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総合魔導学習指導要領マギノ・ゲーム  作者: 天川守
第3章 秋 ~戦いの季節~
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第85話

 砲撃が脇を掠める。

 目に自信があろうとも遥か彼方から放たれた砲撃を避けることなどできない。

 クラウディアや加奈子との戦いで光速の1撃を避けれたのは射線を自身にとって都合が良い方向へと誘導していたからだ。

 小細工なく正面から殴り合った時に健輔は限りなく無力に近くなる。


「ッ、おらあああ!」


 障壁が破壊されそうになる直前でなんとか離脱に成功した。

 油断、慢心、少し気を緩めると直ぐに消耗してしまう。

 自分のこととはいえ、もう少し強くても良いだろうと思う。


「まあ、圭吾が行けたから良しとしよう」


 妃里、圭吾そして健輔というあまり行われない組み合わせでの試合は新鮮味があった。

 相手チームの教科書通りの綺麗な砲撃に足を取られてしまったが、最低限の目的は既に達している。

 ここで健輔1人が遅れようとも全体としては問題なかった。


「少し悲しい話だけどな」


 魔導師としての己、戦力としての自分を考えた時、健輔ならば便利屋として使う。

 真由美は遊撃と言うポジションで健輔を使っているが主力として考慮に入れている辺り気を使ってくれているのはわかっていた。

 使い捨て、言い方は悪いがそういうポジションでも構わないのだ。

 特徴がない健輔はどんな時でも安定して戦える半面、ここぞという場面も存在しない。

 あの手この手で存在感を発揮しようと努力しているが、本質的な改善は難しかった。


「はあ……。試合中に考えることじゃないな」


 苦笑しながら余計な思考を追い出す。

 格下なのは間違いないが油断など微塵もできない。

 そのような贅沢な立場と自身は無縁なのだから。


「さて、いくか」


 遥かな格上、学園の頂点を如何にすれば下せるのか、出口のない思考の迷宮を健輔は歩む。

 自分ではまだ届かないと悟っているがために――






「今日は元気がなかったね。何かあったの?」

「あん? いや、そんな風に見える?」

「試合なのに妙に大人しくてびっくりしたよ。雨でも降るかと思った」


 学校終わりに珍しくまっすぐ帰宅した彼らは健輔の部屋で何をするではなく寛いでいた。

 今日1日、どこか上の空である親友に圭吾は問いかける。

 悩んでいてもそう言った素振りは周りに見せないのが健輔であったが、今回外に出てしまっている辺り重傷だと言えるだろう。

 優香がちらほらと心配そうな顔をしていたのも気付いていないだろう。

 人の機敏には特定分野以外では聡い親友が機能不全を起こしているのだから心配する。

 今も軽く誤魔化しているが、思った以上に重傷だったことに圭吾は驚いていた。


「あー、まー、その、なんだ。あんまりかっこいい悩みじゃないんだよ」

「語るに落ちてるよ。悩みがあるなら言ってみなよ。よく言うでしょ。『人に言えば楽になる』ってさ」

「あー。まあ、あれだよ。才能的な感じで悩んでるだけだ」

「才能、ね。またまた唐突だね。九条さんと何かあったの?」

「……なんでそこで優香が?」

「才女と言えば彼女でしょ。後、図星を突かれた時に目を逸らす癖、直した方がいいよ」


 ぐっ、と苦い物を食べたような表情をした後、大きく溜息を吐く。

 長年の親友同士、健輔が圭吾をよく知っているようにその逆もまた、よく知られていた。

 圭吾と違いプライベートで隠し事が出来るほど健輔は器用ではない。

 健輔の器用さは戦場に極振りされているのだ。

 それがよかったのかは健輔だけがわかることだろう。


「優香は関係しているけど本命ではないな」

「となるとお姉さん、か。確かに才能で悩む話だよ」

「ああ、優香があれだけ自分に自信がないのも頷ける。比較対象が悪すぎる」

「傍から見てる僕らでもあれだからね。なんというか神様は不公平だと思うよ」


 才能、特別云々おそらく誰もが人生で1度程度は悩むことだろう。

 健輔はもはやそのラインについてはある程度割り切れているし、圭吾もその辺りはドライだった。

 出来ない、足りないなどというのは普通のことなのだから深く考えても仕方ないだろうと程度は違えど2人は思っている。

 それに対して優香は違う。

 己の不徳、未熟、努力が足りない。

 言葉はなんでも良いがなまじ血が繋がっていて本人も秀才ラインを超える程度には恵まれていた故に割り切りが出来ていない。


