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総合魔導学習指導要領マギノ・ゲーム  作者: 天川守
第3章 秋 ~戦いの季節~
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第91話

「は~い、今日は~大会も中盤に入ってきましたので~魔導師の能力値について~お浚いしたいと思います~」


 『ツクヨミ』との戦いを終えて、次の日。

 どんな激戦があろうと学校は普通にある。

 戦いという非日常に身を置いているように見えて彼らは学生であり、本分は学業なのだ。

 大会ですら結局のところ学業の一環に過ぎない。

 そう考えると健輔は勤勉な学生となるのだろう。

 1部の授業では睡眠時間だとばかりに無駄に上達した魔導を駆使して、居眠りを誤魔化していることを除けば、だが。


「魔導師の能力ランクは~1つの目安として使用されています~。バックス~と戦闘魔導師では評価項目が変わりますが~それは後回しで~戦闘系からいきますね~」


 里奈の声は穏やかで澄んでいる。

 優香の声も美声だが、里奈の声にはもう1つ効果がある。

 妙にリラックスするため、健輔のような学生は眠気と戦わないといけなかった。

 人気のある教師らしく大多数の生徒が里奈の授業は真面目に聞いている。

 聞いているのだが、それでも撃沈する生徒が出ている辺りに彼女の声の破壊力があるのだろう。

 寝ている生徒を見つけると少し哀しそうに見てから、優しく魔力波で覚醒させてもらうのも切なかった。


「評価内容は~原則A~Eの5段階で評価されます~。ただ~やはり基準値を大きく超えている人も~いるので~例外としてSランクというのもありますね~」


 黒板に綺麗な文字で書かれる授業内容。

 今日は戦闘講義の座学である。

 戦闘講義は体育と互換しているため、基本的には外での授業なのだが稀に座学もあった。

 普通の授業の座学なら爆睡一直線の健輔も戦闘講義関連は真面目に話を聞く。

 里奈がお浚いしようとしているのは戦闘能力の目安として用いられるものだ。

 この評価は健輔自身もよく知っている。

 自身の分もあるし、他のチームメイトもあるおまけに考察した他のチームのものもあった。

 魔導師の能力値、つまりはゲームで言うところのステータスが1番近いだろうか。

 人間の身体能力などを簡単に数値化できないため、実際のところは印象値以上のものではないが基準がないよりはわかりやすかった。


「戦闘項目はパワー・スピード・テクニック・ディフェンス・アビリティの5項目から魔導師の強さを算出します~。実際は~同じSランクでもピンからキリまでいますので~あくまでも目安ですけどね~」


