3.消えた王女
今回はガルロイの回想です。
「ルイ! すぐに、ここを立つぞ」
「ちょっと待ってよ、団長! どうして、十年以上も前に亡くなった王女が生きているって知っているのさ」
「話は後だ。早く馬に乗れ!」
ガルロイは動揺を隠せないルイを急き立て、すぐさま自分の愛馬に飛び乗った。馬達にはかなり無理をさせてしまうが、もう少し頑張ってもらうしかなかった。労わるように馬の首を優しく撫でながら、クロウが向かった先に見当を付ける。
(今のクロウなら安全な道を選ぶだろう。ならば、先ず峠を越え人々の往来がある街道を通って王都へ向うはずだ)
ルイが慌てて馬に乗るのを目の端で捉えると、比較的なだらかな斜面を選び、岩場を勢いよく駆け上って行く。
(頼む! クロウ、俺達が行くまで何としても姫様を守っていてくれ!)
あの宝玉の輝きに似た美しい翠色の瞳が思い浮かぶ。短い髪に少年の服を着ていたが、間違いなくあの少女はリリティシア王女だった。断言できる。
ずっと探し続けていた王女が、突然成長した姿で目の前に現れたのだ。冷静でいられるはずがない。
これまで王女が生きているという証さえ見つけることが出来なかった。どこにいるのかさえ見当もつかず、ただ闇雲に探し続け、今では王都へ現れるのではないかとう淡い期待にしがみ付き、旅人を運びながら王女の手がかりを探している。どれほどの時間が無駄に過ぎて去って行ったことか。
もし王女だと名乗り出て来る者があっても、その娘が本物かどうか見分ける自信などすでになくなっていた。
だが、あの少女の澄んだ瞳を一目見ただけで、すぐにリリティシア王女だと分かったのだ。
ところだがどうだ。己の判断の甘さで、再び彼女は幻のように姿を消してしまった。
ガルロイは無意識に奥歯を噛みしめる。自分の不甲斐なさがなんとも腹立たしかった。やるせない思いを胸に押し込め馬を北へ向かって走らせていると、彼の記憶は十四年前へと引き戻されていった。
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大陸の中央よりやや西方に位置する国──ベルンシュタイン。
大地の精霊に愛された国と呼ばれ、四季がしっかりと分かれたこの国では、季節ごとにいろいろな表情を見ることができた。
暖かく穏やかな春、国中が色とりどりの草花で華やぎ、夏になれば日差しは容赦なく照りつけてくるが、優しい雨が大地を潤し、木々を青々と茂らせていく。
そして大地が黄金色に染まる秋には、穀物や果物が豊かに実り、国中が至福の時を迎える。その後訪れる冬がどんなに厳しい寒さに包まれ、辺り一面が真っ白で冷たい雪に覆われたとしても、再び新たな生命が芽生える暖かな春が必ず訪れる。
そんな自然の営みにベルンシュタインの民は心から感謝し、この国を守る国王とその家族をこよなく愛していた。
彼らが敬愛する国王が住まう白亜の城は、青く澄んだ広い湖を見下ろす小高い丘の上に聳え立ち、その城下街として栄える王都シェンドラは、その王城を臨む大きく美しい都だった。
かつて、ガルロイ・ラフィットはその白く輝く王城で近衛兵として暮らしていた。
伯爵家の次男として生まれた彼は、十八歳になると国王専属の近衛隊に入隊し、国王陛下の警護を担っていたのだ。
王城へ来て四年目の春。
その日は春と呼ぶにはまだまだ寒く、空気が澄み切った早朝に、王女リリティシアがお生まれになった。国中が喜びに包まれた事は言うまでもない。
ガルロイは王女のおそば近くで、彼女の成長をつぶさに見守る日々を送っていた。
『おはようございます。王妃様、今から中庭へお出になられるのですか? 今日は五月のまだ初めだというのに、朝から日差しが強ようございます。姫様には少し眩しすぎるかもしれません』