「お姉さんに負けるのはその、なんだ別に悪いことではないんだがな」

「この辺りは人それぞれだしね。何が何でも1番に行きたい人もいるだろうし」


 不正や、反則などを使っても上に行きたいという人間もいるため一概に語るわけにはいかないが少なくとも優香はその類ではない。

 しかし、このまま1人で桜香に当たらせても普通に砕け散ってしまうだけで優香の心が折れてしまう。

 勝てない、劣っていると認めてしまうとあの手のタイプはドツボに嵌り浮上してこないだろう。

 健輔が悩んでいるのはそこであった。


「弱気になるかもしれんがはっきり言っていいか」

「うん、大丈夫だけど」

「部長が考えてることはわからないし、確定事項ではないことをこういう風に言うのもあれだが、『アマテラス』に勝てる可能性低すぎるだろ」

「それは……」

「やるからには全力だけどな。勘違いすんなよ? 勝てないってわけじゃなくて可能性の問題だ」


 桜香の存在が対『アマテラス』では重く圧し掛かる。

 彼女の何が厄介なのか。

 強いということが厄介なのは当然だがただ強いだけなら香奈子のように対応方法はあるのだ。

 要は実力をうまく発揮させなければ良いのだから。

 桜香の最大の問題は一切の嘘偽りなく万能過ぎることである。

 系統が5つある時点で対応できない距離が存在せず、番外能力で息切れもしない。

 不意を突こうにも固有能力が存在しているため、万全にならない。


「遠距離だったら部長がある程度は競れる。だけど近距離だと葵さんと優香、後は俺か。そこら辺でも普通に5分持たないぞ」

「葵さんは対人特化だけど汎用性が桁違いすぎるからね。正面対決は分が悪いだろうね。武器のリーチの差もここで出てくる」

「優香ははっきり言って下位互換だ。弱くはないが単体では勝てない」

「連携もね……。2人で掛かれば倒せる! ぐらいの相手だったら『最強』なんてつかないよね」


 『明星のかけら』が1敗のリスクを飲み込んだのもよくわかる厄介さだ。

 基本ルールや陣地戦などの正面から当たるタイプの試合はきつい。

 返ってレース戦やポイント戦だと、3回の合計などで競うため、正面から桜香と戦う事が避けられるのだ。

 敗北数が多い側が対決ルールを選択できる。

 このメリットを活用して『アマテラス』を敗北させて決定戦に持ち込むのも戦略だった。

 

「でもなー。どうしても正面から勝てるようにする必要があるんだよ」

「脇に逸れても根本的な解決になるわけじゃないからね」

「ま、それで悩んでただけだよ。――俺が最強にどこまで食い下がれるのか、ってな」

「そっか。微力ながらも僕も考えておくよ。僕たちにはまだ2年あるけど、真由美さんたちは今年で最後だ。なんとかして上げたいしね」

「――ああ、そうだな。まったくだ」


 直前で考えるのでは遅い。

 たとえ、それが素手で熊に立ち向かうような無茶でも意地で通さないといけない時が来るのだ。

 考えることは必ず武器になる。

 そう信じて2人は日が落ちるまで熱く語り合うのだった。




「はい、ご苦労様です。調子はいいですよ。前よりも安定してきました」

『ありがとうございます』


 叢雲のラボで彩夏が優香の検診を行っていた。

 ようやく安定した過剰収束能力『オーバーリミット』第2ステージの経過を見るためである。

 事前に類似の症例から能力は推定されていたが発現してみないとわからないこともある。

 1時間ほどかけた検査により、第1ステージでは問題になっていた残留魔力の問題や身体への影響が大きく低下していることが確認された。


「やはり、1度安定すると素晴らしい数値になりますね」


 調整槽の中で身体を休める優香を見て微笑む。

 彼女が望んだ水準にようやく到達したことに担任として喜びを感じていた。

 同時にここから来る試練も予期していたが。


「人生とは例え全力を出せてもどうにもならないこともありますからね」


 生徒の苦難をいくらか減らせるようにするのが彼女の仕事である。

 効率的な練習メニューなどを伝えることから始めよう。


「まずはこれを完全に制御下におかないといけませんね」


 今はまだ優香が精神的に疲労したりすると暴走する可能性がある。

 里奈から聞いたところによると健輔が何かしらの準備を行っているらしいので左程心配はしていなかったが、非常策を生徒任せにしていることは問題だろう。


「九条さん、もういいですよ。着替えてこちらに来て下さい」

『わかりました』


 優香が出れるように機械の操作を行う。

 同性の彩夏からしても溜息が出る様な裸体である。

 よく健輔はあれほどの美少女とほぼ単独で親しく接していて気にならないものだった。

 

