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総合魔導学習指導要領マギノ・ゲーム  作者: 天川守
第3章 秋 ~戦いの季節~
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第92話

 そのチームは天祥学園全体に知られている程不思議なチームであり、ある意味で魔導を象徴しているチームだった。

 『ツクヨミ』と同じく自分たちが楽しむことに全力を費やす彼らを『魔導戦隊(マギノ・レンジャー)』という。


「全員、揃ってるな。今日はミーティングだから、普通にいこうと思う。みんなも楽にしてくれ」


 チーム全員ロールプレイ。

 魔導を使って試合に臨む際の彼らはそれを信条にしている。

 彼らはヒーローになりたくてここにやってきたのだ。

 魔導ならば、本物のヒーローのような力が手に入ると信じて。

 結果は期待通りの物だったと言えるし、期待はずれだった部分もある。

 多くの学生と同じように洗礼を受けて尚をそれを求めた。

 そして乗り越えたの精鋭たちが彼らだった。

 試合での非効率的な戦いもそういう事がしたくてここに来たからしない。

 ただそれだけのある意味で『ツクヨミ』以上にシンプルに生きているチームだった。


「もうすぐある試合で俺たちは『クォークオブフェイト』と戦う。様々な意味でここは分水嶺になるだろう」

「わかってると思うけど、私たちは実力を示す必要があります。勝が入るまでずっと笑われてましたからね」


 実力がないと彼らは真剣にやっていると信じて貰えない。

 無論、彼らも行き過ぎな分はあると思っているのだが、ロールプレイに慣れ過ぎるとついハメを外してしまうのだ。

 成功も失敗も苦い経験もあるが、彼らは強くなった。

 設立6年、去年現リーダーの星野(ほしの)(まさる)が世界大会にまでチームを導いたことでようやく名と実が釣り合うようになったのだ。

 今年も世界を狙っていく。

 だからこそ、今回の戦いは負けられなかった。

 切実な理由があるのだ。

 原因は『天空の焔』である。


「俺たちはここで負けると1敗となる。たかが1敗と甘く見るなよ? 出場枠は3チームだ。この中で1枠は『アマテラス』になる可能性が高い」


 アマテラスを止めれる可能性があるチームは全部で8チーム。

 しかし、その内で既に結果が出ているチームもある。

 また今年の桜香の仕上がりから見て更にいくつかのチームが脱落する。

 となると、大体最低ラインの勝敗が見えてくる。

 確実に決定戦へ残るならば1敗、おそらく2敗あたりがラインになるだろう。

 つまりはアマテラスに1敗しても、もう1敗までならなんとかなるという計算だ。

 大会前の予想では決定戦まで残れる計算になっていた。

 それを崩してしまったのが『天空の焔』の存在だったのだ。


「勝敗予想は既に聞いていると思う。俺たちが『天空の焔』に勝てる可能性は0%。……不甲斐ない先輩で申し訳ないが俺たちの特性から言って、赤木香奈子には勝てない」

「破壊系の遠距離型。そんな化け物は流石に想定してなかったもの。仕方ないわよ」

「それでも俺の甘さも原因だ。……相性で言えば『クォークオブフェイト』もよくないんだ」


 香奈子の存在が彼らの計算を狂わしているのだ。

 『魔導戦隊』の切り札は遠距離大火力型との相性があまりよくない。

 『ツクヨミ』との戦いも厳しい方だが、何に増しても香奈子と真由美が問題だった。

 普通の火力型には秘策があるため、なんとかなる。

 真由美には対抗策があるが、香奈子はダメだった。


「みんなの力を貸してくれ」

