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王都へ  作者: 待宵月
14/73

14.訪問者

ガルロイ目線です。楽しんでいただけるとうれしいです。

 シャイルをリリアから引き離すことが成功したガルロイは、彼を連れて自分にあてがわれた部屋へ戻って来ていた。

 王都は目の前だ。

 ここまで来て、王女を宰相閣下のもとへ連れて行くことを、誰にも邪魔されるわけにはいかなかった。


「さあ、入ってくれ」


 扉を開き、ガルロイはシャイルに先に入るよう促す。シャイルは素直に部屋の中へ足を踏み入れた。

 だが、数歩入ったところで足を止めると、静かに室内を見回しはじめた。


「そこの椅子にでも座ってくれ」

「いえ、結構です。このままで」


 椅子に座るよう勧めたのだが、シャイルは座ることを拒否し、後から入って来たガルロイに向き合うように振り返った。両手を力なく下ろし、ただ突っ立っているように見える。

 だが、実はどこにも隙が見当たらなかった。ガルロイの出方によっては防御でも攻撃でもすぐに対応してくると思われた。


「とりあえず、あなたのお話を伺いましょうか?」


 シャイルのほうから話を促してきた。話を早く終わらせて、部屋に残してきた王女のもとへ戻りたいのだろう。


「単刀直入に言わせてもらうが、リリア殿をこのまま王都へ行かせてやってほしい。シャイル殿が王都へ行くことを反対していると聞いている。もし、共に王都へ行くことができないのであれば、我々に彼女の身を預けてはくれないだろうか? 私の命に代えて、必ず彼女を守ると約束する」

「………あなたが、命を懸けるほどリリアに肩入れする理由は何です?」

「理由? ………それは、彼女自身が王都へ行きたがっている。性別を偽ってでも王都へ行こうとする彼女の気持ちを大切にしたいからだ」


 今まで何の感情の変化も見せなかったシャイルの口の端が僅かに上がった。その冷ややかな笑みにガルロイは思わず息を飲む。


「もう少しまともな話ができるのかと思っていましたが、とても残念です。さあ、そこをどいてください」


 話は済んだとばかりに、シャイルはガルロイの横をすり抜け、扉を開けた。部屋を強引に出て行こうとするシャイルの腕をガルロイは慌て掴む。


「待て! 事は君達だけの話ではないんだぞ!」


 振り向きざまシャイルはガルロイの手を振り払い、燃えるような眼差しを向けてきた。


「今なら、あなた方が私達のことを忘れればいいだけだ!」


 はじめてシャイルが感情を露わにした。燃えるような赤銅色の髪に反し、冬の湖を彷彿とさせる彼の青灰色の瞳の奥に苛立ちが見える。


「君は、ウォルター・バーラントを知っているんだな?」

「…………もう、この世にはおられない方だ」


 ガルロイが静かに問うと、感情を抑えようとしているのか低い声でシャイルが答えた。

 やはり、シャイルはリリアの出生の秘密を知っていた。知ったうえで、たった一人で彼女を守ろうとしている。

 そして、彼はそのことをガルロイに隠すつもりはないらしい。


「ウォルター・バーラント殿は亡くなっておられたのか…………」


 ガルロイは思わず呟いていた。 

 ウォルター・バーラントは幼い王女と共に姿を消した王の主治医だった男の名だ。もともとは医師の家系に生まれ、医学を学びながらなぜか軍人になった変わった経歴の持ち主だった。若い頃は騎兵隊隊長として前線を指揮していたこともあったという強者だ。アルフレッドが王位に就くと、軍医として幾多の戦場に王と共に赴いていた。その後、戦が無い平和な時が訪れるとウォルターは国王の強い希望で主治医として王城に残っていたので、近衛兵だったガルロイには、とても身近な人物だったのだ。もともと博識で、器の大きな男だった。


(あの方が王女を匿っていたのだ。どれほど探しても見つからないはずだ)


 さすがだと、ガルロイは思う。

 そして、ウォルター亡き後、今目の前に立つこの若者がその意思を継いでいる。


「…………あなたも、あの子の追手だったわけですね。本当に残念です。あなたは、どこか先生に雰囲気が似ていた。私としては剣を向けるようなことは避けたかったのですがね」


 さも残念そうな表情を浮かべながら、シャイルはすっと長剣を抜いた。


(! まさか、この男はこの館の人間を口封じのためにすべて殺すつもりなのか?)


