66.強大な力。
再び現れた精霊王に動揺を隠せないクロウは……。
リリアを守るように抱きしめたまま、クロウは後ずさる。それは目の前に現れた精霊王が放つ眩い光のオーラの所為だけではなかった。
「まさか、……リリアを迎えに来たのか?」
発した声は無様なほど掠れている。
「そうだ」
「!」
嫌な予感が的中する。
静かだが、揺るぎない精霊王の返答に、クロウは足元が崩れていくような危うさを感じた。目の前が真っ暗になる。ほんの小さな希望に縋るように、クロウは訴えるように声を上げた。
「以前とは違う。リリアは自分の力で、内にいる精霊の暴走を止めた!」
「そのようだな」
「ならば、このまま……」
クロウの言葉が途切れる。まったく表情を変えない精霊王の宝石のような美しい瞳が僅かに陰るのを目にしたからだ。
「確かに、以前とは違う。しかし、この度の暴走する力を目の当たりにした者はあまりに多い。私の力をしても、全員の記憶を消すことは出来ぬ」
「!」
目を見開き、茫然としているクロウを見つめながら、妖精王は言葉を続ける。
「このまま人の世に留め置けば、新たな諍いの種となろう」
「……リリアを巡って、戦争が起こると?」
精霊王は返事をする代わりに頷いた。
クロウは思わず膝を付きそうになる。精霊王が危惧していることは、クロウでさえ容易に想定出来たからだ。
精霊王が言うように、この度はあまりに大勢の者達が異形のものを目撃してしまった。兵士達を襲い、砦を襲撃する様はすぐに他国に知れ渡ることとなるだろう。異形のものを恐れるだけならまだいい。
(だが、あの強大な力を思い通りに使うことが出来るとすれば……?)
戦においてどれほど有利になるかと考える者も出てくるだろう。
『異形のものを駆使する力』
もちろん、それはリリアの力ではない。
しかし、それを訴えたとところで、誰が聞き入れるだろう。その力を欲して、リリアを手に入れようとさらに他国からの魔の手が彼女に伸ばされるだろう。ボルドビアのようにあからさまに侵略を企てる国も必ずある。
(リリアは精霊の力を使えるわけではない)
侵攻してくる敵と戦うのはベルンシュタイン国の兵士達だ。
自分が原因で戦が起こる。
その事にリリアが心を痛めないわけがない。
クロウは腕の中に取り戻した愛しい少女を見つめる。リリアはクロウに身を委ね、穏やかな表情で眠っていた。その表情を悲しみと苦しみで歪ませたくはない。
だが……。
(どうすればいい? どうすればいいんだ!)
絶望の淵に立たされた今のクロウには、縋り付く僅かな光さえ見出すことが出来なかった。リリアを抱く腕に力がこもる。誰にもリリアを奪われないように、精霊の王にでもだ。
新しい年が明けましたね。どうか穏やかで明るい一年になることを切実に願っています。皆様にとっても素晴らしい年でありますように!




