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王都へ  作者: 待宵月
54/73

54.混戦。

ボルドビア軍に向かって一人向かうリリア。彼女はこのまま敵の手に落ちてしまうのか?

 一国を命運を背負い、リリアはたった一人で歩き出す。

 この場にいる誰よりも小さな背を見つめ、ガルロイは素早く愛馬に飛び乗った。何があっても必ず王女を連れ戻すのだという強い意志を胸に。

 彼のすぐ隣で、ルイも騎乗する。


「ガルロイ殿」


 背後からの声にガルロイは振り向き、瞠目する。声の主は、東の砦で王女の護衛を担っていたこの第一騎馬隊の隊長エリンケ・アルビオンだった。彼もすでに騎乗していた。

 さらに彼の背後では騎士達が一人残らず騎乗している。騎乗の合図をガルロイは聞いていない。


(ここにいる者はすべてが自分の意志で騎乗したということか─────)


 恐らく理由は、ガルロイと同じ………。


「一つ、あなた方には知っておいていただきたい事がございます」


 エリンケはそう切り出した。


「我らは、王女殿下を人身御供として蛮族の国へ差し出そうとしているのではありません。王女殿下を大切に思う気持ちは、あなた方と何ら遜色はないと思っております。王都からどれほど離れていようとも、ジェラルド様を筆頭に我らアルビオン家に名を連ねる者は皆、国王陛下並びに王女殿下をお守りするためにあると自負しているのです」


 固い意志を感じさせる強い眼差しをガルロイは受け止める。


「…………ですが、この非常事態で陛下もジェラルド様も不在の折、どれほど意に反することであっても、王女殿下の命令は我らには絶対的な威力があるのです。我らには命令に背くことなど出来ないのです。ですから、我らが一番怖れていることは、殿下からご自身の命を犠牲にする命令なのです」

「王女殿下の意に沿いながら。あの方の身の安全を守るのが我らの務め」


 背後に控えていた副隊長も隊長の言葉の後に続く。

 ガルロイは愕然とする。彼は後頭部を思いっ切り殴られたような衝撃を受けていた。


(何という思い違いをしていたのか………)


 ふと、隊長の表情が緩む。


「………不思議な方ですね。私はあのお方を王女殿下だからという理由ではなく、一個人として、何としてでもお守りしたいと、そう強く思っているのですよ」


 その場にいた者達の視線がリリアの背に注がれた。と、その時───


「ち、違う! 違う!! あれは兄上ではない!!!」

  

 捕虜になった男が兄だと訴えていた若者が突然悲鳴のような声を上げた。腕に赤い布を巻いていた男が、王女が気になったのだろう、一瞬顔を上げたのだ。その瞬間を若者は見逃さなかった。

 その声に、弾かれたように捕虜であった男達が一斉に顔を上げた。その中に、仲間の顔は一人もいない。


「罠だ! 王女殿下、お逃げください!」

「突撃! 殿下をお救いしろ!」

 

 隊長の声とほぼ同時に、ベルンシュタイン国の騎士達が一斉に橋に向かって馬を駆る。一方のボルドビア軍側もじっとなどしていなかった。橋に向かって兵が押し寄せて来る。

 だが、橋の幅は大人が五、六人並べるだけの幅しかなく、ボルドビアの一万もの兵の数はここでは意味をなしていなかった。

 しかし、リリアに一番近くにいたベルンシュタイン国の捕虜に扮していたボルドビアの兵士達は誰よりも早く行動に出ていた。先ほどまで足を引きずっていたのが幻だったかのような俊敏な動きで、リリアに襲い掛かる。


「きゃあああっ!」


 すぐに身を反転し逃げようとしたリリアだったが、腕を掴まれ橋の上に引き倒された。なおも這うように逃げようとするリリアをボルドビアの兵が押さえつけている。


「姫様!」


 鬼気迫る表情で向かってきたガルロイの前に、捕虜に扮していたボルドビア兵の内四人の男が立ちはだかった。

 

「どけっ!」

「殿下!」


 捨て身のボルドビアの兵達によりガルロイ達が足止めされたその一瞬のうちに、兵の肩に担がれたリリアの姿がボルドビア軍の中に消えた。


「姫様ーっ!」


 ガルロイの絶叫が響き渡る。

 すでにベルンシュタインの騎兵とボルドビアの騎兵とが橋の上で激突し、混戦状態となっていた。そんな中、それは突然起こった。まだ橋の向こう側にいるボルドビアの軍の背後で緑色に輝く眩い光の柱が天に向かって伸びたのだ。

 その途端、ボルドビア軍の後方から悲鳴と叫び声が上がり、隊列が崩れ始める。


「何だ? あれは!?」

「な、何が起こっている?」


 橋の上で戦っているボルドビアの兵達だけでなく、彼らと剣を交えていたベルンシュタインの騎士達の間にも動揺が走った。敵味方関係なくこの場にいる者すべてが言いようのない恐怖に慄く。

 だが、ガルロイの口角が僅かに上がった。彼の耳は悲鳴や叫び声に交じって微かに聞こえた覚えのある声をとらえていたのだ。


親父(おやじ)!」


 ルイにも聞こえたらしく、敵の剣を弾き飛ばすと顔を輝かせてこちらを振り返った。久しぶりに見る心からの笑顔だった。


『リリア!』


 再びはっきりと聞こえたその声の持ち主は。


「クロウッ!」


 待ち望んでいた仲間の名を、歓喜に震える声でガルロイは叫んでいた。


読んでくださり、ありがとうございます。やっとクロウが到着しました。早くリリアに合わせてあげたいです。また続きを読んでいただけると嬉しいです。

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