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王都へ  作者: 待宵月
67/73

67.総攻撃。

 きゃああああっ!


 砦内を悲鳴が響き渡った。

 まだ異形の者達が暴れまわっていた頃、ボルドビア軍に襲い掛かっていた異形のものの一つが、砦の外壁に激突していたのだ。

 その衝撃はかなりのものだった。砦全体が揺れ、強固な壁に亀裂が走る。見張り台にいたガルロイ達も近くの壁や塀に掴まり衝撃に耐えねばならないほどだった。


「皆、大丈夫か? 怪我は無いか?」

「……だ、大丈夫です!」


 安否を確認するガルロイの声に、あちらこちらから震える声が応じる。

 だが、砦の者たちは皆、再び衝撃が来るのではないかと怯えきっていた。

 ふと階段付近にいた衛兵達が騒めき始めた。


「どうした?」

  

 ガルロイが様子を見ようと一歩踏み出した時、衛兵達がスッと左右に避け、昇降口に一人の男が姿を現した。頭部には白い包帯が巻かれている。意識を失うほどの大怪我を負ったジェラルド・アルビオン侯爵だった。

 その表情は険しく、顔色も酷く悪い。意識が戻ってすぐにここまで登ってきたのだと容易に推測できた。

 ガルロイはジェラルドから王女を王都へ逃がすよう命令されていた。

 だが、今、王女は王都へ逃れるどころか、行方不明となっている。叱責は免れない、今ここで切り捨てられても仕方がない失態だった。


「ジェラルド卿……」


 立ちすくむガルロイに目もくれず、ジェラルドは引き寄せられるように外壁へと向かって行く。


「……リリティシア」


 ガルロイの横をすり抜けるジェラルドが譫言のように呟いた。彼の目は何かにくぎ付けになっているように見えた。ただまっすぐに燃える森へと向けられている。

 いつのまにか砦内は不思議な静けさに包まれていた。

 狂ったように暴れ回っていた異形のもの達が、燃える森の中で蛇が鎌首を持ち上げているような姿のまま動きを止めている。


「あれを見ろ!」

「消えていくぞ!」


 異形のもの達が、皆が見守る前で、星が砕け散るかのごとく煌めきながら次々と消え始めた。その美しくも儚い夢の中の出来事のような様子に、誰もが茫然と目を向けている。

 見張り台の上では、ガルロイも兵達と共に目の前で繰り広げられる目を疑うような光景を、ただ息を飲み見つめていた。

 そんな中、一際大きな異形のものの上に人影が見える。炎の色を受け、長い髪が金色に輝きながらはためいている。その者が身に着けている衣装は王女が着ていたものと同じ青色。

 ジェラルドが見ていたのは彼女だったのだ。


「姫様……?!」


 ガルロイも外壁の上から身を乗り出す。

 最後に、漏れる事無く彼女が乗っていたものも高く澄んだ音を響かせて砕け散った。

 その途端、矢を受けた鳥のように、青い服をはためかせながら真っ逆さまに落ちて行く。


「リリティシア!」

「姫様!」


 ジェラルドとガルロイがほぼ同時に踵を返し駆け出す。

 ちょうどその時、誰かが悲鳴にも似た声を上げた。


「ボルドビア軍だ!」


 静寂は突然の凶報によって破られた。


「ボルドビア軍が集結しはじめています!」


 国境に架かる橋の向こう側で、先ほどまで異形のものに翻弄されていたボルドビア軍が、すでに隊列を整え始めていた。兵の数は半分ほどに減っている。

 だが、まだ数では砦の兵より優っていた。ガルロイの背を嫌な汗が流れる。地震と異形の襲撃で、砦の外壁は脆くなっていた。このような状態で襲撃されれば、持ち堪えることは難しい。


「打って出るぞ! 動ける兵を全員門へ集めろ!」


 ジェラルドが声を張り上げた。

 東の砦の者達にとって、死を覚悟した総攻撃の幕開けだった。



いつも読んでくださりありがとうございます。楽しんでいただけたでしょうか? また続きを読んでいただけるとありがたいです。

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