 あまり厳密に評価しすぎるのも悪いという現代社会の風潮もあった。

 自分の能力を数値や何かで表現されて低い部分があって喜ぶやつはそうはいないだろう。

 健輔とて、評価が低くて悔しいことはあれ、嬉しいことはなかった。

 もしかしたら、例外的に嬉しがるやつもいるかもしれないがあくまでも少数派のはずである。


「それでは~各項目のランクごとの~基準値を説明していきますね~」


 既に知っていることでありながら真剣な表情で聞く優香を横目で見てみる。

 ノートには丁寧な板書があり、授業を聞いている姿勢は真っ直ぐ伸びて美しい。

 真面目なパートナーと己を比較して落ち込みそうになる。

 こういう部分で差が付くのだろうか、と今更なことを思うのだった。




 里奈の講義が終わり、4人は放課後を迎える。

 ミーティングがない日は4人で時間を潰すことが多く、今日もその例に漏れなかった。

 騒がしい店内で4人は軽食を摘まむ。

 話題は方々に散り統一性がなかった。

 しかし、性別の違う4人の共通話題として用いられ安いものはある程度決まっている。

 美咲が少し口元に笑みを作りからかい交じりに健輔に言い募る。


「健輔はもう少し真面目に授業を聞きた方がいいんじゃない? 大山先生お世話になってるのに」

「げっ……バレてた?」

「バレバレだったよ? 隣に座ってるのが1番真面目で綺麗な優香なんだから、相対的に目立つの」

「み、美咲……。そ、その恥ずかしいです」

「あ、ごめんね? つい本音が」

「ほ、本音……」


 顔を赤くして照れている優香を美咲がからかう。

 1学期に比べると2人の関係も印象も大分変わって来た。

 最初は美咲もチーム内では丁寧に話していたのが大分砕けている。

 優香との関係もさらに親密になっているようで姉妹のように仲が良い。

 これだけ並べれば問題どころかいい事ばかりなのだが、世の中そううまいことはできていない。

 遠慮がなくなった分、健輔への言葉のきつさもどんどんレベルアップしていた。

 自分は関係ないよ、オーラを出している薄情者の圭吾を如何にして巻き込むか考える。

 優香とのいちゃつきが終わって、そろそろこちらに矛が戻ってくるのがわかっていた。


「もう、優香って本当に可愛いわね」

「そんな、美咲の方が」

「ふふ、ありがとう。……で、健輔の方が懺悔は済んだの?」

「はて、何のことやら?」

「……はあ、優香のファンクラブに殺されても知らないわよ?」

「まだそんなんあるのか……」


 魔導師だけあって無駄に溢れるバイタリティだった。

 健輔でもここだけは叶わないと素直に認められる。


「美咲さん。健輔に言っても無駄だよ。言って直るんだったとっくに直ってるからね」

「それでも諦めたら0になるでしょ? こう言うのはちゃんと言ってあげないとダメなの」

「お前は俺の母親か……」

「そ、その授業は聞いた方が良いと私も思います」


 控えめな優香の賛同にドヤ顔を向けてくる美咲。

 可愛いがイラっと来るのも事実だった。


「今日のは知ってるから聞いてなかっただけだよ。頭に全部入ってる」

「……なんか、それはそれでこう、怖いというか。どっちにしろ授業は聞いた方が良いような」

「健輔は昔から興味のあることは簡単に覚えるからね。でも、流石だ。戦う時の目安になるからかい?」

「まあな。やっぱり、わかりやすくするためにたくさんの大人が考えたんだから、俺が自分で妄想するよりは精度がいい」


 ツクヨミ辺りは綺麗な分布になっていてわかりやすかった。

 大体妃里辺りまでの魔導師なら参考になる情報なのだ。

 その辺りの感覚を話すと優香は感心したように頷いた。


「健輔さんの勤勉さの表れですね。先日の試合も鮮やかでした」

「そ、そうか? ありがとう」

「ぷっ、勤勉ね。よかったじゃないか、健輔」

「うるさいな!」

 

 ストレートな褒め言葉に顔が赤くなる。

 圭吾の茶化しにさらに羞恥心を刺激されるが懸命に押し留める。


「仲が良い2人ね。ねえ、どうして妃里さんぐらいまでしか参考にしないの? それだけ正確なら2つ名持ちでも参考になると思うんだけど」


 健輔の恥ずかしがりようを見て、場の空気を美咲が引き戻してくれる。

 なんだかんだと面倒見の良い友人に感謝しながら、健輔は話題に乗った。

 残りの2人も興味深そうな視線を向けてきていた。

 

「まあ、具体例を出すとわかりやすいんだが。優香のやつを出してもいいか?」

「はい、大丈夫ですよ」


 端末を机の上に出して、登録しているデータを呼び出す。

 空中に投影されたデータには、


『九条優香――パワー:B、スピード:A、テクニック;B、ディフェンス;A、アビリティ:B』

 

