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王都へ  作者: 待宵月
47/73

47.混乱。

ボルドビア軍の侵攻を前に、リリア達は……。

 ベルンシュタイン国の東の砦は、大混乱に(おちい)っていた。

 ローラン軍と交戦中であったボルドビア軍が、突然兵をベルンシュタイン国へと向けてきたのだ。大挙(たいきょ)して攻めてくるボルドビア軍を目前にし、近くの村人達を急ぎ砦の中へと避難させながら、応戦する準備を短時間で整えねばならなかった。

 その頃、この地の領主であるジェラルド・アルビオン侯爵はたった五百の兵を連れ、すでに国境へと向かっていた。敵兵の規模を考慮(こうりょ)すれば、あまりに無謀(むぼう)な数であった。

 東の砦は長きに(わた)って国同士の小競(こぜ)り合いさえ起きたことが無く、国境の治安維持のためだけに存在しているような状態だった。そのため、常駐している兵の数がもともと少なかったのだ。

 そんな中、『眠り病』が蔓延し、まともに戦える兵の数がさらに激減していた。

 そして、まるでこの機を見計らったようなボルドビアの進軍だった。

 ジェラルド自身、無謀であることは百も承知での出陣であった。ボルドビア軍を僅かな間でも足止めするためには、国境で迎え撃たねばならなかったのだ。領民達の避難と愛しい王女を逃す為に。

 だが、ジェラルドから王女の脱出を命じられていたガルロイは、いまだ砦の中にいた。

 

「嫌です。私はこの砦に残ります!」


 いつも(おだ)やかで優しいリリアが(かたく)ななまでに砦から離れる事を(こば)んでいたのだ。彼にとっても想定外の事態であった。


「なりません! ジェラルド卿が敵を足止めしている間に、王都へ向かうように指示を受けています。ボルドビア軍がこの砦に到着するのも時間の問題でしょう。敵の規模から考えても、援軍が到着するまで、この砦がもつ保証はどこにもないのです。貴方様にもしものことがあれば、この国が、ベルンシュタイン国が取返しのつかなくなることになるのですよ!」

「聞いて、ガルロイ! ベルンシュタイン国には国王であるお義父(とう)様がご健在(けんざい)なのよ。たとえ私の身に何が起きたとしても、この国にそれほど影響(えいきょう)があるとは思えない。それよりも、今この砦から王女であるわたしが逃げることの方が、取り返しがつかなくなるわ。今、ジェラルド達が戦ってくれている。だからこそ、私はこの砦を皆と共に守りたいの」


 リリアの意志は固かった。どれほど説得を試みても首を縦に振ろうとはしない。

 それどころか、この混乱の中、『眠り病』の患者や、傷を負った兵士や村人達の世話に奔走している。


「あの方が、我が国の王女様なのか?」

「精霊の乙女の生まれ変わりなのだと聞いたぞ」

(うわさ)に負けぬ美しいお姿だが、まだ子供のようではないか……」


 当初、人々は身分など関係なく接してくる王女に対し、戸惑いしかなかった。

 だが、気付けば、誰もが小柄な王女の姿を目で追っていた。不思議な事に、彼女の周りだけは戦の不穏な雰囲気が漂う砦の中で、明るく輝いて見えるのだ。


「おうじょさま」

「おうじょさま」


 いつの間にか、王女の後ろを子供達が付いて回るようになっていた。

 そして、不器用ながらも水を運んできたり、掃除をしたり、自分達にもできることを率先して手伝っている。そんな一生懸命に働く子供達の姿に、大人達の心も変わり始めた。


「私にも、何か出来ることはありませんか?」

「俺にも何かさせてくれ」


 守られるだけであった村人達の中から、自ら役割を担おうとする者が大勢出始めた。

 これが予想外の戦力となった。

 戦は剣だけで敵と戦うことだけではない。手先が器用な者は武器の手入れや矢を作り、目の良い者は見張り役に名乗り出た。

 そして、足の速い者は連絡係として、砦の中を駆け回る。女達も人数が増えて大変な数となった食事作りを()け負い、手際よく配っていく。女達から食事を手渡され、不快に思う男は一人もいない。

 かつてない危機にさらされているというのに、東の砦の中で暗い表情をしている者はどこにもいなかった。

 それどころか、活気に満ち(あふ)れていく。

 

「どうすれば良いのだ!」


 ただ、ガルロイだけが苦悩し続けていた。


親父(おやじ)、まだ悩んでたの? 俺は、姫様の意志に(したが)うよ」


 そう言ってルイは子供達にまざって喜々としてリリアの手伝いをしている。

 確かに、今の砦の状態を見る限り、ボルドビア軍の攻撃を受けたとしても、何とか持ちこたえることができるのではないかと思えた。

 だが、それは持ちこたえる時間が少し伸びるだけのことであって、あの大軍を撃破できるわけではない。

 ただひたすら砦の中で籠っているだけでは、いずれ門を打ち破られ、この砦の中は地獄と化することは明白であった。


(そうなる前に、何としてでも王女だけは王都へ逃がさねば………)


 手段を選んでいる暇はなかった。


(姫様にどれほど責められることになってもかまわない。騙してでも、この砦から連れ出さねば!)


 覚悟を決めたガルロイの耳に最悪の知らせが飛び込んできた。


「大変だ! ジェラルド様が負傷された!」

「ボルドビア軍が攻めて来るぞ!」


 二つの知らせは砦の中を一瞬にして駆け巡り、人々の心をどん底に突き落としたのだった。


読んでくださりありがとうございます。じわじわとリリア達に魔の手が伸びてきました。ではまた、続きを読みに来ていただければ幸いです。

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