 ガルロイの身に戦慄が走った。


「ああ、こちらにおいででしたか」


 突然、背後から声を掛けられたガルロイは、反射的に剣を握っているシャイルを自分の体で隠す。廊下の奥からエルバハルが二人の護衛を従えてやって来る。


「…………何か、ご用でしたか?」


 動揺を悟られないよう気を付けながら、ガルロイはエルバハルに向き合う。

 だが、すべての神経は彼の背後に集中していた。自分に対して剣を抜いた男に背を向けるという最も愚かな行為を犯してしまったが、もしもの時は自分の身体を盾するつもりだった。何をしてでも、関係の無い人々を巻き込むわけにはいかない。


カチャリ。


 背後で剣を鞘に戻す小さな音が聞こえ、ガルロイは心の中でほっと息をつく。


「あなた方に、是非ともお会いしたいとおっしゃっておられるお方がおられるのですが、…………他の方達はご一緒ではないのですか?」

「ここにいるのは、私達二人だけです」

「そうでしたか。では、他の方々を探してまいりますので、先にあなた方お二人でお会いしていただけますか?」


 エルバハルは穏やかな笑みを浮かべているが、いつのまにか護衛の男達がガルロイ達の背後に回っている。どうやら拒否権はこちらにはないらしい。

 だが、何よりも自分達に会いたいという者に興味が湧いた。シャイルに目を向ければ、どうやら彼も同じ考えらしく、小さく頷く。


「少しの間でしたら、かまいませんよ」

「お会いして頂くだけですので、それほどお時間はお取り致しません。さあ、どうぞこちらへ」


 エルバハルは護衛の男一人にクロウ達を探しに行かせると、二人を案内するため彼らの前を歩き始めた。そして、何度か角を曲がると突然足を止めた。


「さあ、どうぞ。あの部屋でございます」


 彼が掌を向けた先、重厚な扉の前には四人の男が外套を着たまま立っていた。どの男も帯剣しているようだが、エルバハルの護衛達とは雰囲気が違っている。洗練された立ち姿はまるで城の衛兵のようだ。


(衛兵?)


 ガルロイは警戒しながらも足を止めず、部屋へ近付いて行く。


「お待ちください。こちらであなた方の剣をお預かりいたします」


 扉の前で男達はガルロイとシャイルを止め、持っていた剣を渡すよう要求してきた。ここへ来て、さらにこの扉の向こうにいる人物に増々興味が湧く。


「俺は、かまわんよ」


 ガルロイは皮肉な笑みをシャイルに向ければ、彼は一瞬むっとした表情を見せたが、すぐに涼しい顔に戻り自分の剣を鞘ごと男に突き出す。


「私も、何の問題もありません」


(シャイルというこの若者は、見た目にそぐわずかなり負けん気が強いらしい。もっとも自分の腕に自信があるのだろうが………)


 ガルロイがそんなことを考えていると、目の前の扉が開かれた。ガルロイはゆっくりと中へ入っていく。シャイルも黙ってついてくる。二人が部屋に入ると背後で扉が静かに閉められる気配がした。鍵をかける音がなかったことに、ガルロイは内心安堵する。

 談話室と思しき部屋の中には、すでに二人の男が待っていた。驚いたことに一人はガルロイが良く知る人物、この国の宰相のラファル・ディセントだった。彼は立った状態で眉間に皺を寄せ、不機嫌さを隠しもせずこちらを見ていた。

 だが、もう一人は背を向けたまま明々と燃える暖炉の前に立っている。どちらも到着したしたばかりなのか、濡れた外套を着たままだ。


「ラファル宰相閣下………」


 思わず宰相の名前を呟いていたが、ガルロイの頭の中は真っ白になっていた。


「ガルロイ。なぜすぐに報告をしなかった?」


 ラファルの声には明らかな苛立ちがまじっている。


「そう怒るな、ラファル。彼らは王都へ向かっていたのだ。私が待てずに会いに来てしまっただけなのだから」


 強い口調で問いただす宰相を窘めながら、暖炉の前に立っていた男がフードを外した。露わになった銀色の髪が暖炉の炎に照らされ黄金のような輝きを放つ。目を大きく見開いて立ちすくむガルロイにゆっくりと鮮やかな青い瞳が向けられた。


「…………国王陛下」

「ガルロイ。久しいな」


 シュティル・フォン・アーレンベルグ。

 現在、ベルンシュタイン国民が王と崇める男が笑みを浮かべガルロイを見つめていた。


お陰様で14話まで続けてこれました。いつも読んでくださり、ありがとうございます。実は「訪問者」を先に書いていたのですが、「雨の夜」を先にアップする事にしたんです。パズルのように思い浮かぶ場面を並べるのは意外と難しいです。

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