 と示されていた。

 それを見た2人が感嘆の溜息を吐く。

 まさしく万能、隙がまったく存在しないステータスである。

 優秀という一言で片付くシンプルな強さの具現だった。


「さっきの授業でも言ってたけど、あくまでも目安だからな」

「でも、優香凄いわね。こんなに優秀なんだ」

「お、恐れながら。過分な評価だとは思うんですが……」

「いや、すごいよ。ちなみに僕はこれね」


『高島圭吾――パワー:C、スピード:C、テクニック;B、ディフェンス;B、アビリティ:なし』

 1年生相応の珍しい部分のない能力値である。

 Bが2つあるところに圭吾の努力の跡が窺えた。


「うん、普通だな。Bがあるだけお前さん、優秀だわ」

「ありがとう。健輔は? 真由美さんとかはみんなで見たけど『参考だから、これは気にしないでね』って言われたからあまり気にしてなかったんだ」

「それは真由美さんの言う通りだからな。数値に気を取られたら意味ないんだよ。何より、俺程この評価が意味ないやつは珍しいぞ?」


 健輔は前置きしながら自身のデータを見せる。

『佐藤健輔――パワー:E~B、スピード:E~B、テクニック;E~B、ディフェンス;E~B、アビリティ:なし』

 特徴など欠片も存在しない能力値がそこにはあった。



「面白くない……」

「うわっ、普通」

「そ、そのいろいろできると思いますよ?」

「ああ、うん。そんな反応になるってわかってたから」


 状況に合わせて可変する健輔はこのように表記するしかなかったとこっそり里奈に謝られたのもいい思い出である。

 このA~Bは各項目で細かい内容の規定がある。

 パワーはそのまま火力であり、基本的に障壁に対するダメージで算出される。

 Bランクで確定で1枚破壊できるレベルとなる。

 スピードは速度もそうだが、空中格闘能力、その辺りを評価される。

 絨毯砲撃を避けれる優香のようなクラスでAランク。

 機動格闘戦が行えるものでBランクといった評価になっていた。

 テクニックはそのまま技量を表すが独自の戦闘スタイルなどを持っていることも評価に入る。

 そのため、教科書通りの動きなどを行えるレベルでCランクとなる。

 ディフェンスは障壁の強度、展開数などで考えられる。

 Aランクで5枚展開可能、Bランクの攻撃に耐えられると言ったところだった。


「で、見て何かわからないか?」

「え?」

「早い話、同じBでも微妙に差があったりするんだよ。だから、あくまでも目安」


 例えば、真由美はパワー:S、スピード:C、テクニック;S、ディフェンス;A、アビリティ:Aとなる。

 ここで真由美のディフェンスと優香が同値だが同じ強度なのか、ということが問題になる。

 他にもSランクは既存の評価外を一纏めにしているため、まったく参考にならない。

 2つ名持ちだと最上位はSだらけになるので参考にならないのだ。

 妃里クラスまでならまだ目安には使える、という健輔の感想はこの辺りが理由だった。

 熟達、つまりはベテランクラスまでならうまく図れるようになっているのだ。

 あくまでも成績評価の一環としての能力値測定であり、戦闘などの参考に用いるのはあくまでも小技のようなものだと考えれば納得できる。

 

「よくできたデータなんだけど、こう、な?」

「ゲームみたいにはいかないってことだね」


 しかし、数値化する試みだけは悪くないだろう。

 実際、その選手を特徴を客観的にかつ分かりやすく捉えるのに役に立っている。

 健輔も相手を分析する際にはお世話になっていた。


「健輔はこれの研究とかも熱心にやってるしね」

「準備しておかないと俺は即死なんだよ。真由美さんから貰った去年のデータとか一生懸命見て研究してんだぞ」

「健輔さんの予想はかなり的を射ていますから私もお世話になっています」

「チーム内のも実際のやつとかなり近かったんでしょう? その情熱を勉強にも少し向けたらすごいことになると思うんだけどなー」


 美咲の言葉は嬉しかったが柄ではない。

 何より、これは言うほどすごくないのだ。

 根気さえあれば誰でもやれることである、むしろそれだけやってようやく健輔は戦闘魔導師として戦うことが出来るのだった。


「そういえば……健輔、次の2チームはどうなんだい?」

「あーうん、そうだな」


 話題が落ち着いたのを見計らった圭吾が健輔に問う。

 最大の山場として健輔も前々から準備はしてきた試合。

 『魔導戦隊』と『アマテラス』の2連戦について尋ねてきた。


「一言で言うなら今まで戦ったチームとは明確に違う部分があるってことだな」


 次の2チーム、『魔導戦隊』と『アマテラス』だがどちらのチームにもこれまでのチームとは違う特徴があった。

 それは『クォークオブフェイト』が強豪チームとして名を連ねている理由の1つでもある。


「これまでと違うって何が?」

「優香は真由美さんから一緒に聞いたからわかってるだろうけど」

「はい。美咲と高島さんにもわかりやすく言うと……これまでのチームは言い方は悪いですが、真由美さんがいるこちらに比べると格下でした」


 『天空の焔』『明星のかけら』『ツクヨミ』、後は後半の試合になるが『賢者連合』『スサノオ』『暗黒の盟約』ここに健輔たちと先の2チームを加えた合計9チームが今回の強豪チームとして注目されている。