『まあ、そうなの? ガルロイ、それでは今日は木陰でゆっくりと過ごした方がいいわね』
そう言って朗らかに微笑むエレーネ王妃は、森の精霊の末裔を呼ばれるヴァルトヴァイゼ家出身のとても美しい女性だった。
木漏れ日を紡いだように淡く輝く金色の髪、澄んだ泉を思わせる薄青い瞳、雪のように白い肌は滑らかで、国外を問わず求婚者が殺到したと言われている。
その美しい彼女の心を射止めたのは、その頃まだ王太子であったアルフレッドだった。二人は一年間の婚約期間を終え、無事婚姻を結ばれた。
その時、アルフレッドは25歳、エレーネは17歳だった。
彼らの婚姻を見届けるようにその翌年、アルフレッドの父であった国王グランツ・フォン・アーレンベルグが死去した。74歳だった。
すぐさま国王の座に着いたアルフレッドは、若くとも亡き父王に代わりしっかりと国を統治していた。
だが、老獪な王から年若い王へ変わった事で、豊かな資源を求め隣国が攻めて来た事は一度や二度ではない。
その度にアルフレッドは自ら軍を率い、戦場では勇敢にも兵達の先頭に立って見事な戦いを見せていたと、共に戦った臣下達の間では語り草になっている。
その勇ましい姿を見て兵士達もおおいに奮起し、彼が率いるベルンシュタイン軍は必ず勝って帰って来た。
しかし、日夜戦に明け暮れる日々が続く中、とても仲の良い夫婦ではあったがなかなか子宝に恵まれなかった。待望の第一子リリティシア王女が生まれたのはアルフレッドが32歳の時だった。
その頃にはすでに近隣諸国にベルンシュタイン軍の強さが知れ渡り、アルフレッドが兵を率いて戦に出かける事もなくなっていた。
『今日も姫様はご機嫌のご様子でございますね』
エレーネ王妃は幼い娘を自ら腕に抱き、従女達を引き連れて城の中庭をよく散歩をされていた。ガルロイは王妃の腕に抱かれたあどけない王女の顔をそっと覗き込むことが楽しみの一つだった。
生まれたばかりの頃はあまりにもの小ささに無事にお育ちになるのかと心配もしていたが、日を追うごとにどんどん可愛らしくなっていく王女のその愛くるしい姿にいつも口元を緩めていた。
さらに、王女はこの国の祖にあたる精霊の乙女と同じ珍しい翠緑の瞳だった。その瞳で見つめられると、どんなにささくれた気分の時でもふんわりと温かい気持ちになるのだ。
『おや、私を置いてリリティシアとお散歩かい? 私の妃殿は』
甘さを含んだ澄んだ声に、王妃の従女達が色めき立つ。
黄金を溶かしたような金色の髪。目の覚めるような青い瞳。従女達でなくとも見惚れる眩い姿の国王が現れると、どんな場所でも不思議と華やいで見えた。
国王であるアルフレッドは公務の合間を縫って、王妃と愛娘によく会いに来ていた。
『陛下。今朝の会議はもうお済になりましたの?』
王妃がおっとりと尋ねると、彼は愛おしそうに目を細める。
『ああ、大急ぎで済ませてきたよ』
アルフレッドは微笑みながらエレーネに歩み寄ると、彼女の細い腰を優しく引き寄せ、リリティシアごと王妃を抱きしめる。
そして側近達が居ようが居まいがおかまいなしに愛する妃と娘に唇を寄せては、蕩けそうな眼差しで二人を見つめるのだ。
『エレーネ。少し離れている間にまた美しくなったのではないか?』
『陛下、朝食を共に取られてからまだ数時間しかたっておりませんよ』
側近であるオスカ・フェッセンが指摘しても一向に気に留めた様子もなく、愛娘の柔らかな頬をそっとつつきながら幸せそうに呟く。
『ああ、本当にリリティシアは私によく似ている』
『どこがです? 姫様は王妃様にはとてもよく似ておられますが、陛下にはあまり似ておられませんよ』
