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王都へ  作者: 待宵月
61/73

61.目覚めた精霊の乙女。

リリアを連れ、砦に向かうクロウ。だが、事態は思わぬ展開へ………。

 陽が山の影へ隠れると辺りは一気に暗くなり、寒さも一際厳しくなっていた。戦況が分からない中、クロウはリリアを連れ、東の砦に向かっていた。


「リリア、寒くないか?」


 馬上でクロウは前に座っているリリアの身体をマントで包み直す。


「大丈夫。……クロウがそばにいるもの」


 そう言うと、リリアはクロウの腕に両手でそっと触れ、頬を摺り寄せる。まるで二人の時間を惜しんでいるように。クロウは思わずその体を抱きしめる。

 だが、あまり強く抱きしめると壊れてしまうのではないかと不安になるほどリリアの体は華奢だった。なのに、その身で計り知れないほどの重荷を背負っている。どうにもやりけれない思いが、切ないほどの愛しさと相まって、クロウの胸を締め付ける。

 やっとの思いで再会を果たし、あらゆる危険をリリアから遠避けるためにクロウは彼女の側にいる。

 だがしかし、リリアの望みは、戦火にある東の砦に戻ること。それはまさに危険な状況の中に身を投じることだった。


(この先、何が起きても守り抜く!)


 強い決意を胸にクロウは身を委ねてくれるリリアをしっかりと腕に抱き寄せたまま、夕闇に包まれた森の中を敵兵に見つからないように馬を進めて行く。

 

(何だ? この感覚は……)


 砦に近づくにつれ、森全体から只ならぬ雰囲気を感じ始めていた。クロウの全神経がこれ以上先へ行くなと警鐘を鳴らしている。


「!」


 理由はすぐに判明した。


「クロウ!」


 リリアも気付いたらしく、悲痛な声をあげた。ほっそりとしたリリアの指先が示す先、砦の方角の空が橙色に染まっている。


「まさか、砦が……、燃えているの?」


 リリアの声が震える。


「急ごう。俺にしっかりと掴まってくれ」


 固い表情でクロウはシェーンの速度を上げた。進めば進むほど、焦げた匂いが鼻をつく。夜が近づいて来ているというのに、多くの鳥達が上空へ飛び立ち、尋常でない声で鳴き続けている。逃げてくる動物の数もどんどん増えていた。

 状況が読めないだけに、クロウの表情がさらに険しさを増す。


「!」


 いつのまに現れたのか、僅かに離れた場所を大きな牡鹿が並走していた。立派な角があるというのに器用に木々の間を駆けている。


「──森が、苦しんでいる」


 抑揚のない、聞き慣れない声でリリアが呟く。

 ふいにリリアの淡い金色の髪がぶわりと広がり、夕闇の中、彼女だけが光を受けた蝶の鱗粉のようにキラキラと若草色に煌めきはじめた。


「リリア?!」


 クロウは大きく目を見開き、慌ててシェーンを止めようとした。と、その瞬間、重さを感じない動きでリリアが馬上に立ち上がった。妖しく揺らめく淡い金色の髪に隠れ、彼女の顔は見えない。驚愕し困惑しているクロウの目の前でふわりと牡鹿に向かって身を翻す。


「リリア!」


 伸ばした手がむなしく空を切る。リリアを背に乗せ、牡鹿は数回大きく飛躍すると、あっという間にクロウとの距離を離してしまった。


「リリアーッ!」


 飛び出してくる動物達を避けながら、クロウは必死で木々に見え隠れする牡鹿の姿を追う。これ以上離されるわけにはいかなかった。

 クロウの額を嫌な汗が伝う。


(なんとしてでも止めなければ……)

  

 嫌な予感がしていた。

 いや、クロウは確信していたのだ。


 精霊の乙女が目覚めていることを。


読んでくださりありがとうございました。ずっと待ってくださっていたみなさん、感謝いたします。そして、はじめましてのみなさん、楽しんでいただけてますでしょうか? 皆さんが読んでくださるお陰で、物語が続いています。これほどの長編になるとは、書き始めた時は思っておりませんでした。もう少しお付き合いくださいね。よろしくお願いいたします。

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