 そして、その中でも健輔たちを含んだ3チームだけが持っている特徴が存在した。

 それは――


「上位10名が存在しているチームか、そうでないかって面で差がある」

「……なるほどね、真由美さん」

「そういうことだな。『魔導戦隊』にも『アマテラス』にもいるんだよ。上位10名に入る魔導師がな」


 上位10名、世界ランクでそこに入った魔導師たちを有するチームそれが『魔導戦隊』、『クォークオブフェイト』、『アマテラス』になる。

 国内ではこの3チームしかないのだ。 

 『アマテラス』に所属しているのは分かり切っていた。

 優香の姉にして国内最強魔導師にして、世界第2位の魔導師九条桜香その人である。

 そして、健輔たちには頼れるリーダーにして、チームの攻撃の柱たる近藤真由美がいる。

 圭吾も美咲もそして健輔、優香も各々努力を重ねている素晴らしい魔導師たちだ。

 1年生とはいえ能力に疑うべき部分は存在しない。

 彼らだけでなく2年生たちも含めて全員の力があったからこそのこれまでの勝利なのは間違いない。

 それでもスターの存在は大きいのだ。

 明確な差として生きてくる。

 無論、10位に入っていないのが弱いというわけではないが、感じる圧力が違うのだ。

 桜香、真由美、この2人については彼らも既によく知っていた。

 残るは後1人となる。


「第7位『魔導長官』まあ、『司令官』とも言うか。とりあえず、隊長とか言われてる人がいるんだがこの人がめんどくさいらしいんだよな」

「次のミーティングで詳しいことは教えてくれるらしいですが」

「なるほどね……。今度は敵にも真由美さんがいるって考えるとわかりやすいわね」

「ああ、そんな感じだな。ま、魔導戦隊はまだ楽な部類だけどな」


 今度の敵には真由美がいる。

 美咲の言葉は的確な表現だった。

 真由美に劣らぬ魔導師が1人いる。

 それがどれだけ恐ろしいことかは春・夏と彼女にボコボコにされてきた健輔が誰よりもよく知っていた。

 同時に相手はまだ真由美レベルだと言うことは安心できる要素でもある。

 桜香のように明確にこちらを上回っていないだけまだマシ、ということなのだから。


「どちらにせよ、今までと同じじゃダメだろうな」

「ええ、自分たちを打ち破るほどの覚悟が必要だと思います」

「……だな」

 

 優香たちにはまだ言っていないが健輔にはもう1人、警戒しなければならない相手がいる。

 正秀院龍輝――自分と同じ万能系の魔導師。

 今まで健輔は相手に力で負けることはあっても手数で負けることは1度もなかった。

 真由美相手でも、葵が相手でも。

 それはハンナや香奈子、クラウディアでも変わらない。

 相性が悪く、勝利は出来なかったが立夏相手にも劣らなかった。

 多くの強敵と戦いただの1度も対応力では負けてこなかったのだ。

 しかし、今度ばかりはそうも言えない。

 相手は同じ万能系。

 相手がどのように万能系を使ってくるのかはわからない。

 もしかしたら、同じような戦い方かもしれないし、まったく違うものかもしれない。

 『魔導戦隊』は特異な戦い方をしているチームなので情報が集めづらいのだ。

 1年生のたった1人をピンポイントで集めるにはやはり試合を見に行くしかない。


「ああ、楽しみだよ。本当に――」

「健輔さん? 皆さん行かれますよ」

「っ、おお、わりぃ」


 昼休みは終わり、午後の授業が始まる。

 自分を映す鏡となるのか、それとも別の可能性なのか。

 どちらになろうともきっとぶつかることは避けられない。

 万能系は自分こそが1番だと言う誇りがあるのだから。

 優香にとっての桜香に当たる、健輔のまだ顔も知らないライバル。

 夏にその存在を知ってから意図的に接触を避けていたがついに対面する時が来る。

 きっと相手も同じ思いだろう、と健輔はまだ見ぬ相手に思いを馳せるのだった。


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