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王都へ  作者: 待宵月
51/73

51.捕虜。

再びリリアに試練が!。

 ベルンシュタイン国の東の砦。

 兵士達や避難している近くの村人達が砦の周壁上部の歩廊に鈴なりに集まり、沈痛な面持ちで見つめる先には、ボルドビア軍の前にベルンシュタイン国の甲冑を付けた六人の兵士達が並べられていた。彼らは皆、(うつむ)いた状態で地面に座らされている。


「ガルロイ! 何が起きているのですか?」

「姫様………」


 リリアも壁上に姿を現した。肩で息をしているのは、ここまで駆けて来たからだろう。彼女に付き従っているルイも何かを感じ取っているのか、いつもの明るい雰囲気が、今はまったく感じられない。固い表情でガルロイを見つめている。


「………我が国の兵が、捕虜になったようです」


 ガルロイは眉間に深い皺を寄せ、重い口を開いた。それを聞いたリリアの紅潮していた顔が一気に蒼ざめる。


「捕虜になった者達は、ジェラルド様と共にボルドビア軍を足止めするために戦っていた者達です。撤退時、負傷した者は皆連れ帰って来ていたのですが、すでに絶命していると判断された者はその場に置き去りにする他無く、……………その中に、息を吹き返した者、もしくはまだ息があった者がいなかったとは言い切れません──────」


 ジェラルドの側近の一人が、苦渋に満ちた顔で説明をする。

 その時、若い兵士が一人、人垣を掻き分けながら駆け寄って来た。思いつめた表情でリリアの足元に(ひざまず)くと、そのまま地面に額を押し付け、声を上げた。


「王女殿下! お願いでございます! 私の兄を助けてください!」

「!」

「やめるんだ…………」

 

 近くにいた他の兵士達が若い兵の両腕を取ると、気の毒そうに顔を歪めながらも彼をこの場から連れ出そうとする。

 

「お願いでございます! 王女殿下! あの腕に赤い布を巻きつけているのは私の兄なのです! もうすぐ処刑されてしまう! 兄を助けてください! 王女殿下!」

「ま、待ってください!」


 リリアは手を伸ばし、若い兵士を引きずって行く兵士達を引き止める。


「捕まっている兵の方々を助ける方法は、あるのですか?」


 誰もが顔を見合わせると、口をつぐむ。

 だが、誰も『無い』とは言わなかった。その事にリリアは気付く。何か方法があるのだと。


「あるのですね? ガルロイ、教えて。どうすれば、彼らを助けることができるのですか? ボルドビア軍は何か言って来ているのではないのですか?」

「………」


 ガルロイはリリアから視線を外すと、苦しそうに目を閉じた。


「ガルロイ!」


 懇願(こんがん)するようにリリアに名前を呼ばれ、ガルロイは苦々しそうに顔を(ゆが)ませる。


「────────────姫様と引き換えに、捕虜たちを開放すると、さもないと、兵を一人ずつ処刑していくと………………」

「私………と?」


 茫然と呟くリリアの声に、ガルロイは震える拳で壁を殴りつけ、(うつむ)く。

 だが、リリアがふらりと歩き出す気配に慌てて顔を上げた。リリアは人垣が割れた場所から、捕らえられている兵の姿を目にし、華奢な肩を震わせる。


「……………私一人で、皆を助けることが出来るのですね?」


 その声は(かす)れ、震えていたが、何かを心に決めたような響きがあった。


「王女殿下?」

「姫様⁈」

「姫様!」

「王女殿下‼」

 

 リリアが振り向いた時には、すでに周りの者達に取り囲まれた。誰一人として声を発する者はいなかったが、それぞれの想いが表情に現れていた。その中で、唯一ガルロイだけは強い意志をもった目でリリアの前に進み出てきた。

 

「………………我々が貴方様を敵に差し出すとお思いなのですか?」

「ガルロイ──────」

「兵を助ける為に、自国の王女を差し出す国がどこにあると?」


 リリアが今にも泣き出しそうに顔を歪めた。その姿にガルロイははっとする。つい感情的になってしまったと後悔しているのか、強く噛み締めた奥歯がぎりりと鳴る。ガルロイは歯がゆくて仕方がなかったのだ。他人のために、躊躇(ためら)わず身を投げうとうとするリリアの姿が。


「御身を犠牲にしてでも、自国の兵士達を救おうとされるそのお気持ちだけで、我々は胸が熱くなっております」

 

 老将の一人がリリアの手を恭しく取ると、リリアの翡翠色の瞳が揺れる。


「…………私は、何もできないということなのですか? 私達を守るために囚われた彼らを、このまま───」


 リリアの白い頬を涙がすっと流れ落ちていく。


「泣かないでください、王女殿下。何も出来ないのは我々も同じです」

「それに、罠である可能性が大きいのです。もしかすると、捕虜となった者達は皆偽物かもしれません」

「早く援軍が到着すれば良いのですが………」


 リリアを慰めようと、それぞれが思いついた事を言い連ねる。


「………時間を稼げば、何とかなりますか? それに、近くへ行くことが出来れば、偽物かどうかも分かるのではないですか?」


 皆の話に耳を傾けていたリリアが突然ガルロイに質問を投げかけた。


「もちろん、時間を稼ぐことができるのであれば、捕虜になった者達の命もその分永らえことができますし、その間に、何か助ける手立ても考えることができるでしょう。それに、寄せ集めの兵ではなく、日々共に訓練をしてきた者であえば、それほど近くでなくとも、顔の形がある程度判別出来る距離さえあれば、仲間かどうかぐらいは分かりますが──────」


 戸惑いつつもガルロイは答える。それを聞くと、リリアは涙を拭った。再び顔を上げたリリアの瞳には、強い光が灯っていた。


「ボルドビア軍はどのように私と捕虜との交換を指示してきたのですか?」

「………………突然激しい攻撃が収まり、ボルドビア軍の前に捕虜になった兵士達が並べられました。我々が注目した時に、ボルドビアの将軍だと名の乗る男が大声で、そう言ってきたのです」


 ガルロイは強い怒りに固く握り閉めた拳が震える。彼にはボルドビアの魂胆が手に取るように分かっていた。捕虜と王女の交換は、ベルンシュタイン側では兵士達も避難している民達も皆知ることとなった。もしリリアが応じなければ、仲間や親族を目の前で惨たらしく殺された者達は、やり場のない怒りと悲しみをリリアに向け、国の民を見捨てた王女として憎むようになるだろう。国王の養女というリリアの立場ではなおさらだ。

 さらには、王家へ反感を抱く者も出てくるはずだ。もちろん、応じるということは、リリアが人質になることを意味する。


「………………分かりました。交換条件に応じると、ボルドビア軍に伝えてください」


 リリア以外の者達は皆絶句した。


読んでいただけて嬉しいです。ありがとうございます。楽しんでいただけたでしょうか? まだ続きますので、もう少しお付き合いいただけるとありがたいです。よろしくお願いします。

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