第93話
「無事の突破、おめでとうございます。少し遅れましたがお祝いです」
朝の練習でクラウディアが2人に祝いを述べる。
『ツクヨミ』との戦いが無事に終わったことを祝してくれているのだ。
彼女たちも健輔たちに敗戦後、調子を崩すことなく、むしろ以前よりも快調な様子で敵を粉砕し試合を突破していた。
「そっちも順調みたいで何より、リーダーも2つ名がついたんだろう?」
「ええ、香奈子さんは『破壊の黒王』がお気に入りみたいですけど、私は『終焉の魔王』も似合ってると思うんですけどね」
どっちも女性に付けるようなものではない物騒な名前だが『終わりなき凶星』も似たようなものなので黙っておくことにした。
無理に藪を突いて蛇を出す必要はないだろう。
「それにしてもあれか……。こう、やっぱり系統で2つ名って似るんだな」
「と言われると?」
クラウディアと隣では優香も首を傾げていた。
ところどころ、妙に仕草が一致する2人である。
数多の失敗で学習した男はつい、ツっこみを入れそうになる口を完璧に制御して何事もないかのように話を進める。
俺は一体、何と戦っているんだ、と内心で自分にはツっこみを入れておく。
「ハンナさんの『女帝』にしろ砲撃系の2つ名持ちって……・怖くないか? 物騒な2つ名多すぎると思うんだけど」
「それは……」
「……確かにそうかもしれないですね」
健輔とてあの砲撃に曝されたことは微妙にトラウマになっている。
そのため、名付けた者たちの気持ちもよくわかった。
誰だってもの凄い光線に飲み込まれる感触は味わいたくない。
少なくとも健輔はもういやだった。
傍から見ていてもドン引きする光景なのだから、実際にくらった方は笑い事ではないのだ。
「あの砲撃、マジで怖いんだよな……。試合はそこまで気にならんのだけど、後で映像見た時とかよく自分は平気だったと思うわ」
「わかります……。香奈子さん怖いんですよね」
「ま、真由美さんもです」
健輔たちの肝が太くなるのも当然だったのかもしれない。
身近に1番怖いものがあるのだから、それ以外に耐性が付くのも自然な話だった。
思わぬところでお互いのチームの共通点を見つけた3人は心なしか互いの距離が近くなったように感じた。
朝の日課の一幕、試合の中でも変わらない日常の一欠けらである。
「試合も半分ほど終わったけど健輔としては道は見つかったの?」
放課後、部室で葵に唐突に問いかけられた一言だった。
一体何のことだかわからない健輔は首を傾げる。
「道って、何のことですか?」
「えーと、あれよ、あれ。うーん、そうそう必殺技!」
必殺技と言われて健輔もようやく何のことだかわかった。
真由美から申しつけられた課題、その最大難関たるものだ。
「いくつか候補はありますよ。物になるかはわからないですけど」
「そんなの当たり前じゃない。いくつかあるんだったら教えてよ。こういうのは楽しいから大好きよ。ね?」
「ちょ、乗り出さないでください。顔近いです」
快活な印象は変わらず少し髪が伸びた葵は大人っぽい雰囲気で健輔に続きを強請る。
話すこと自体は構わないが近すぎる距離が健輔にはつらかった。
楽しそうに顔を寄せられると普段はドン引きしかない葵でもドキドキするものだ。
容姿そのものは美人なのだから男性的に困るのである。
「ちょっとー。早く教えなさいよ」
「教えますから! 普通に座ってくださいよ!」
「よし! 言質、取ったわよ!」
「真横で後輩が先輩にかつあげされる瞬間を見てしまったわね」
雑誌を読んでいた真希も2人のやり取りに絡んでくる。
このままおもちゃになるのは不味いと健輔は無理にでも話を進めることにした。
「えーと、1個目はあれですね。ちょっと、流動系を使おうかなって。正確にはバックス系のやつでいくつか考えてます」
万能系の特色はなんでも使えることなのだ。
それを突き詰めた形で1つ考えていた。
「へー、健輔いろいろやってるんだねー。ん? ははん、みさきちと何か話してるのはそれかな?」
「それも、が正しいですね」
「おー勤勉だね。というか、そんだけ勤勉なのにどうして補習受けたのよ?」
「……好きこそ、物の上手なれって言いますよね!」
「あ、うん。……そういうところは葵に似なくていいのにね」
「聞こえてるわよ、真希」
美咲には試合以外の部分でかなり世話になっていた。
小テストなども彼女の協力がなければ乗り越えれないものがいくつもあっただろう。
