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王都へ  作者: 待宵月
55/73

55.漆黒の髪の騎士。

敵の手に捕らえられたリリアの元へクロウが現れた! クロウはリリアを取り戻すことができるのか⁈

 今にも雪が降り出しそうな暗灰色の雲が空を覆っている。まるでリリアの心の中を映し出しているかのようだ。

 リリアはできる限りゆっくりと橋を進んで行く。橋の上を吹く風は酷く冷たい。体がどうしても小刻みに震えてしまう。それは寒さからなのか、それとも恐れからなのか分からない。いや、その両方なのだろう。

 だが、対岸から血に濡れた甲冑を着た捕虜の兵士達が足を引きずりながらこちらに向かってくる姿を見れば、これで良かったのだと思えた。

 リリアは毅然とした態度で顔をしっかりと上げる。決して弱気なところを見せるわけにはいかなかった。ボルドビアの兵達はリリアをベルンシュタイン国の王女として見ているのだ。

 すでに、あと十歩ほどで橋の中央に辿り着くところまで来ていた。と、その時、捕虜の兵士の一人が僅かに顔を上げ、ちらりとリリアを見た。


「! ち、違う! 違うっ!! あれは兄上ではない!!!」


 背後からまるで悲鳴のような叫び声が上がった


「罠だ! 王女殿下! お戻りください!」


 リリアはすぐさま身を翻し、地を蹴った。

 だが、すぐに右腕を痛みが伴うほどの力で掴まれ、引き倒される。全身に強い衝撃と痛みが走った。


「きゃあああっ!」


 リリアの唇から悲鳴が迸る。それでもリリアは仲間達の所へ戻ろうと這いずり必死で手を伸ばしもがいた。

 だが、背中や肩、足を上から強く押さえつけられて、息が詰まる。苦痛と恐怖で涙が溢れた。滲む視界にガルロイやルイ達が何かを叫びながら馬を駆け向かってくる姿が映る。

 しかし、それもすぐにかすんで見えなくなってしまう。遠のいていく意識の中で、リリアの名前を呼ぶ愛しい人の声が聞こえた気がした。


(クロウ……)


「リリアーッ!」


 心を揺さぶるような声に途切れかけていたリリアの意識が戻る。

 だが、いつのまにかリリアは誰かの肩に担がれていた。手荒に物のように扱われ、肺が圧迫され苦しく、体中が酷く痛い。

 だが、それ以上にリリアを怯えさせたのは、自分を取り囲む状況の異常さだった。彼女の周りにはボルドビアの兵士達がひしめき合っていた。罵声や怒声、さらには悲鳴までもが辺りを包んでいる。馬の嘶きに交じって金属がぶつかる音も聞こえてくる。


「どけっ! 道を開けろっ! くそっ!」


 リリアを担いでいる男が焦りからかイラついた声で喚いている。

 だが、道が開ひらかれることはなく、それどこらかどんどん押されて、とうとう橋の欄干のそばまで押し流されていた。


「あっ! ……あれは?」


 (おびただ)しい数の兵士達の頭上を、一本の緑色に輝く眩い光が天に向かって伸びていた。どうやらその方向にいるボルドビアの兵士達がこちらに向かって逃げて来ているようだった。

 そして、それは突然起きた。

 橋の上では密集した兵士達が逃げ場を求めて橋の欄干の上へと登り、まるで黒い塊が崩れ落ちて行くように悲鳴を上げながら次々と川へ落下していくのだ。橋の下は水がゴウゴウと音をたてながら激流となって流れている。

 

「リリアッ!」


 阿鼻叫喚の大混乱の中、再びリリアの耳は自分の名を呼ぶ力強い声をとらえた。


「! クロウ? クロウなの?! クロウーッ!!」


 リリアは確信を持ってその者の名を何度も叫んだ。


「リリアッ!」


 人垣を割り、緑色の光を放つ剣を手にした黒い毛並みの美しい馬に乗った一人の若者が姿を現した。その者の髪の色も闇夜を切り抜いたような漆黒。


「!」


 リリアは歓喜の涙を流す。名前を呼びたいのに、まるで喉を塞がれたように声が出ない。ただ会いたいと願い続けていた愛しい人へと震える指先を精一杯伸ばす。


(クロウが戻って来てくれた!)


 このような状況であるというのに、リリアの胸が喜びに震える。頬を熱いものが伝い流れていく。

 だが、リリアを担ぎあげていた男の歯の間から、『ひいっっ』と恐怖に慄く悲鳴が漏れた瞬間、リリアの体がふわりと浮いた。男がリリアの体を川へ向かって放り投げたのだ。


「あっ……」


 それは一瞬の出来事だった。

 だが、リリアにとってはすべてが恐ろしいほどゆっくりと見えた。リリアに向かって力いっぱい手を伸ばしていたクロウの黒曜石のような瞳が驚愕に見開かれる。リリアもクロウへと手を伸ばす。

 しかし、クロウの手に触れることさえ叶わぬまま、リリアの小さな体は欄干をこえ、濁流の中へ吸い込まれていった。強い衝撃が全身に走り、身を切られるような水の冷たさがリリアを襲う。

 

ガボッ


 衝撃で、口から空気が吐き出された。恐怖と息苦しさに顔が歪む。激流に翻弄され、どちらが上なのかさえ分からなくなっていた。手足を動かそうとしても、身に纏っている厚手の衣装がそれを拒む。どんなに足搔いても水面に顔を出すことができない。


(助けて! く、苦しい──)


 恐慌状態に陥り、開いた口の中へと水が容赦なく流れ込んでくる。


ガボッガボッガボッ……


 リリアの意識はそこで途絶えてしまった。


読んでいただけて嬉しいです。ありがとうございました。楽しんでいただけたでしょうか? やっとクロウとリリアが出会えました。長かったです。なのに、再びリリアがピンチです。次はクロウ目線で書く予定です。また続きを読んでいただけたらありがたいです。

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