右目に咲いた花
私には花が視える。
それはもう美しく咲く花が視える。
そこらの花壇や道端に咲いている花のことではない。人に寄生するように咲く花が視えるのだ。
他人には見えないと気づいたのは4歳になった頃のことだったと思う。その日は母の実家に預けられていた。
久しぶりに会う祖母に私は嬉しくて一緒に出掛けた先で道行く人を見てはあの人には赤い花が、向こうの人には黄色い花が咲いていると言った。12月に花など咲いていないというのに、祖母は母のように変な顔をしたりはしなかった。
家に帰ると祖母は私の手をそっと握って言った。
「いいかい、花が見えることは誰にも言ってはいけないよ。」
「おばあちゃんとの約束だよ」と2人で指切りげんまんをした。
それ以来、母にも親しい友人にも祖母にも花の話はしなかった。言わない代わりのように絵を描くようになった。写真にも取れない、その存在を言葉に出すこともできない私だけが知っている花たちを形に残そうと。
そんな私の姿を見ても祖母は何も言わずただ笑って見守ってくれていた。
私が小学校4年生の夏。大好きだった祖母が天国へ旅立った。祖母に纏わり咲き誇っていた花はすでに枯れ果てていた。
祖母を亡くした私はポカリと胸に大きなが穴が開いた気分だった。そんな私の気持ちなど両親は知らず、祖母の遺品整理をあっという間に終わらせてしまった。
私の手元に残ったのは祖母の大切にしていた結婚指輪だけだった。
私には花が視える。
人に寄生するかのように咲く花が視える。
祖母も知らないこと。それは私に寄生した花は右目からしか咲かないということ。
そしてこの右目の花は他者の花の命を糧に咲くということ。