「決戦のルールは向こうに通達してもらったわ。相手は陣地戦を快諾してくれました。だからこちらは15名の全てを戦闘要員で固めて、初めから切り札で押し切ります」

「俺と龍輝が入る分の離脱は……、1年から申し訳がない出してくれ」

「任せて下さい! チームのためですから!」


 各学年ごとに試合を回していたのは経験を積むためだ。

 来年を再来年を見越したローテーションが彼らを育て上げた。

 だが、強豪チームにはそうも言っていられない。

 バックスも切り捨て、彼らは短期決戦を挑む。


「勝とう!」

『はい!』




「星野さん」


 『魔導戦隊』のリーダー星野勝に声を掛ける人間が1人。

 春や夏には自信満々で微妙に反感を買っていた人物――正秀院(せいしゅういん)(たつ)(よし)だった。

 『魔導戦隊』にはユニークなチーム内ルールが多い。

 それはベーシック、基本ルールに多い。

 交代を禁止して出場するチームを学年ごとに固定する、学年ごとの争いを奨励してチーム内の実力を高めるなど他にもいろいろある。

 普通なら空中分解しそうなチームだが幸いにも同好の士による強固な連帯感はそれを防いできていた。


「龍輝か。何か質問でもあるのか?」

「……こ、今回の試合で1つお願いしたいことがあるんです」


 緊張した様子を見せながら龍輝は口を開く。

 夏に尊大な口調で揉め事を起こしてからは大分、良い方向に転がった。

 1年生たちも団結力が上がり、見違えるように成長している。

 彼は後輩の必死な様子に話だけは聞く事を決めた。


「言ってみろ」

「つ、次の試合である人物に俺をぶつけて欲しいんです」

「……それはこちらの方針と一致していないぞ。認め――」

「違います! そ、その戦う時のコントロールを貰いたいんです。1年側の」

「……ふむ。同意は?」

「取れてます! 直接、戦えない理由はわかってます。だから、せめて……俺の手で」

「いいだろう。何だ、お前にも熱いものがあるんじゃないか」


 戦いたい相手がいる。

 その思いは勝にも覚えがあった。

 九条桜香、近藤真由美。

 彼も世界ランクに乗っている魔導師だ、彼女らに勝ちたいと常に思っている。


「あ、ありがとうございます!」

「構わないさ。――勝とうな!」

「はい!」

 

 『魔導戦隊』の切り札。

 それにより健輔は些か想像と違う形でもう1人の万能系と戦うことになる。

 星野勝、彼は魔導師としての力量は十分なものがあるが特質した存在ではなかった。

 そんな彼を世界で7番目の魔導師だと称されることになったのは固有能力に大きく依存している。

 陣地戦に置いて最大の猛威を発揮するその能力に全てを賭けに来ていた。






「短期決戦だね。今までのチームみたいに長くなることはないかも」


 『魔導戦隊』対策ミーティングの第1声はそんな内容だった。

 普段よりも早いタイミングでの会議は『魔導戦隊』と『アマテラス』の連戦が原因だ。

 間にある2戦もきっちりと詰めているがそれよりも今大会最大の山場をどう乗り切るのかを考える方が大事だった。

 

「短期決戦、ですか? なんでそんなことがわかるんです?」

「うーん、相手の固有能力というか。まあ、戦い方から考えるとそういう答えがでるんだよねー」

 

 真由美は僅かに疲れを見せた表情で健輔たちに返す。

 不屈のリーダーも大会半ばに来た連戦には疲労感を隠せない。

 学業を修めながらチームを先導する苦労は健輔にはわからない領域の話である。


「『魔導戦隊』リーダー星野勝。彼の固有能力は極めて強力だ」

「魔導師としての系統は浸透・創造系。圭吾くんと似た感じだけど。こっちは生粋のゴーレムマスターだよ」

 