術式の改良、チェックだけでなく必殺技についてもかなりの力を借りている。
そこまで思い返し、今度昼食でも奢ろうと心にメモしておく。
このまま何も返さないのはまずいだろう。
「それで? それが1つ目でしょう。他には?」
「……はあ。葵さんはいいですね……。悩みなさそうで」
「そうよねー、良い空気吸って生きてると私も思うわ」
「ちょっと、私のことはいいから早く次について教えなさいよ!」
「はいはい、もう1つはシルエットモードを強化する感じですかね」
こちらも既存の延長線上にある考えだ。
必殺技に成り得るかはわからないが強化にはなる。
完璧なコピーなど不可能だが、もう少し真に迫るものぐらいは生み出したい。
必殺技たり得るかは未知数だがこのまま今の強さで戦い続けるよりかはマシな考えだろう。
「いろいろ考えてるじゃない。他にもあるの?」
「考えだけならありますよ。ただ、こっちはまだ何も進めてないから妄想の類と大差ないですね」
「それも教えて欲しいなーって言ったらどうする?」
「さ、流石に脳内ノートの開陳はしたくないんですけど。まあ、実行しそうなやつを1個くらいで勘弁して下さい」
「あら、あるじゃない」
何がそんなに嬉しいのかはわからないが葵の琴線に触れたらしい。
勿体ぶる程の考えでもないが、誰もが夢想する類の思いを健輔も吐露する。
「固有能力ですよ。『天空の焔』の香奈子さんじゃないですけど。強固なイメージはプラスに働くみたいですから」
「――そっか、なるほど、理想の自分を思い描くってやつね? 何だ健輔、結構頭使ってるのよね」
「俺にどんなイメージ抱いてるんですか。ま、これは成功率低そうなんで」
「悪くはないと思うわよ? 私もこうだったらいいのにって思ったら発現したもの」
固有能力の発現条件は不明だが、ある程度の共通点はある。
香奈子はあまりにも例外すぎるために除外した場合、高い錬度と強いイメージが必要になる可能性が高かった。
葵ならば小細工が必要ない力を、で自身の平均を最高点に持ってくることで通常攻撃を必殺攻撃にしてしまっている。
真由美も理想の後衛のイメージが今の自分なのだろう。
ハンナも同じようなものだが、求める地点が微妙にズレていたのが2人の違いだ。
実際のところ、強く思うだけならもっと多くの人間が覚醒するはずなので他にも条件があるのは明らかだ。
健輔も覚醒するとは思っていないが理想の自分ぐらいは考えておいても問題ないだろう。
「健輔の理想って何なの? 私も興味あるな」
「真希、私の質問取らないでよ」
「簡単ですよ。系統を皆さんと同じ習熟で使いたい、ですかね」
「……そっか。いいんじゃないかな。健輔らしいよ」
香奈子のように一気に強くなる類の能力はいらなかった。
天凛に頼るなどあまり自分らしい感じがしないからだ。
そのため、前提条件だけ揃えてくれたら後は自分でなんとかするつもりだった。
「いいじゃない、いいじゃない! よし、れんしゅ――」
「練習はダメだよ?」
テンションが上がって立ち上がった葵を真由美が制する。
部室内には当然他のメンバーもいて、何かをしている。
真由美も早奈恵と何かを話していたようだが、こちらの会話も耳にしていたのだろう。
ニッコリと葵に釘を刺す。
「もうすぐ、連戦だから身体は休めてって言ったよね?」
「……はーい」
頬を膨らませてムスッとした様子で椅子に座り直す。
健輔としても今年で達成できるものだとは思っていない。
協力しようと思ってくれた先輩に感謝の意だけは示しておく。
「葵さん、ありがとうございます」
「……あー、早く、勝ちを決めて健輔を鍛えたいなー」
「そうなるように2戦きっかり勝とうね? 『魔導戦隊』は葵の苦手な物理型でしょう?」
「そんなの対策してるわよ。大物殺しも研究したんだからっ」
かなり色っぽい容貌をしているのにそれを微塵も感じさせないのは葵の人徳だろうか。
真希も子どもっぽい親友に苦笑している。
2年生の中心はなんだかんで葵なのだ。
今度の『魔導戦隊』との戦いでも中心に立つらしい。
言い合いを始めた先輩たちをどのように諌めるか、そんな風に頭の一角で考えながら自分の強さについて改めて見詰め直す健輔だった。
白を基調としたユニフォームの映える空の色。
水色に染まった幻想的な髪が彼女の動きに合わせて軌跡を描く。
運動のために纏められた豊かで美しい髪は彼女を彩る輝きの1つだ。
サイドステップ、バク転、宙返り、アクロバットな動きも交えてかれこそ1時間、彼女は只管に演武を続けていた。