『姫様を例えるなら、朝の澄んだ森の中に射し込む木漏れ日のようなきらきらとした輝きですが、もし陛下に似ておられたとしたらきっと真夏の太陽のようにぎらぎらとした輝きを放っておられたでしょうね』
オスカが再び間髪いれずに指摘し、彼らを背後で見守っていた宰相のラファル・ディセントも異議を唱えると、アルフレッドは緩んだ口元を不敵な笑みに変えた。
『オスカもラファルも、おまえ達はよく出来た奴だといつも思っていたが、その目はどうやら節穴だったようだな。リリティシアの耳をよく見てみろ。これほど私に似ているのに、今まで気づいていなかったのか?』
『『耳?』』
臣下達の声が重なる。確かに王女の髪の色や顔の作りは王妃によく似ていた。
だが、耳の形は国王にそっくりだったのだ。
『どうだ。そっくりだろ?』
『本当ですね。陛下の耳にこれほど似ておられたとは……』
オスカが感嘆の声を漏らすと、その場が明るい笑い声で包まれた。
その頃、ガルロイを含めベルンシュタイン国の貴族や民達は誰一人としてこのような平和な日々が永遠に続くものと信じて疑う者などいなかった。
しかし、その年の暮れも差し迫ったある日、国王が倒れた。
疲労が重なったのが原因だと三日間の休養を取られ、すぐに公務へ復帰されていたので誰もがほっと胸をなでおろしていたのだが、実はこの頃から暗い影が彼らの身の上に忍び寄り始めていたのだ。
リリティシア王女が一歳の誕生日を迎え、その一カ月後の花祭りの時に王女のお披露目式も共に行う事が決まり、王都はこれまでにないほどの賑わいを見せていた。
王城で働く者が皆準備に追われ多忙な日々を送る中、見張りを交代し休憩の為近衛隊の詰め所へ向かっていたガルロイは、人気の無い古い塔の近くで西の砦を任されていたクラード・フクス将軍の姿を見つけた。警護上、来城予定のリストを頭に叩き込まれていた彼は引っ掛りを覚えた。
彼が王都へ来るのは、まだ先のはずだったからだ。
『フクス将軍殿』
不審に思ったガルロイが近づきながら声を掛けると、あっという間に数名の兵士達に取り囲まれてしまった。
『これは、どういう事でございますか? フクス将軍』
『将軍! この者は私どもにお任せ下さい。さあ、お早く!』
兵の一人が話す言葉にわずかな隣国リコスのなまりがあった。悪い予感に背中を嫌な汗が流れる。
『いや、おまえ達の手でどうにかなる男ではない。この男は昨年の剣術大会で優勝しているのだぞ』
兵達がざっと場所を空けると、フクス将軍は微苦笑を浮かべ剣を抜いた。ガルロイの悪い予感は当たっていたのだ。
『これも国の為だ。悪く思うなよ』
そう言うと、数多の戦歴を持つ将軍はガルロイに向かって突進してきた。砦を任されるほどの猛将であったフクス将軍に敵うはずも無く、敗れたガルロイは意識不明のまま生死を彷徨うこととなった。
ガルロイが奇跡的に息を吹き返した時には、ベルンシュタイン国は一変していた。
『アルフレッド王が……亡くなった?』
意識を取り戻したばかりのガルロイに医師が告げた内容は、到底受け入れがたいものだった。
フクス将軍の謀反により、王都は西の隣国リコス軍に包囲され、彼の手引きで城内へ入り込んだリコスの兵達によって、王だけでなく王妃も王女も殺されたというのだ。
皮肉な事に、彼らを守っていた近衛兵で生き残ったのは、その時死にかけていたガルロイただ一人だと。
『……俺は、まだ悪い夢を見ているのか?』
『夢ではない。夢であればよかったのだがな……。だが、ベルンシュタイン国が終わったわけではない。東の砦から風神のごとく駆けつけて下さった王弟殿下が、包囲していたリコス軍をすべて蹴散らされ、この国は守られたのだ。安心してその傷を治せば良い』
医師が出て行った後、一人取り残されたガルロイは何も考えられなくなっていた。ただ茫然と春の日差しが入り込む窓辺を見つめる。
