけません。ですが、読んでくださる方がいらっしゃるおかげで、書き続けることが出来ています。ありがとうございます! どうか最後までお付き合いいただけると有難いです。これからもどうか宜しくお願いします。