 圭吾も似たような系統を構成をしているが本質は糸を操る結界を生み出す能力だ。

 あまり多くはないバトルスタイルであり、本家程の汎用性などはない。

 星野側のゴーレム操作は物理型のもっともメジャーな戦い方だろう。

 健輔たちも夏合宿でラッセル姉妹には苦労させられた。


「『魔導戦隊』は前に話したように特撮ヒーローをリスペクトしてるからさ。戦い方とかも大体そんな感じなんだよね」

「つまり切り札も似たようなものとなる」


 特撮の中でも戦隊ヒーローに焦点を当てている。

 これは人数の関係もあってそうなったらしいが、戦闘においても意味を持っている。

 一言で言う彼らは合体する。

 最低5人で超巨大ゴーレムを作るのだ。


「最後は大きなロボット出てくるんでしょ? 大体あれをイメージしてくれたらいいよ」


 単純な質量だけでもかなりの脅威である。

 夏に出会ったラッセル姉妹のように各々の役割を綺麗に分担することで通常以上の効果を得ている。

 防御の面も自分たちをゴーレムに組み込むことで解決している。

 5人で1つの作業を成し遂げるという連携においては他者の追随を許さないチームだった。

 星野の固有能力がなくとも、上位チームクラスの能力は十分に持っている。

 『ツクヨミ』がチーム全体の役割を固定することで特化した集団なら、『魔導戦隊』は個別の役割を特化することで全体的に調和した集団だった。


「物理型っていうのは特別強いわけでもないけど、逆に弱いわけでもないからね。1番安定している戦い方かな。それを突き詰めたチームだよ」

「普通に戦っても強いが、こちらは対人戦闘で強いのが多いからな。おそらく組み合うことはないだろう。相手の固有能力は扱いも難しい」

「私たちは相性が良いよ。正確には私との相性が抜群なんだけど」


 物理型、ゴーレム創造などの質量系をメインとする魔導師の最大の弱点は火力である。

 火力が不足するという意味でもあるが、防御が最大のネックになる。

 ベテランレベルまでなら防御側が攻撃側に優越しているのだが、一定レベル超えると攻撃側が激しいインフレを起こしてしまい逆転してしまう。


「星野勝の固有能力は物理型の問題点をある程度緩和させることが出来る優れたものだ。しかし、根本的な問題への対応は流石に難しかったみたいでな」

「固有能力を使いこなすって意味でも『魔導戦隊』全体とのシナジーは良いんだけどねー」


 固有能力『スキル・ジョイント』。

 自身がチームと認識している相手と魔力を繋げることで繋いだ人数の能力を共有する能力。

 この能力とゴーレム親和性が抜群によかった。


「それって……」

「うん、全員分の系統を1人に纏めて譲渡するってイメージかな。この譲渡対象別に無機物でもいいんだよね」


 ゴーレムに付与することで魔力さえあれば全員分の系統錬度を併せ持つ超ゴーレムが誕生することになる。

 全長50メートルほどのゴーレムが多彩な魔導を使いこなす。

 強豪と数えられるのに相応しい能力だった。

 むしろ、この能力は基本的にゴーレムへ付与する形でないと使えないのだが。

 今回はそこを狙う意味合いは薄いため無視しても構わなかった。


「これって、ある程度分割もできるから……その、ね?」

「短期決戦ってそういう意味ですか……」


 普段は学年ごとに1体のゴーレムだが陣地戦ならばバックスを無視すれば3体はいける。

 しかも、その全てが超ゴーレムとして襲い掛かってくる。

 『魔導戦隊』と『クォークオブフェイト』はこのまま順調に進めば無敗でぶつかることになる。

 その際にルールは陣地戦の総戦力対決か、もしくはベーシックの基本対決かのどちらかになるのが確定している。

 両者の意見が一致しない場合は運営側が決定するのだが、今回は一致を見せている。


「真由美さんはなんでそれに受けて立つつもりになったんですか?」

「分の悪い賭けではないからかな。私と妃里で1体、あおちゃん、真希ちゃん、和哉君、剛志君で1体、最後に健ちゃん、優香ちゃん、圭吾君、お兄ちゃんで1体。ほら悪い計算じゃないでしょ?」