その後、王城を出たガルロイは、王都に留まりこそすれ、荒んだ生活を送っていた。
『ガルロイ・ラフィット。勝手に入るぞ』
季節は秋になろうとしていた。
ベルンシュタイン国はアルフレッド王の亡き後、異母弟であったシュティル・フォン・アーレンベルグはなぜかすぐには王位に就こうとしなかった。シュティルは喪に服し、王位を継ぐまでの一年間は王位が空いたままの状態だった。
そんな中、いつものように王都の片隅にあった自分の部屋で酒に酔いつぶれていたガルロイは、珍しい男の訪問を受けた。
『……宰相どのぅ。ろうして、ここへぇ?』
酒に酔ったガルロイの虚ろなまなざしに映ったのは、宰相のラファル・ディセントの姿だった。彼の上着の袖から腕に巻かれた包帯が覗いていた。彼もまた、王城へ乗り込んできたリコス兵によって負傷した身だった。
五年前に彼は宰相だった父の後を継ぎ、三十歳という若さで宰相となっていた。それからは二歳年下のアルフレッド国王を支えとても良く補佐していた。
どこか面影がエレーネ王妃に似ているように感じたのは、彼女の母方の伯父だったからかもしれない。
『ガルロイ。昼間から酒に酔っているのか……』
『ほっておいて頂きたいぃ。……俺はもう……近衛隊の隊員ではないのれすから』
『馬鹿者! このような様、亡きアルフレッド国王陛下やエレーネ王妃殿下に対し、恥ずかしいとは思わないのか?!』
『……陛下も、殿下も、姫様まれもぉ、わたしはだれひとり……、誰一人、お守りできなかった……、出来なかった!』
頭を抱え込んだまま机に突っ伏し嘆き悲しむ。この頃のガルロイにはそれ以外何も出来なかった。ひたすら命が尽きるのをただ待つだけのような日々。
『王女は生きておられる。その事でおまえにやってもらいたい事があって来たのだ』
『……生きておられるぅ?』
胡乱なまなざしで見上げるガルロイの目を宰相は冷ややかに見降ろし、『また、明日来る。その時はもっとましな姿でいろ』と言い置き、さっさと部屋から出て行ってしまった。
次の日ガルロイは久しぶりに髭をそり、身なりを整えて宰相の来訪を待った。
日が沈み切った暗闇の中を、再び宰相はたった一人で現れた。
『昨日は大変な失礼をいたしました。宰相閣下殿』
『今日は、まともに話が出来るようだな』
ガルロイが椅子を勧めると、ディセントは小さく頷き腰を下ろした。
『何か飲まれますか?』
『いや、構うな。それより、すぐにおまえにやってもらいたい事がある』
『姫様が生きておられるとおっしゃっておられましたが、それは本当なのですか?』
宰相の話に被るようにガルロイは尋ねる。無作法だとは思った。
だが、叱責を受けたとしても、どうしても一番に確認しておきたかったのだ。ガルロイは縋るような目でじっと宰相を見た。
『……リコス兵の襲撃を受けた日、私が陛下の所へ駆け付けた時には、すべてが終わっていた。敵味方両方の血で染まった部屋の中で、陛下お一人だけが立っておられた。その手には血で濡れた剣がしっかりと握られていた。おそらく立っている事も剣を持っている感覚も、もうすでに無くなっておいでのようだった。陛下は王女だけはウォルターに任せて城から逃がしたと告げられ、そのまま息を引き取られた』
ガルロイは息を飲む。
ウォルターとは、国王陛下の主治医だった男の名だ。
(ウォルター殿が王女殿下を逃がしていた!)
ガルロイは拳を強く握る。
(陛下は壮絶な最期を遂げておられたのだ。侵入した敵兵は全て死んだと聞いていたが、まさか陛下がそんな状態になるまで一人で戦っておられたとは……、それに比べて今の自分はどうだ? 嘆き悲しむだけで何もしていないではないか!)
