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王都へ  作者: 待宵月
62/73

62.異形のもの。

精霊の乙女が再び目覚める!

『人間ども、許さぬ!』


 突然、頭の中に声が響き、目の前がぐるりと反転する。

 その途端、リリアの身体は自分のものではなくなってしまったかのように、まったく動かなせなくなっていた。


(私の体はどうなってしまったの?!)


 酷く焦る中、自分のものでない感情がどんどん流れ込んで来る。胸を押しつぶしそうなほどのそれは、悲しみ、憎しみ、怒りだった。


「リリア?」


 リリアの異変に気付いたクロウが心配そうな声で名を呼んだ。その声に応えたいのに、口を動かすことも出来ない。


(あっ)


 突然、身体がふっと軽くなり、リリアは走る馬の背に立っていた。意志とは関係なく勝手に動く体にリリアが慄いていると、今度は馬上からふわりと横へ跳んだ。


「リリア!」


 クロウが鋭い声で叫んだ。


(きゃあぁぁぁぁ!)


 あまりの恐怖にリリアは叫ぶが声にはならず、いつの間にか物凄い速さで森の中を駆ける牡鹿の背に乗っていた。まるで走馬灯のように周りの景色が後ろへと流れ去っていく。自分の身に何が起きているのかまったく分からないまま、リリアは茫然と目に飛び込んで来る光景をただ愕然と見続ける。

 煙はどんどん濃くなり、呼吸をするのも辛くなっていた。所々に火がくすぶる木々が見え始め、その熱が時折彼女の皮膚をチリチリと焦がす。

 ただただ、恐ろしくてしかたがなかった。


「リリアーッ」


 再びクロウの声が聞こえてくる。それもかなり近い。


(クロウが追い駆けてきてくれている!)


 クロウがそばに居ると感じられただけで、リリアを押しつぶすほどの不安と恐怖が和らいでいく。リリアは少しだが冷静さを取り戻すことができた。

 リリアは心の中で必死にクロウの名を呼び続ける。


(クロウ! クロウ! クロウ!)


『許さぬ!』

 

 再びあの声が頭の中に響く。


(誰? 誰なの? どうしてそんなに怒っているの?)


『燃える……森が燃えている、私の森が燃えていく……。あぁ、木々や動物たちの悲鳴が──』


 その声はリリアの問いかけに応えているわけではなかった。ただひたすら怒り、そして嘆き悲しんでいる。


(ねえ、あなたは誰? どこにいるの? 私は、どうすればいいの?)


 リリアは必死で心の中で叫んでいた。


ゴゴゴゴゴゴゴッ! 

 

 突如、地響きを伴い大地が大きく揺れはじめた。牡鹿の背に乗っているリリアにもその振動は伝わってくる。その揺れは治まるどころかさらに大きくなっていく。

 

ドガッ!


 突然、耳をつんざくような音と共に目の前の大地が割け、白い蛇のようなものが大地の底から姿を現した。その数は一つや二つでは無い。


(な、何? これは?!)


 驚愕し、怯えるリリアの体が再び宙へ飛び、蠢く異形のものの中でも一際大きなその先端に降り立った。


ズズズズズッ


 大地を揺らし、それはリリアを乗せたまま蛇が鎌首をもたげるように深い森の中から伸びあがっていく。

 眩暈がするほどの高さから、リリアは眼下を見下していた。東の砦に向かって、森が燃え広がっている様に愕然となる。さらに前方には砦が見える。高い防御壁の上には大勢の人の姿があった。


(みんな……)


ぎゃあああーっ!


 絶叫が聞こえてくる。

 ボルドビアの兵士達が逃げようとする姿があちらこちらで見えた。そこへ異形のものがまるで槍のように、貫き、薙ぎ払っている。その度に暗闇を橙色に輝く火の粉がキラキラと舞い上がり、それはまるで美しくも恐ろしい情景だった。


(や、やめて! やめてーっ!)


 リリアは叫ぶ。

 だが、やはり声にはならない。目下では一方的な殺戮が繰り広げられていく。その光景をリリアは目を背ける事さえ出来ずにいた。


(やめて……、もう、これ以上誰も死なせないで──)


 何もできず、ただ打ちひしがれるリリアの目が凍り付く。狂ったように暴れ回る異形のものがどんどん東の砦へ向かっていることに気付いたからだ。


お待たせいたしました。待っていてくださった皆さん、ありがとうございます! そしてはじめましての方々、読んでくださりありがとうございます。いかがだったでしょうか? 少しでも続きが読みたいと思っていただけたのなら幸いです。どうかこれからも宜しくお願いいたします。

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