「真由美さん流石ですね……。1人で相手できるんですか」


 健輔は改めて自分のチームリーダーが出鱈目な存在であることを認識する。

 巨大ゴーレムが要塞ならば、近藤真由美も要塞だった。

 防御でゴーレム、攻撃で真由美に分がある。

 矛と盾、どちらが上のなのかを正面から決めようという訳だった。


「『アマテラス』はベーシックになると思うんだ。あそこは基本に忠実だからね。そこも込みで考えて総力戦で短期にケリを付けたいってこっちの思惑と、正面から押し切るって向こうの考えが噛み合った形になるよ」


 まさしく両者の思惑が完全に一致している。

 消耗は左程気にしなくて良いとはいえ、『魔導戦隊』との戦いで何かしらの齟齬があると『アマテラス』まで引き摺ってしまう可能性が高い。

 そう考えればわかりやすい全力のぶつかり合いは悪くないだろう。

 小細工の入らない真っ向勝負、臨むところだった。


「だから、細かい作戦はないよ。自分のベストを出し尽して。後で余力があった、なんて言い訳をしなくていいようにね」

『はい!』


 方針は決まった。

 後は敵の情報から細かい方針を決めるだけであった。

 



「さて、俺たちは1年側のゴーレムを相手取るわけだが」


 個別にわかれての作戦会議。

 隆志が進行役として、話を進める。


「今回は両チーム攻め気に溢れているからな。おそらく陣地の中間地点あたりで激突する。バックアップがないも同然な向こうはどちらで戦っても変わらんからな」

「では、こちらは待ち受けた方が良いのでは?」

「その場合はゴーレムで遠距離攻撃に徹されてしまうな。穴熊を決め込んだ相手に対する対応もきっちり用意してあるさ。真由美ならば撃ち合いもできるだろうがな」


 健輔たちの編成で遠距離攻撃ができるのは健輔だけだ。

 残りの3人が事実上遊兵となることは避けた方が無難だろう。


「美咲から見て相手のその、合体か? 妨害とか出来そうか?」

「うーん、断言はできないけど無理じゃないかな。相手の魔導に干渉するのってすごく難易度高いから。特に相手はそれが切り札なんでしょ? 多くの人に知られても実力を発揮出来る辺り妨害対策もきちんとありそう」


 莉理子クラスならば相手の術式に干渉し、強制的に合体を解除することも可能かもしれないが美咲では望むべくもない。

 合体と言っているが連携してゴーレム作業を分担しているだけなのだ、1度の発動を妨害した程度では意味がないだろう。

 真っ向から当たるしかないということを確認したところで今度はどのように戦うのかが問題になる。

 系統を統合するということは相手のゴーレムはあることをやってくるからだ。


「相手には万能系がいるからな。こちらもちょっと頭を使わないといけないだろう」

「万能系……健輔さんと同じ」


 1年生のゴーレムである分、錬度自体は他の学年よりも低いだろうが万能系の厄介さは誰よりも知っていた。

 健輔の生存性を付与されたゴーレムを想定すると果てし無くめんどくさい相手になる。

 

「圭吾、お前のやつで捕まえれそうか?」

「……難しいかな。流石に想定してないよ」

「優香は何か切り札とかは?」

「切り札はありますが、今回は役に立たないかと。耐久系は今でも苦手な相手ですから。申し訳ないです」

「いや、いいさ。隆志さんは、まあ」

「言うまでもないな。火力の不足は真由美に期待するしかあるまい」


 今回は右翼・左翼共に人を配置せずに相手の動きに合わせてこちらが動くことになる。

 先制攻撃は相手に与える形になってしまうため、きちんと対策しておかないと大変なことになる。


「困ったというか、俺が火力を補うとか珍しいことになるな」

「万能系対決もある。こちらはお前が軸だな。頼んだぞ、指揮官」


 隆志からの委任を受けて苦笑いを浮かべる。

 同時に興奮もしていた。

 『魔導戦隊』との戦いはド派手なものとなるだろう。

 飾りのすくない戦場で自分がどのように立ち回るか、それを考えると眠れなくなりそうな健輔だった。

 


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