「勘違いして変なことをされるよりはいいんですけどね」


 コーヒーを入れて優香を持て成す準備を始める。

 能力についてもそうだが現在の精神状態を把握しておく必要がある。

 カウンセリングもどきだが優香はそこまで大きな精神的外傷を受けているわけではないので彩夏でも十分に勤まる。


「――はい、どうぞ」

「失礼します」


 コンコン、と控え目にノックされた音に優しく返して彩夏は優香を出迎えた。


「お疲れ様です」

「いえ、こちらもお手数お掛けしました」

「座って下さいね」


 彩夏の指示に従い優香はソファーに腰を下ろす。

 ラボに備え付けられた仮眠室のようなものは彼女が想像するものよりも設備が良いらしく綺麗に整えられていた。


「まずは能力の掌握、おめでとうございます」

「ありがとうございます」


 祝福してくれる恩師に優香は丁寧に頭を下げる。

 情けないことに地力で覚醒できず、健輔の献身あってのものだったが、ならばこそ彼女はその結果に胸を張っていた。

 1人だけでは不可能なことをやり遂げたのだからそれは偉業だろう。

 優香の中に健輔への感謝と、そして自身の不甲斐なさという相反するものが渦巻いていた。

 

「今後も経過は見守りますが、以前よりも切迫した状況になることはなくなりそうです。ただ、油断をすると初発現時と同じ様なことも起こりえますので、そこは忘れないで下さい」

「……はい」

「どれほど素晴らしい技術でも使い方を間違えれば自分だけでなく、周りの人も傷つけます。あなたには言うまでもない事でしょうけど、改めて胸に刻んでください」

「ありがとうございます。――決して忘れません」


 身体の中から何かが飛びだそうとした恐怖、級友をこの世界から追い出してしまった責任。

 全て自身の未熟さだと彼女は深く悔いている。

 姉に劣る自分が姉以下の努力でうまくやれるわけがなかったのだ。

 あれはそんな己が招いたことだと、彼女は健輔が危惧(・・)したとおりに勘違いしていた。

 優香がこのように思っている限りまた似たような何かで彼女は自罰するだろう。

 自分の手が及ばない範疇まで責任を持とうとするのは、自意識過剰などというものではにない。

 はっきり言ってただのアホだとも言える。

 優香の勘違いは桜香がスタンダードだと思っていることだ。

 例外を基準にしてしまえば全てが狂うに決まっている。


「今後も経過は見ていきます。めんどくさいとは思いますが協力お願いしますね」

「よろしくお願いします」

 

 表面化するほどの問題ではないとも言えるが、それ故に性質が悪いものでもあった。

 困ったことに本当に姉が大した人物であり、優香自身も平均を大きく超えているからこそ勘違いは正されない。

 普段は問題にならないから良いが万が一があるといけない、それが健輔の思いだった。

 魔導はかなりの部分が解明されているとはいえ、まだまだわかっていないことも多いのだから。


「そういえば、今度『ツクヨミ』と戦うのですよね?」

「次の次がそうですね」

「あそことの戦いは面白いですから、期待しているといいですよ」

「面白い、ですか?」

「ええ、こればっかりは戦ってみないとわからないんですよね」


 問題はあれど人間そんなもののため、逆に言えば優香も普通だと言えるかもしれない。

 大多数の問題を地力で解決出来る故に自分だけでは解決不可能な巨大な問題だけが残ったとも考えられるのだ。

 姉が所属する『アマテラス』には強い関心を抱いているがそれ以外に関しては途端に興味が下がってしまうのもこの辺りの問題が関わっていた。

 健輔たちと交流するようになってからマシにはなっているのだ。

 以前は学校と寮で魔導の練習しかしていなかったのだから、真面目なのも時には考えものである。


「面白い、ですか?」

「私も里奈とは試合で仲良くなりましたから。なんというか、九条さんは学生時代の私によく似ていますから」

「似ている、ですか?」


 そう言った問題点も含めて、教師たちは先輩でもあった。

 彩夏は自信を持って、優香に微笑む。


「ええ、私も昔は真面目すぎる、とよく言われてましたから」

「それは」


 最近、優香が健輔などからよく言われていることだった。

 その事を告げると彩夏が嬉しそうに笑う。


「やっぱり、私たちのような人間の周りには似たようなお節介焼きが集まるのですかね」

「先生?」

「いいえ、良いチームメイトに恵まれましたね」

「あ、はい。これも先生のおかげです!」


 優香に過去の己を投影しながら彩夏は笑った。


「きっと、いつか必ずあなたにとってこの出会いは大切なものになりますよ」

「え、はい、そう、そうですね」

「ふふ、今はまだわからなくて大丈夫ですよ」


 面白い戦い、ツクヨミとの戦いに少し興味を感じ、優香はその日を楽しみに待つ。

 その後は真面目な話から彩夏や里奈の過去の話へと移り変わっていく。

 いつの時代どんな時でも、女性はおしゃべりが大好きだった。


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