無心で続けられる型のないダンス、誰に見られることもない幻想的な踊り子は1人静かに剣を持つ。
「雪風、計測時間は?」
『今でちょうど1時間です。身体の方は大丈夫ですか?』
「問題ないです。じゃあ、このままお願いします」
『了解しました。術式展開を開始して負荷を上げます。次は30分です』
『明星のかけら』との戦いで覚醒してから彼女は『オーバーリミット』のさらなる可能性を追求していた。
寮でも可能な限りセカンドフェーズで生活を行い、身体を慣らしていた。
また、健輔に倣い試合中での切り替えにも挑戦している。
余計な雑念を持ちこんで立夏に対して曝した無様な自分を彼女は恥じている。
あのような事を2度起こさないように肉体的にも精神的にも修練を怠ってはいない。
番外能力を掌握したことで優香にやれることは爆発的に増えていた。
それらの追及も平行して行っており、穏やかな様子からは考えられないほど活発に活動している。
今、最優先で進めているのは新しい戦闘スタイルを体に慣らすことだった。
元々、魔導機1本での戦闘を基軸にしていた優香だが『オーバーリミット』発動時には魔導機を割り、双剣で戦っている。
動きが変わるため双剣だと錬度が落ちるのだ。
それを補うため練習を重ねてきていた。
基本的な動きはもう問題ない領域まで来ている。
「『魔導戦隊』、そして『アマテラス』」
ついに姉と当たる時が近づいている。
彼女自身わかっていない感情の行きどころ、嫉妬なのか、それとも憧れなのか。
どちらでもあり、どちらも違うのか。
妹としてでなく、敵として当たる時にわかると思って努力を重ねてきた。
でも、今はそれだけではない。
「負けたら、きっと悔しい」
美咲が泣いていた時のことを覚えている。
たかが1試合、1戦であってもきっとチームは暗くなる。
それが優香にはいやだった。
自分にそれほど大したことができるとは思っていないが全霊を賭す理由には十分だった。
自分だけではなくチームのための理由もあるのだから、もう優香も引けない。
1人だけなら負けても納得はできたかもしれないが背負っているものがあるのだ。
そして――
「もうすぐ、か」
――同じように先を憂いている女性がいた。
優香によく似た容姿が彼女が誰なのか教えてくれる。
学園で言われてる程、彼女も自分を完璧だとは思っていない。
そうあろうと、努力はしているがそれを察している人物は多くなかった。
1の努力で10を得る、天才と言われればそれは間違いのないことだった。
「あの子はどれだけ強くなったのかな」
だからこそ、彼女はその名に相応しい様にさらなる努力を重ねる。
――それが結果として、更に周囲と差を作ることになるとわかっていても。
頂点はいつも1つ、よくわかっているからこそ彼女は魔導師としては一切の手加減をしない。
妹に直接会いに行かないのも努力を見てしまうと手を緩めてしまう可能性があったからだ。
1つ下の妹、いつもどこでも一緒だったのだ。
優香が能力暴走をした際には卒倒するかと思ったし、亜希から話を聞いて魔導に傾注しすぎていると聞いた時には注意しにいこうかと悩んだこともあった。
全て押さえて待っていた甲斐はあった。
良い友人も出来たようで姉としても安心している。
だからこそ、その全てを受け止めるために学園最強の魔導師は待っている。
「私だけに負けるなら、どのみち世界なんて行かない方が良い」
仮に桜香と戦い折れるような心ならここで折れた方が本人のためである。
努力こそが最重要。
魔導のその言葉を信じれなくなったのなら魔導なんてやらない方が良いのだ。
戦いが学びの基礎にあるようなものは優しい優香には向いていなかった。
そう言う事なのだから。
「楽しみね、本当に」
どんな結果になるかはわからない。
だからこそ、楽しい。
魔導師の多くが備えている好戦的な気質を僅かに表し桜香は微笑む。
尊敬する先輩と妹、そしてその友人たち。
相手にとって不足なし、と言うべきだった。
「桜香ー、そろそろよー」
「ええ、ありがとう亜希」
そのためにもまずは目の前に相手に勝利しないといけない。
3貴子が1つスサノオとの試合に彼女は望む。
試合結果は大方予想通り、『アマテラス』の勝利に終わる。
いつも通り、戦い、いつも通りに勝利した。
死角なし、試合を見る全てのものに彼女はそれを印象づける。
『不滅の太陽』は沈まない。
いつか、敗れるその時まで――