おもむろに拳を開くと、掌から血が滲んでいた。いつのまにか爪が掌にくい込む程、酷く握りしめていたようだ。
『……王女殿下が亡くなられたと、なぜ公表されたのですか?』
ガルロイはもっとも疑問に思った事をさらに尋ねた。
『これは王弟殿下と話し合って決めた事なのだ。王城から逃れたウォルターの居場所が未だに分からぬ。幼い王女殿下が行方不明だと分かれば、良からぬ事を考える者達に狙わる事になるだろう。王女殿下の身にさらなる危険が及ばぬためにも、真実を伏せて内密に探している』
『では、私もその捜索隊に加わればよいのですね!』
ガルロイの目に生きる光が再び灯った瞬間だった。
だが、宰相はゆっくりと首を横に振った。
『おまえにはその部隊とは別に王女の捜索を命じる。必ず彼らより早く王女を見つけ、私のところへお連れするのだ』
『別に?』
怪訝な表情を浮かべるガルロイの目を宰相は見据える。
『そうだ。私は王弟殿下に疑念を抱いている。この度、東の砦から殿下のご帰還があまりにも早かった。そのお陰でこの国は助かったと言える。だが、私にはフクス将軍の謀反を事前に知っておられたとしか思えぬのだ』
ガルロイの脳裏に、シュティルの端正な顔が浮かぶ。アルフレッド国王とは九歳も年の離れた異母弟である彼の母親は、ベルンシュタイン国の北側に位置するノルドラント国の第三王女だった。彼はノルドラント王家の特徴である青みを帯びた銀色の髪に、兄のアルフレッドと同じ真っ青な瞳を持つ美しい若者だった。
アルフレッドが太陽なら、シュティルはまさに月だ。
父王であったグランツが亡くなられてからはアルフレッドと共に戦場に出る事もあった。兄弟は仲が良く。王妃であるエレーネの事も姉のように慕っていた。
(その彼がなぜ?)
「……団長、……団長!」
ルイの呼ぶ声で、ガルロイは現実に引き戻された。いつのまにか峠を越え、小さな町にたどり着いていた。
「団長。一度休もう。これ以上は馬も俺達も限界だよ」
「……そうだな」
ルイが言うように、このまま走らせていれば馬達を潰しかねなかった。
信頼出来そうな宿の馬番に疲れた様子の馬達を預けると、人が多く集まっていそうな食堂を探す。クロウ達の情報を得るためだ。
「見なかったね~。黒髪で長身の男と小柄で金髪の坊やなんて珍しい取り合わせなら記憶に残るからね。……それより、あんた達いい男だねぇ。今日はこの町に泊まっていくんだろう? 宿は決めているのかい?」
食事を運んで来た女は気前よく質問に答えてくれたが、ルイに流し目を送りだしたので早々に食事を切り上げることにした。
「団長。緑の瞳の少年って、聞いた方が早いんじゃない?」
「いや、駄目だ。………それに、フードを被っているかもしれないからな」
「ああ、なるほどね。旅の間中、ずっとフードを被っていたもんね」
ルイは素直に納得している。
だが、ガルロイには別に理由があった。あえてその理由はルイには打ち明けていなかった。彼らは数件ある宿屋にも足を運んでみたが、二人の消息を得ることは出来なかった。
「近衛隊? 団長って、貴族だったの⁈」
「貴族と言っても、俺自身は次男で爵位なんぞ持っとらんがな」
宿に戻ると、ルイには王女が生きている事と宰相に探すよう命を受けている事だけを説明することにした。
ガルロイが王城で近衛隊にいたと聞いただけでずいぶん驚いていたルイだったが、宰相の密命を受けて王女を探していると知ると、珍しく難しい顔をして黙りこんでしまった。
「……あの子が、王女様だったんだね。見つかっても、お城へ連れて行くのはなんだか可哀そうだ」
「可哀そう? 十四年を経てやっと王城へお戻りになられるのだぞ」
「だってさ、あの子を城に連れて行ったら、否応なくそのややこしそうな世界に巻き込まれてしまうんだろ?」
即座に、ガルロイは『違う』とは言えなかった。
(ルイが言うように、王女殿下を宰相の元へ届ける事は本当に正しい事なのだろうか? やっと落ち着いてきたこの国に暗雲を呼ぶことになってしまうのだろうか?)
突然湧き上がった疑問が、ガルロイを戸惑わせた。
ガルロイが突然過去を語り出しました。リリアの父と母が書けたのは嬉しかったです。いつか二人の事も書きたいなと思うのですが、若くして亡くなるのが分かっているので、なかなか書き出せないです。




